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恋の2度見  作者: 乃菜
17/31

手渡し

人混みの中を歩きながら、

何度も、ポケットに触れていた。

紙の感触が、やけに意識に引っかかる。


「……」


さっき書き直した言葉。


頭の中では、何度も読んでいるのに、


いざとなると、喉が詰まる。


「おい」


前を歩いていたつばきが振り返る。


「また止まりかけてる」


「……悪い」


苦笑して、少し早足になる。

その距離は、

さっきより近いはずなのに、



どこか落ち着かない。


「なあ」


声をかける。


「なに」


「……ちょっと、いいか」


つばきが眉をひそめる。


「なに、改まって」


「いいから」


自分でも、声が少し硬いのがわかる。


つばきは少しだけ考えて、


「……いいけど」


と、小さく頷いた。


人の流れから少し外れる。

校舎の陰。


さっきの場所とは違う、

でも少し似た、静かな場所。


「で?」


腕を組んで、つばきが見る。


逃げ場は、もうない。


「……これ」


ポケットから便箋を取り出す。


つばきの視線が、それに落ちる。


「さっき言ってたやつ?」


「ああ」


一瞬、迷う。


でも、ここで逃げたら、たぶんまた同じことになる。


「……読んでほしい」


差し出す。


つばきは少しだけ驚いた顔をして、


それから、受け取った。


紙を開く音が、やけに大きく聞こえる。


「……」


読む。


ゆっくり。


一行ずつ。


その間、

心臓の音だけが、うるさい。


「……」


つばきの表情は変わらない。


でも、


途中で、ほんの少しだけ目が止まったのがわかった。

長く感じた時間が終わって、


紙が閉じられる。


「……これ」


ぽつりと呟く。


「うん」


「さっきのより、全然違うね」


「……ああ」


「こっちの方が、あんたっぽい」


少しだけ笑う。


その言葉で、


少しだけ、力が抜けた。


「……で?」


つばきが顔を上げる。


「これ、誰に?」

さっきと同じ質問。


でも、


今は逃げない。


「……お前」


はっきり言う。


つばきの目が、わずかに揺れる。


「……は?」


「つばきに書いた」


沈黙。


さっきよりも、ずっと重い。


でも、嫌じゃない沈黙だった。


「……なんで」


絞り出すような声。


「さあな」


正直に言う。


「気づいたら、書いてた」


少しだけ、笑う。


「でもさ」


続ける。


「前のは、違った」


つばきを見る。

逃げずに。


「勝手に作ったやつだった」


「……」


「でも、これは」


少しだけ、息を吸う。


「ちゃんと見たやつ」


言い切る。


「お前のこと」


つばきは、何も言わない。


ただ、


じっとこっちを見ている。


「……」


沈黙。

長い。けど、今は逃げない。


逃げたくない。


「……変なの」


やっと、つばきが口を開いた。

でも、その声は───


少しだけ震えていた。


「今さら、そんなの」


「……ああ」


「遅いって思わないの」


「思う」


即答する。


「めっちゃ思う」

少しだけ、笑う。


「でも」


続ける。


「今じゃないと、無理だった」


その言葉に、


つばきの表情が、ほんの少し変わる。


「……」


また、沈黙。


でも今度は、


さっきまでとは違う。


何かを考えている沈黙。


「……さ」


つばきが、小さく言う。


「それ」


便箋を軽く持ち上げる。


「どうすんの」


「……どうするって」


「渡してくれただけ?」


視線が合う。

試すような目。


「……」


答えに詰まる。

本当は、


ここで言うべきなんだろう。


でも、


全部言い切るのが、少しだけ怖い。


「……まだ」


正直に言う。


「途中」


「……は?」


「気持ちも」


少しだけ、苦笑する。


「完全には、まとまってない」


つばきは一瞬だけ呆れた顔をして、


「なにそれ」


小さく笑う。


でも、その笑いは、


どこか柔らかかった。


「……でもさ」


続ける。


「さっきよりは、ちゃんと見えてる」


「……」


「だから」


少しだけ、間を置く。


「これからでいいか」


つばきを見る。


「ちゃんと、見ていくの」


まっすぐに言う。


つばきは、しばらく何も言わなかった。


風が、少しだけ吹く。


紙が、かすかに揺れる。


「……ほんと、変」


やっと出た言葉。


でも、


その声は、


さっきよりずっと、やわらかかった。


「……でも」


少しだけ、視線を逸らして、


「まあ、いいけど」


小さく言う。


「今さらだし」


「……ああ」


胸の奥が、少しだけ軽くなる。


「ほら」


つばきが背を向ける。


「行くよ」


「ああ」


並んで歩き出す。


さっきより、


少しだけ距離が近い。


完全に埋まったわけじゃない。


でも、


「……」


その距離は、


ちゃんと現実だった。


────────────────────


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