帰路
帰り道。
文化祭の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。
並んで歩く。
いつもと同じはずなのに、
どこか違う。
「……」
さっきのことが、頭から離れない。
言った。
手紙を渡した。
ちゃんと、見た上で。
でも、
「……」
それで終わりじゃない。
むしろ、
ここからが始まりみたいだった。
「なあ」
声をかける。
「なに」
つばきは前を見たまま答える。
「……さっきの」
言いかけて、止まる。
何て言えばいいかわからない。
「……なんでもない」
結局、引っ込める。
「は?」
つばきが少しだけ振り向く。
「言いかけたじゃん」
「いや、別に」
「なにそれ」
少しだけ不満そうな声。
でも、
それ以上は追及してこない。
「……」
沈黙。
でも、
前みたいな重さはない。
少しだけ、
落ち着かないだけの沈黙。
「……あのさ」
今度は、つばきが口を開く。
「なに」
「さっきのやつ」
便箋のことだと、すぐに分かる。
「……うん」
「ちゃんと考えて書いたんでしょ」
「ああ」
「……そっか」
それだけ言って、
また前を向く。
「……」
何か言いかけて、
やめたようにも見えた。
「……なんだよ」
思わず聞く。
「別に」
「絶対なんかあるだろ」
「ないって」
少しだけ笑う。
でも、その笑い方は、
完全にいつも通りじゃない。
「……」
夕焼けが、少しだけ濃くなる。
影が長く伸びる。
「……さ」
つばきが、小さく言う。
「なに」
「今のあんたの方が」
少しだけ間を置いて、
「前より、いいと思う」
「……え」
思わず、聞き返す。
つばきは少しだけ顔を逸らして、
「だから」
ぶっきらぼうに言う。
「ちゃんと見てよ」
その言葉は、
中庭で聞いたときより、
少しだけ重かった。
「……ああ」
今度は、迷わず頷く。
その約束は、
前よりずっと、
現実的なものに感じた。
「……」
また、並んで歩く。
完全に何かが変わったわけじゃない。
でも、
確実に、
前とは違っていた。
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