文化祭
「ほら…行くよ」
つばきの言葉で会場まで向かった。
体育館の中は、思ったより暗かった。
舞台だけに光が集まっていて、客席は少しざわついている。
空いている席を見つけて、並んで座る。
「……近いな」
思わず小さく呟く。
「人多いからでしょ」
つばきは気にした様子もなく、前を向いた。
その横顔を、少しだけ見てしまう。
……やっぱり
どこか違う。
でも、目を逸らせない。
やがて、照明が落ちる。
ざわつきが、すっと静まった。
幕が上がる。
物語が始まる。
演者たちの声が、体育館に響く。
少し大げさな動きも、文化祭らしくて。
笑い声が起きる。
隣で、つばきがほんの少しだけ笑った。
その一瞬に、胸が締め付けられる。
……こういう顔、するんだな
知らなかった。
いや、知ろうとしてなかったのかもしれない。
舞台の上では、美女と野獣が出会うシーンに入っていた。
「本当のあなたを知りたいの」
セリフが、やけに耳に残る。
……本当の、か
無意識に、隣を見る。
つばきは真剣な顔で舞台を見ている。
その横顔が、少し遠く感じた。
「……なあ」
小さく声をかける。
「なに」
目は舞台のまま、短く返事が返ってくる。
「お前ってさ」
慎重に言葉を選ぶ。
「……変わったよな」
数秒の沈黙。
「どういう意味」
「いや、その……」
うまく言えない。
でも、もう引き下がれなかった。
「前と、ちょっと違うっていうか」
つばきはゆっくりこっちを見た。
暗くて、表情ははっきり見えない。
けど。
「……そっちこそ」
つばきが静かに言った。
「なんか変だよ」
「え」
思わず聞き返す。
「前は、そんなこと気にする人じゃなかった」
「……前って、いつの話だよ」
無意識に返していた。
つばきは少しだけ目を細める。
「さあ」
それだけ言って、また前を向いた。
舞台では、ちょうどクライマックスに差し掛かっていた。
でも、内容が頭に入ってこない。
なんだよ、それ……
────前の俺?
そんなの、俺は——
知らない。
ざわ、と胸の奥が揺れる。
まるで、自分だけが置いていかれているみたいで。
舞台の拍手が、遠くで鳴った。
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