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恋の2度見  作者: 乃菜
16/32

書き直し

校舎裏の、人通りの少ない通路。


さっきまでのざわめきが嘘みたいに静かだった。


「……ちょっと待って」


気づけば、足を止めていた。

つばきが振り返る。


「なに」


「先、行ってていい」


「は?」


少しだけ眉をひそめる。


「すぐ行くから」


つばきは数秒こっちを見て、


「……変なの」


そう言い残して、先に歩いていった。


その背中が見えなくなるのを待って、


ポケットに手を入れる。


紙の感触。


ゆっくりと取り出す。


何度も折り直された便箋。

少しだけ、しわが増えている気がした。


「……」


開く。


そこには、


見慣れた自分の字。


『やさしくて』

『笑顔が素敵で』

『みんなをまとめられる力があって』


ありきたりな言葉が並んでいる。


さっきまでの俺なら、


それで十分だと思っていた。


でも、今は違う。


「……違うだろ」


小さく呟く。


こんなの、


誰にでも言える言葉だ。


つばきじゃなくてもいい。


それじゃ意味がない。


「俺が見てたのは……」


紙を見つめる。


そこに書かれているのは、


“俺が見たつばき”じゃない。

俺が見たかったつばきだ。


「……なんだよ、それ」


思わず、苦笑が漏れる。


都合がよすぎる。

勝手に理想作って、

勝手に好きになって。


それを“本当”だと思い込んでた。


「……ダサ」


自分に言う。


でも、


その言葉で、不思議と少しだけ楽になった。


ペンを取り出す。


躊躇いは、もうなかった。


一行、線を引く。


『やさしくて』


消す。


『笑顔が素敵で』


消す。


『みんなをまとめられる力があって』


全部、消す。


白くなった紙。


でも、今度は空っぽじゃない。


「……ちゃんと書けよ」


自分に言い聞かせる。


思い出す。


さっきの顔。


たこ焼きで舌を火傷したときの顔。

呆れた顔。


少しだけ、ムッとした顔。


「……ああいうとこだろ」


自然と、ペンが動く。


『すぐバカみたいなことして』


少しだけ、笑う。


『でも、ちゃんと周り見てて』


止まる。


言葉を探す。


今度は、


どこかからの借り物の言葉じゃなくて、


自分の中から。


『俺が見てなかっただけで』


『ずっと、そこにいたやつ』


手が、少し震える。


でも、止めない。


『俺の知らないつばきじゃなくて』


『ちゃんと見てなかった、つばきだった』


書き終えて、


息を吐く。


さっきまでの紙とは、


全然違う。


下手で、


まとまりなくて、


でも、


「……こっちの方が、マシだな」


ぽつりと呟く。


そのとき。


「……なにしてんの」


背後から、声。


びくっと肩が跳ねる。

振り返ると、


つばきが立っていた。


「お前、先行ったんじゃ——」


「戻ってきた」


あっさり言う。


「遅いから」


視線が、手元に落ちる。


「……それ、なに」


一瞬、言葉に詰まる。


隠すか、

誤魔化すか、


それとも——


「……」


喉が鳴る。


でも、


逃げたくない。


「……手紙」


正直に言った。


つばきが、少しだけ目を見開く。


「は?」


「その……」


言葉がうまく出てこない。


さっきまであんなに書けてたのに。


「……途中」


それだけ言うのが精一杯だった。


つばきはじっとこっちを見て、


「……ふーん」


とだけ言う。


でも、


その視線は、


どこか探るようで。


「……誰に?」


軽く聞く。


その一言で、


心臓が強く跳ねた。


「……」


答えない。

答えられない。


まだ、


言う準備ができてない。


つばきは少しだけ待って、


それから、


「……まあいいけど」


と、あっさり引いた。


でも、

完全に興味がないわけじゃない。

その空気は、ちゃんと伝わる。


「ほら」


くるっと背を向ける。


「次行くよ」


そのまま歩き出す。


「……ああ」


返事をして、


便箋を、ゆっくり折る。


ポケットにしまう。


――まだ、


渡さない。


でも、


今度は、

渡せる気がする。

さっきよりも、少しだけ。


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