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恋の2度見  作者: 乃菜
12/31

綻び

「……何を見てたんだよ」


自分の声が、やけに遠く聞こえた。


つばきの背中は、少し先を歩いている。


追いつける距離のはずなのに、


どこか、遠い。


「ねえ」


不意に、つばきが振り返った。


そのタイミングが、あまりにもぴったりで。


まるで、今の独り言を聞かれていたみたいで。


「なに、ぼーっとして」


「……してねえよ」


「してたよ」


軽く笑う。


その何気ないやり取りが、


逆に現実感を強くする。


「次、どこ行く?」


「……どこでもいいって言っただろ」


「それ、答えになってない」


つばきは少しだけ考えてから、


「あ、じゃあさ」


人混みの向こうを指さした。


「中庭、行かない?」


「中庭?」


「人少ないし。ちょっと休めるでしょ」


「……ああ」


特に断る理由もなかった。


むしろ、


少し落ち着ける場所が欲しかった。


並んで歩く。


さっきより、少しだけ距離が近い。


でも――


(……違う)


何かが、違う。


この距離も、


この空気も、


全部知ってるはずなのに。


「ねえ」


つばきが、また声をかける。


「さっきから、変だよ」


「……別に」


「別に、じゃない」


ぴたりと足を止められる。


思わず、こちらも止まる。


「なんか隠してるでしょ」


まっすぐ見てくる。

逃げられない視線。


「……隠してねえよ」


「じゃあ言ってよ」


一歩、近づかれる。


距離が、一気に縮まる。


「何考えてるのか」


その言い方が────


一瞬だけ、


あの君と重なった。


「……っ」


言葉が詰まる。


頭の奥が、じわりと熱くなる。


「ほら」


つばきが、少しだけ眉をひそめる。


「やっぱ変」


「……うるせえな」


思わず、強く言ってしまった。


一瞬、空気が止まる。


「あ……」


言い過ぎた、と思ったときには遅かった。


つばきは、少しだけ目を見開いて――


それから、ふっと表情を緩めた。


「……なに怒ってんの」


怒ってはいなかった。


むしろ、どこか落ち着いていて。


それが、逆に刺さる。


「別に、怒ってねえよ」


「じゃあその顔なに」


「……」


答えられない。


答えたら、多分────


壊れる気がした。


「……はあ」


つばきが、小さくため息をつく。


その仕草が、


やけに“見覚えがある”気がして。


「ほんと、分かりやすいよね」


「……どこが」


「全部」


即答だった。


「顔にも出るし、態度にも出るし」


少しだけ、口元が緩む。


「昔からそうだったじゃん」


────昔から。


その言葉に、


胸の奥が、ひっかかった。


「……ほんとに?」


思わず、聞き返していた。


「は?」


「俺、昔から……そんな感じだったか?」


つばきは、少しだけ目を細める。


「……なにそれ」


呆れたように言ってから、


でも、すぐに。


「違うよ」


はっきりと、否定した。


「昔はもっと……」


言いかけて、止まる。


「もっと、なんだよ」


「……別に」


視線を逸らす。


でも、その一瞬の間で、


分かってしまった。


「……違うんだな」


小さく呟く。


「今の俺は」


つばきは何も答えなかった。


ただ、少しだけ困ったように笑う。


その笑い方が────


また、


あの君と重なる。


「……ねえ」


静かに、つばきが言った。


「無理に思い出そうとしなくていいよ」


「……は?」


「変に考えすぎるとさ」


少しだけ、真面目な声になる。


「余計、分かんなくなるでしょ」


その言い方。


その空気。


────同じだ。


あのとき、


あの場所で、


同じように言われた気がする。


「……お前」


思わず、つばきを見つめる。


「なに」


「……いや」


言えなかった。


言ってはいけない気がした。


……同じ、なはずない


でも、


確かに重なる。


声も、言葉も、


その距離の詰め方も。


「……中庭、行くんじゃねえの」


話を逸らす。


「……うん」


つばきは少しだけ不思議そうにしながらも、


また歩き出した。


その後ろ姿を見ながら、


胸の奥で、何かが確信に変わりかけていた。


…同じ、なのか


認めたくない答えが、


ゆっくりと、形を持ち始めていた。


────────────────────


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