虚像の終わり
中庭は、思っていたよりも静かだった。
校舎に囲まれて、外の喧騒が少し遠くなる。
ベンチに腰を下ろすと、ようやく息がつけた気がした。
「はあ……疲れた」
つばきが隣で伸びをする。
その仕草すら、どこか見覚えがあって────
「……なあ」
気づけば、また口を開いていた。
「今日のお前さ」
「なに」
「なんか……いつもと違くないか」
つばきは一瞬きょとんとして、
それから小さく笑った。
「それ、こっちのセリフなんだけど」
「……は?」
「今日のあんたの方が変だよ」
あっさりと言われる。
その言い方。
────同じだ。
「……なんで」
思わず、言葉が漏れる。
「なんで、そんな言い方するんだよ」
「え?」
「なんか……もっとこう」
うまく言葉にできない。
優しいはずで、
柔らかいはずで、
俺の中の“つばき”は────
「もっと、優しかっただろ」
つばきの表情が、ぴたりと止まった。
「……なにそれ」
少しだけ、低い声。
「優しいって、なに」
「え……」
「笑ってれば優しいの?」
まっすぐ見てくる。
逃げられない視線。
「ちゃんと何も言わなかったら、それでいいの?」
「……」
言葉が、出ない。
その問いは、
どこかで聞いた気がした。
「……あんたさ」
つばきが、小さくため息をつく。
「ほんと、何も見てないよね」
────その瞬間。
頭の奥で、何かが弾けた。
『何も見てないでしょ』
同じ声。
同じ言葉。
違うはずだったのに。
「……っ」
視界が、ぐらりと歪む。
目の前のつばきと、
君の姿が、重なる。
「……同じ、だ」
思わず、呟いていた。
「は?」
「お前……」
喉が、震える。
「なんで、同じこと言うんだよ」
つばきは、少しだけ眉をひそめた。
「同じことって、なに」
「……」
言えない。
言ったら、
全部、崩れそうで。
「……あんた、本当に大丈夫?」
つばきが少しだけ近づく。
その距離。
その空気。
その目。
全部が──
「……つばき、だ」
やっと、言葉になった。
「え?」
「ずっと……同じだったんだな」
つばきは、意味がわからないという顔をした。
当たり前だ。
おかしいのは――
「……俺の方か」
自分で言って、はっきりした。
ズレていたのは、
世界でも、
つばきでもない。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
「何一人で納得してんの」
つばきが呆れたように言う。
でも、その声は──
ちゃんと、同じだった。
……最初から、
ずっと、
分かっていたはずなのに。
俺が、
見ようとしてなかっただけだ。




