違う君との約束
焦って咄嗟に出た言葉は──
「…文化祭、回りませんか。」
少し困ったような顔でつばきが言う。
「別にいいけど、それだけ?」
「えーと、どのクラスを回りたいかとか聞いとこうと思って。」
少し悩んだ末に出た答えは、単純なものだった。
ここにいるのは君じゃないと思った俺には、もう怖いものなんてなかった。
「意外と気遣えるところあるんだね。」
振り返ると、いじわるそうな顔で俺を見ていた。
何か言おうか迷ったその時、つばきはぽつりと言った。
「ドーナツとクレープかな。」
「つばきって、かわいいところもあるんだな。」
いくら何でも、失言した。
君と名前が同じだけで、君じゃない人にかわいいと安易に言ってはならないと──俺も流石にわかってる。
おそるおそるつばきを見ると、頬を赤らめていた。
「つばきごめ…」
「ばか!どうせ君も私の事何も知らないくせに」
そう言って、つばきは俺の前から姿を消した。
消えたつばきの姿を見つめながら、俺はしばらく立ちすくんでいた。
まるで昨日のことも、頭を打ったことも、全部夢だったみたいに感じる。
後悔を感じながらも学校に着く。
ほかの友達はいつも通りなのに、つばきだけが違う。
君じゃない。
「……はぁ」
ため息をつくと、背後から声がした。
「ぼーっとしてる暇あるの?」
振り返ると、つばきが、さっきとは少し違う表情で立っていた。
少し眉をひそめて、でも目は真剣。
「……あ、いや、なんか考え事を」
言い訳めいた言葉しか出てこない。
やっぱり、ここにいるのは本物の君じゃない。
名前が同じで、顔が似ているだけの───
でも、確かに存在するつばきだ。
「考え事って、文化祭のことでしょ?」
小さく笑ったように見えた。
でもその声には、いじわるな響きが少し混ざっていた。
「君も行きたいとこ考えときなよ。」
そういって、つばきは俺の前からまた姿を消した。
友達と話しているつばきをみると俺が好きだった君と姿が重なる。
俺はなにか、間違えてないか。
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