触れない距離
雨は、なかなか止まなかった。
「……やまないね」
つばきが空を見ながら言う。
「だな」
答えながら、
少しだけ横を見る。
近い。
さっきよりも、ほんの少しだけ近い距離。
「……」
言いたいことが、
喉のあたりまで来てる。
でも、まだ言わない。
「……ねえ」
つばきが小さく言う。
「なに」
「さっきのさ」
視線は前のまま。
「嫌じゃなかったってやつ」
「……」
一瞬、息が止まる。
「……あれ」
つばきが少しだけ笑う。
「忘れてないでしょ」
「……まあ」
正直に答える。
「……」
つばきは少しだけ黙って、
「……ああいうの」
小さく言う。
「前のあんたなら、しなかったよね」
「……」
確かにそうだ。
あのときは、考えるより先に動いてた。
「……今は違うってこと?」
続ける。
「……違うな」
はっきり言う。
「……どう違うの」
「……」
少し考える。
でも、
逃げる気はなかった。
「前は」
ゆっくり言う。
「適当に一緒にいた感じ」
「……」
「でも今は」
つばきを見る。
「ちゃんと一緒にいたいって思ってる」
「……」
つばきの目が、
少しだけ揺れる。
「……」
沈黙。
雨の音だけが響く。
「……それってさ」
つばきが小さく言う。
「どういう意味?」
「……」
分かってる。
ここで言えば、
全部はっきりする。
でも——
「……そのままの意味」
少しだけ、逃げる。
「……」
つばきがこっちを見る。
「……ずる」
ぽつりと呟く。
「……は?」
「分かってて言ってるでしょ」
「……」
言い返せない。
「……」
少しだけ距離が近づく。
本当に、
ほんの少し。
「……言えばいいのに」
つばきが言う。
「……」
心臓がうるさい。
「……今じゃない」
やっと出た言葉。
「……なんで」
「……」
少しだけ笑う。
「ちゃんと見てからって決めたから」
つばきが黙る。
「……なにそれ」
小さく言う。
でも、その声は、怒ってはいなかった。
「……」
少しだけ、
時間が流れる。
「……」
つばきが、
ゆっくり息を吐く。
「……ほんと、めんどくさい」
「ひど」
「でも」
少しだけこっちを見る。
「前よりいい」
「……」
またその言葉。
でも今は、
少しだけ意味が違う気がした。
「……」
雨が、少しだけ弱くなる。
「……やみそう」
つばきが言う。
「だな」
「……」
でも、
どっちも動かない。
「……」
あと一歩。
本当に、
あと一歩。
でも、その一歩を、
あえて踏み出さない。
「……」
つばきが、
少しだけ近づく。
肩が、
ほんの一瞬、
触れそうになる。
「……」
けど、触れない。
「……帰るか」
つばきが言う。
「……ああ」
頷く。
雨は、ほとんど止んでいた。
バス停を出る。
さっきより、
少しだけ遅い歩幅で。
「……」
並んで歩く。
距離は、
変わらない。
でも、
確実に——
次に進む準備は、
できていた。
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