気づき
文化祭当日。
朝から学校は、いつもと違う空気に包まれていた。
廊下には派手な装飾。
教室からは笑い声と、軽い音楽。
どこもかしこも浮ついていて、
現実なのに、どこか現実じゃないみたいだった。
「……」
ぼーっと立っていると、
「何してんの」
振り向くと、つばきがいた。
いつも通りの冷たさ。
でも今日は、どこか少しだけ柔らかく見える。
「行くよ。“美女と野獣”」
「ああ」
つばきと並んで歩き出す。
人が多くて、自然と距離が近くなる。
肩が触れそうで、触れない。
それだけで、変に意識してしまう。
「……混んでるな」
「文化祭だからね」
素っ気ない返事
でも、その声が妙に安心する。
……やっぱり、違う
俺の知ってるつばきと、
目の前のつばきは、少し違う。
優しいはずなのに、少し冷たい。
でも、冷たいはずなのに、ちゃんと気にかけてくる。
矛盾してるのに——
目が離せない。
「ほら、あれ」
つばきが指さした先に、体育館。
『美女と野獣 開演まであと3分』
人が集まっている。
「ギリだな」
「間に合う?」
「いや、大丈夫だろ」
そんなやりとりをしながら、列に並ぶ。
少しの沈黙。
ふと、横を見る。
「……なあ」
「なに」
「お前さ」
言いかけて、言葉が止まる。
本当の君を知りたいなんて、
こんなとこで言えるわけない。
「……なんでもない」
「なにそれ」
つばきが少しだけ眉をひそめる。
───その困った顔が君の姿に重なって
「……お前ってさ」
今度は、自然と口が動いた。
「前より、ちょっと口悪くなったよな」
「は?」
一瞬、空気が止まる。
「あー……いや、その」
やばい、と思ったとき。
「……なにそれ」
つばきは少しだけ、笑っていた。
「前の私って、どんな感じだったの」
「え」
聞き返される。
「ほら、言ってみなよ」
逃げ場がない。
視線を逸らしながら、口を開く。
「……もっと優しくて」
「うん」
「ちゃんと周り見てて」
「へぇ」
「……今より、柔らかかった」
沈黙。
流石に言いすぎた、
かと思った、そのとき。
「そっか」
つばきは、あっさりそう言った。
意外だった。
怒るでもなく、否定するでもなく。
ただ、少しだけ遠くを見るような目で。
「……でもさ」
小さく、続ける。
「それ、前の私じゃなくて」
つばきと目が合う。
「あんたの中の私でしょ」
「——っ…」
何も言い返せなかった。
図星だった。
俺が見てたのは、
ただの理想だったのかもしれない。
自分の中で作った、理想の君
「……ほら、入るよ」
つばきはそれ以上何も言わず、前を向いた。
列が動き出す。
その背中を見ながら、思う。
……やっぱり異世界なんかきていない。
俺、全然知らないのかもしれないな
本当のつばきを。
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