露見
テントの中は、外よりも少し暗かった。
薄い布越しに光が差し込んで、ぼんやりとした影を作っている。
「いらっしゃい」
奥から声がした。
低くも高くもない、妙に落ち着いた声。
中には、同じ学校の生徒らしい男子生徒が一人だけ座っていた。黒い布を肩にかけて、それっぽい雰囲気を出している。
「二人で入っていい?」
つばきが軽く聞く。
「どちらでも」
そいつは淡々と答えた。
「じゃあ、わたし先いい?」
「どうぞ」
つばきが椅子に座る。
俺は少し後ろに立ったまま、その様子を見る。
占いなんて、どうせ適当だ。
そう思っていたはずなのに────
胸の奥が、妙にざわつく。
さっきから図星をつかれているからだろうか。
「名前は?」
「つばき」
「ふむ」
紙に何かを書きながら、少しだけ目を細める。
数秒の沈黙。
それから、
「あなたは、そのままですね」
「は?」
つばきが眉をひそめる。
「どういう意味?」
「言葉通りです。なにも変わっていない」
あっさりと言い切る。
「……それだけ?」
「はい」
少し間を置いてから、
「強いて言うなら、外と内が一致している人です」
つばきは、きょとんとした顔をしたあと、
「なにそれ、普通じゃん」
つばきは小さく笑った。
「そうですね。普通です」
淡々と返す。
そのやり取りを見ながら、
胸のざわつきが、少し強くなる。
────外と内が一致している。
じゃあ、俺は?
「はい、次」
視線が、こちらに向けられた。
「……ああ」
気づけば、椅子に座っていた。
距離が近くなる。
その目と、真正面から合う。
「名前」
「……」
一瞬、言葉に詰まる。
「………とおる」
「はい。」
軽く流された。
ペンが紙の上を走る音だけが、やけに大きく響く。
「───あなたは」
その手が止まる。
「珍しいですね」
「は?」
思わず聞き返す。
「普通は、多少のズレで済むものですが」
ゆっくりと顔を上げる。
その目は、さっきまでより少しだけ鋭かった。
「あなたの場合、ほとんど一致していない」
「……なに言って」
「外と内が、別人のように乖離している」
ドクンドクン
心臓が、強く鳴っている。
つばきの言葉と、重なる。
「中身が違う人みたい」
「……違う」
反射的に否定する。
でも、
「どこが?」
静かに返される。
逃げ場のない問い。
「あなたは、あなたである自覚が薄い」
「は……?」
意味が、わからない。
いや、わかりたくない。
「記憶と認識が、噛み合っていない」
その一言で、
頭の奥が、強く痛んだ。
「っ……!」
思わず額を押さえる。
視界が、ぐらりと揺れる。
────「なにも見てないくせに。」
一瞬、つばきの声が蘇る。
「……まさか」
占いのやつが、小さく呟いた。
「心当たりがあるのですか」
「……ない」
即答した。
でも、その声は震えていた。
「そうですか」
それ以上は追及してこなかった。
ただ、最後に一言だけ。
「気をつけてください」
「……なにを」
「このままだと」
一拍置いて、目の前の男は言う。
「本来のあなたに、戻れなくなる」
────その言葉が、
妙に現実味を持って、胸に沈んだ。
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