曇り硝子
重たいまぶたを、ゆっくりと持ち上げる。
視界に広がったのは、本が散らばった自分の部屋
「……あれ、なにがあったんだっけ」
体を起こそうとすると、頭に鈍い痛みが走った。
思わず顔をしかめる。
――そうだ、地震。
部屋が揺れて、本が落ちてきて――
とりあえず、明日の手紙を書いて寝よう。
ーー翌日
「いってきます」
家のドアを開けたその時、
「遅いよ」
そこにいたのは、、君だった。
そういえば、手紙を渡すために
一緒に登校する約束をしていた。
「……え」
君は、
髪の流れ方も、目の形も、立っているだけでどこか目を引く感じも。
なのに。
「何その顔。気持ち悪い」
吐き捨てるような声に、思考が止まる。
こんな言い方、君はしない。
今までの君じゃない。
「……誰だよ、お前」
「質問に質問で返すの、やめたら?頭悪く見えるよ」
淡々と、容赦なく言い切られる。
似ているはずなのに、まるで違う。
君の魅力だった、優しさなんて、どこにもない。
「……なんで、そんなこと言うんだよ」
「事実だから」
即答だった。
一歩、こちらに近づいてくる。
「だってあんたさ、何も見てないでしょ」
「は?」
「見た気になって、わかった気になって。
そのくせ“好き”とか言ってる」
胸の奥を、何かでえぐられたみたいだった。
「……違う」
反射的に否定する。
けど、それは俺の不安を消すための嘘。
その言葉はやけに軽くて。
「どこが?」
間髪入れずに返される。
逃げ場なんて、最初から用意されていなかったみたいに。
「本当に、その人のこと見てたって言えるの?」
その問いに、言葉が出なかった。
頭の中に浮かぶのは、あの便箋に並べた言葉たち。
やさしくて、笑顔が素敵で、みんなに好かれていて――
「ほらね」
小さく、笑った気がした。
冷たいのに、どこか見透かすような笑い方だった。
「やっぱり、私の事、何も知らないじゃん」
その一言が、やけに重く響いた。
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