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恋の2度見  作者: 乃菜
13/32

虚像の終わり

中庭は、思っていたよりも静かだった。


校舎に囲まれて、外の喧騒が少し遠くなる。


ベンチに腰を下ろすと、ようやく息がつけた気がした。


「はあ……疲れた」


つばきが隣で伸びをする。

その仕草すら、どこか見覚えがあって────


「……なあ」


気づけば、また口を開いていた。


「今日のお前さ」


「なに」


「なんか……いつもと違くないか」


つばきは一瞬きょとんとして、


それから小さく笑った。


「それ、こっちのセリフなんだけど」


「……は?」


「今日のあんたの方が変だよ」


あっさりと言われる。

その言い方。


────同じだ。


「……なんで」


思わず、言葉が漏れる。


「なんで、そんな言い方するんだよ」


「え?」


「なんか……もっとこう」


うまく言葉にできない。


優しいはずで、

柔らかいはずで、


俺の中の“つばき”は────


「もっと、優しかっただろ」


つばきの表情が、ぴたりと止まった。


「……なにそれ」


少しだけ、低い声。


「優しいって、なに」


「え……」


「笑ってれば優しいの?」


まっすぐ見てくる。


逃げられない視線。


「ちゃんと何も言わなかったら、それでいいの?」


「……」


言葉が、出ない。


その問いは、


どこかで聞いた気がした。


「……あんたさ」


つばきが、小さくため息をつく。


「ほんと、何も見てないよね」


────その瞬間。


頭の奥で、何かが弾けた。


『何も見てないでしょ』


同じ声。


同じ言葉。


違うはずだったのに。


「……っ」


視界が、ぐらりと歪む。


目の前のつばきと、


君の姿が、重なる。


「……同じ、だ」


思わず、呟いていた。


「は?」


「お前……」


喉が、震える。


「なんで、同じこと言うんだよ」


つばきは、少しだけ眉をひそめた。


「同じことって、なに」


「……」


言えない。


言ったら、


全部、崩れそうで。


「……あんた、本当に大丈夫?」


つばきが少しだけ近づく。


その距離。



その空気。



その目。



全部が──


「……つばき、だ」


やっと、言葉になった。


「え?」


「ずっと……同じだったんだな」


つばきは、意味がわからないという顔をした。


当たり前だ。


おかしいのは――


「……俺の方か」


自分で言って、はっきりした。


ズレていたのは、


世界でも、


つばきでもない。


「……はは」


乾いた笑いが漏れる。


「何一人で納得してんの」



つばきが呆れたように言う。


でも、その声は──


ちゃんと、同じだった。


……最初から、


ずっと、

分かっていたはずなのに。


俺が、


見ようとしてなかっただけだ。

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