齟齬(そご)
中庭を出て、また人混みに戻る。
さっきまでより、少しだけ景色が違って見えた。
「で、どこ行く?」
つばきがいつも通りの調子で言う。
「……さっきと同じでいい」
「なにそれ」
呆れたように笑う。
でも、そのやりとりが、妙にしっくりくる。
───ああ、こういうやつだったな
勝手に作った理想じゃなくて、
こういう、少し雑で、適当で、
でも、一緒にいて変に気を使わない感じ。
それが、
「……つばきなんだよな」
小さく呟く。
「なに?」
「いや、なんでもない」
首を振る。
まだ、言葉にするには早い気がした。
屋台が並ぶ通りに入る。
甘い匂いと、焼けたソースの匂いが混ざる。
「なんか食べる?」
つばきが立ち止まる。
「……ああ」
適当に頷く。
「じゃあ、これ」
つばきが指さしたのは、たこ焼きの屋台だった。
「無難だな」
「うるさい」
軽く肩を小突かれる。
その距離感も、妙にリアルで。
「……前から思ってたけどさ」
つばきがぽつりと言う。
「なに」
「今日のあんた、やっぱ変」
「まだ言うか」
「だってさ」
たこ焼きを受け取りながら、続ける。
「なんか、初めて会った”みたいな反応するし」
「……」
心臓が、少しだけ跳ねる。
図星すぎる。
「そうか?」
「そうだよ」
即答
「なんか、確認するみたいに見てくるし」
「……癖だろ」
適当に流す。
でも、
───見てるんじゃなくて、確かめてる
その言葉が、頭の中に残る。
「まあいいけど」
つばきは気にした様子もなく、たこ焼きを一つ口に入れる。
「……あつっ」
「バカだろ」
「うるさい」
舌を冷ましながら睨んでくる。
その表情すら、
どこか懐かしい感じがした。
「……なあ」
気づけば、また口を開いていた。
「なに」
「俺らってさ」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「前、文化祭って一緒に回ったことあったっけ」
つばきの動きが、一瞬だけ止まる。
「……あるけど」
「いつ」
「中学のとき」
あっさり答える。
「……覚えてねえ」
正直に言う。
つばきは少しだけ眉をひそめる。
「は?」
「いや、なんか」
言い訳みたいになる。
「曖昧で」
「……なにそれ」
明らかに不満そうな声。
「一緒に回ったじゃん」
「お化け屋敷入って」
「めっちゃビビってたくせに」
「……俺が?」
「そうだよ」
即答。
「入口で止まってさ、結局手引っ張って入ったの」
「……」
そんな記憶、ない。
でも、
つばきの言い方は、作り話には聞こえなくて。
「……そうだったっけ」
「そうだよ」
少しだけ、呆れたように笑う。
「ほんとに覚えてないの?」
「……ああ」
つばきはしばらく黙って、
それから、ぽつりと呟く。
「……変なの」
その言葉は、
さっきよりも、少しだけ重かった。
ざわめきの中、
二人の間だけ、少し静かになる。
「……まあいいけど」
つばきはそう言って、歩き出す。
でも、
さっきより、ほんの少しだけ距離ができた気がした。
──埋まったはずの距離が、
別の形で、また開いていく。
「……」
手に持ったたこ焼きが、やけに熱い。
でも、その熱さよりも、
胸の奥のざわつきの方が、ずっと気になった。
……俺は
歩きながら、考える。
何を覚えてて、何を忘れてるんだ
さっきの中庭で、
少しだけ“合った”はずなのに。
今はまた、
どこかがずれている気がする。
ふと、
ポケットに触れる。
紙の感触。
───あの便箋。
書きかけのままの言葉。
「……」
足が、少しだけ止まりかける。
でも、
「ほら、遅れてる」
つばきの声で、現実に引き戻される。
「ああ、悪い」
また、歩き出す。
ポケットの中の紙は、
まだ、取り出さない。
───今は、まだ。
そのタイミングじゃない気がした。
────────────────────
感想、ブクマ、リアクションよろしくお願いします!
モチベーションになります!




