雨宿り
コンビニを出て、
少し歩いたところで、
ぽつ、と。
何かが当たった。
「……あれ」
顔を上げる。
空が、少し暗い。
「雨?」
つばきが呟く。
次の瞬間、
ぽつぽつと、水滴が落ちてくる。
「……マジか」
「最悪」
つばきが顔をしかめる。
「傘ある?」
「ない」
「俺も」
「……」
一瞬、沈黙。
その間にも、
雨は少しずつ強くなっていく。
「走るぞ」
「は?」
「濡れるだろ」
「もう濡れてる」
「いいから」
つばきの手首を軽く掴む。
「ちょっ——」
そのまま走り出す。
「待ってって!」
後ろから声がする。
でも、
ちゃんとついてきてるのが分かる。
「……っ」
少し先に、
バス停が見える。
屋根付き。
「あそこ!」
指をさす。
「見えてる!」
雨が強くなる。
足音と、
水の音が混ざる。
バス停に滑り込む。
「……はあ、」
息を吐く。
「……急に走るなって」
つばきが肩で息をしながら言う。
「仕方ないだろ」
「……」
少しだけ濡れた髪。
頬に張り付いてる。
「……」
なんとなく、
目を逸らす。
「なに」
またバレた。
「見てたでしょ」
「……見てない」
「嘘」
さっきと同じやりとり。
でも、
少しだけ距離が近い。
「……」
雨音が、強くなる。
屋根に当たる音が、
やけに大きく響く。
「……さ」
つばきが小さく言う。
「なに」
「こういうのさ」
外を見ながら、
「前なら、なかったよね」
「……」
確かに。
前なら、
こんな風に一緒に走って、
こんな距離で並ぶこともなかった。
「……ああ」
素直に頷く。
「……」
少しだけ沈黙。
でも、
嫌な感じじゃない。
「……ねえ」
つばきが言う。
「なに」
「さっきの続き」
「……どれ」
「分かるでしょ」
少しだけこっちを見る。
「……」
アイスのときの話。
“前だったら”のやつ。
「……今だから、ってやつか」
「そう」
「……」
少しだけ考える。
雨音が、
時間をゆっくりにする。
「……今だから、だな」
はっきり言う。
「……」
つばきが黙る。
「前だったら」
続ける。
「お前のこと、ちゃんと見ようとも思ってなかったし」
「……」
「こうやって一緒にいるのも、たぶん当たり前にしてた」
「……」
「でも今は」
少しだけ言葉を選ぶ。
「当たり前じゃないって分かってる」
「……」
つばきが、ゆっくりこっちを見る。
目が合う。
「……」
逸らさない。
「……そっか」
小さく言う。
その声は、
少しだけ柔らかい。
「……」
また沈黙。
でも、
今度は少しだけ、
近い沈黙。
「……手」
つばきが突然言う。
「は?」
「さっき掴んだじゃん」
「ああ」
「……別にいいけど」
少しだけ視線を逸らしながら、
「急にやるのやめて」
「……悪い」
素直に謝る。
「……」
つばきが少しだけ笑う。
「……でも」
続ける。
「嫌じゃなかった」
「……」
一瞬、思考が止まる。
「……え」
聞き返す。
「聞こえたでしょ」
「いや、もう一回」
「やだ」
即拒否。
「……」
でも、
顔は少しだけ赤い。
「……」
雨音が続く。
距離は、
変わらない。
でも、
空気が少し変わる。
「……」
言いたいことが、
浮かんでくる。
でも、
まだ早い気もする。
「……」
つばきも、
何か言いかけて、
やめている。
「……」
あと一歩。
でも、その一歩が、
まだ遠い。
「……やむかな」
つばきが空を見る。
「そのうち」
「……そっか」
小さく頷く。
「……」
並んで立つ。
近い距離。
触れそうで、
触れない。
「……」
でも、前よりは確実に、
その距離は——
縮まっていた。
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