実像の再認
「……俺の方か」
口に出した瞬間、
胸の奥で何かが、すとんと落ちた気がした。
つばきは、まだ少しだけ不思議そうな顔をしている。
「さっきから、ほんと変だよ」
「……そうだな」
否定しなかった。
もう、できなかった。
「何があったの」
少しだけ真面目な声。
その問いに、
今までの俺なら適当に誤魔化していたはずなのに─
「……俺さ」
言葉が、自然と出てきた。
「お前のこと、ちゃんと見てなかったのかもしれない」
つばきが、ぴくっと反応する。
「は?」
「勝手にさ」
自分でも驚くくらい、言葉が出てくる。
「こういうやつだって、決めつけて」
「優しくて、いいやつで」
「……そういうとこしか、見れてなかった」
つばきは何も言わない。
ただ、じっとこっちを見ている。
「でもさ」
喉が、少しだけ詰まる。
「それって、“その人を見てる”って言わないよな」
やっと、分かった気がした。
「……ただ、都合よく見てただけだ」
風が、少しだけ吹いた。
中庭の木が揺れて、葉の音が小さく鳴る。
「……なにそれ」
つばきが、ぽつりと呟く。
「急にどうしたの」
「わかんねえ」
正直に言う。
「でも、なんか……」
言葉を探す。
うまく言えない。
でも、このまま黙るのは、違う気がした。
「今までの俺、ちょっとおかしかった気がする」
つばきは、少しだけ目を細める。
「……ちょっと、ね」
「いや、結構」
苦笑いが漏れる。
つばきも、小さく笑った。
その空気が、少しだけ軽くなる。
「……でもさ」
つばきが、ゆっくり口を開く。
「それ、今さらじゃない?」
「……え」
「別にさ」
肩をすくめる。
「最初から、そうだったじゃん」
「……」
「勝手に理想作って、勝手に納得して」
少しだけ、視線を逸らす。
「それでいいなら、別にいいと思ってたし」
その言い方は、
責めてるわけでもなくて、
でも、優しいわけでもなくて。
ただ、事実を言ってるだけで。
───それが、やけに刺さる。
「……悪い」
思わず、そう言っていた。
つばきは、少しだけ驚いた顔をして、
「なんで謝るの」
「いや……なんか」
自分でもよくわからない。
でも、
謝らないといけない気がした。
「……まあいいけど」
つばきはそれ以上何も言わなかった。
ただ、少しだけ空を見上げる。
「でもさ」
ぽつりと続ける。
「今の方が、ちゃんと見てる感じする」
「……え」
「前よりマシ」
軽く言う。
でも、その一言が、
胸の奥にじんわりと広がった。
「……そっか」
それしか言えなかった。
沈黙が落ちる。
でも、さっきまでの重さとは違う。
少しだけ、軽くて居心地がいい沈黙。
「なあ」
もう一度、口を開く。
「なんかさ」
つばきがこちらを見る。
「もう一回、ちゃんと見てもいいか」
「……は?」
「お前のこと」
真っ直ぐ、言う。
逃げずに。
「今度は、ちゃんと」
つばきは一瞬だけ固まって、
それから、
「……なにそれ」
少しだけ笑った。
でも、その笑い方は────
さっきまでとは少し違っていた。
「変なの」
「うるせえ」
言い返す。
「まあいいけど」
つばきは、少しだけ前を向く。
「勝手にすれば」
そっけない言い方。
でも、
「……ただし」
少しだけ振り返る。
「ちゃんと見てよね」
その目は、
どこまでもまっすぐだった。
「……ああ」
今度は、ちゃんと頷けた。
────やっと、
同じものを見始めた気がした。
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