召喚された人
「久しぶり、だな……ノーラ」
ハーベルは召喚された人物に話しかける。すると周囲がざわめいた。
「ノーラって……」
「あの……?」
「森に住んでいるんじゃないのか?」
「この召喚で出てきたってことは……」
「何、こんな手筈を踏まずとも、普通に呼べばいいものを」
「いや……貴殿を呼び出したかったわけではないのだ」
ハーベルはバツの悪そうに俯き、宰相は頭を抱えた。
召喚された人物は、黒のローブを纏い、腰まである金髪が輝く、色の白い女性だった。
「魔女様……」
ポツリとハルクは呟く。魔女は王宮の後ろ、山との間にある薄暗い森の中にある塔で暮らしていると伝えられている。害はないが、古より魔女様の気を損ねると国が亡ぶと言われ、薄暗い森には誰も立ち入らないようにとお触れが出ていた。
魔女は街に出ることもあるが、その際には無難な人に擬態して正体がわからないと言い、素朴な少年や年老いた老婆が実は魔女様だった、といった話がよく広まっていた。
「勇者召喚の魔法陣ってところかしら。魔王でも復活するの?」
「ま、まあ……」
魔女の問いにハーベルは歯切れが悪く答える。何も聞いていなかったリーシャはよくないところに居合わせてしまった、と逃げるタイミングを計っていた。
「魔王を討伐してほしいってことね。いいわ、面白そうだしやってあげても」
「いやしかし、勇者は聖剣を抜く必要がある。ノーラの魔力とは相性が悪いのでは」
「それはやってみないとわからないわ。聖剣が抜けなかったらお役御免ってことかしら」
「そうなるな」
「じゃあやってみましょう。どこにあるの?」
「その、奥の部屋に」
ハーベルが指さした先には入り口と同じような大きな扉があった。ハーベルはそちらに向かい、先ほどと同じく扉の横にある台に手を翳すと扉が開いた。
扉の先の部屋には塚に刺さった聖剣があった。
「これを引き抜くと」
魔女はさっさと部屋に入り聖剣の持ち手を握った。そして引き抜こうと力を入れると、あっさりと聖剣が抜けてしまった。
「これは……」
「ハーベル。抜けてしまったぞ。どうするんだ」
魔女は聖剣を掲げてハーベルに問う。ハーベルは眉間にしわを寄せたままこう答えた。
「貴殿に魔王を討伐していただきたい」
「ふうん、よかろう。せっかくだし勇者パーティとやらの真似事もしてみるか」
そう言って魔女はあたりを見回した。そして、リーシャを見て目を細めた。
「そこのお嬢さん、私と一緒に魔王を討伐しないか? ついでに騎士の坊やと、君は第三王子だな。君も連れて行こう」
「ま、待ってください。彼らはそんな……」
慌てて宰相が止めるも魔女はお構いなしに三人の目の前に立った。三人を見て頷く。
「いいだろう? ハーベル」
「仕方ない。ウェルガー、それに二人も。魔女様のご指名だ。魔王討伐のために魔女様に同行することを命じる。国王には私から報告しておく」
「拝命いたしました」
断れない雰囲気に三人は仕方なく頷く。
「そうとなれば準備が必要だな。出立はいつだ?」
「三日後に。準備いたします」
「三日後だな。ここに来ればよいか?」
「いえ、王城の大広間に」
「大広間な。じゃあ私は帰って準備でもするか。お嬢さん、騎士の坊や、第三王子、君たちは準備はいらないぞ。私が準備しよう」
そう言って魔女は返事を聞く前にその場から消えた。魔術師団がそこを食い入るように見つめる。
「あれは魔術か?」
「魔術の痕跡が見えないぞ? 高等な魔術ということか?」
「いや、魔女殿は魔術ではなく魔法が使えると言う。魔法なのではないか?」
「なるほど、その線もあるのか」
魔術師に混ざり、ハルクも議論を始めた。ハーベルはさすがに宰相と今後について会話しているが、魔女のいた場所が気になるのか、チラチラ見ていた。




