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出立


その日はどこまでも青空が続く晴天だった。魔女から渡された装備を纏い、武器を携えた。


「では行って参る。三人は無事に返してやるから」

「頼んだぞ、魔女殿」


国王にも怖気付くことなく、出立の挨拶を交し、身を翻す魔女にリーシャは感心した。巻き込まれてしまったからには職務を全うしようと気持ちを切り替えたばかりである。治癒院はアッシュのぎっくり腰も治り、問題なさそうであった。


「まずは……街道沿いの貧しい街に行くのだな。魔物が少し増えてるという」


魔女は、文庫本を見ながらふむふむと頷く。


「馬には乗った方がいいのか? 勇者は徒歩で移動するのだろうか?」


魔女の問いかけにリーシャは首を傾げる。ウェルガーが気まずそうに、勇者がどうかはともかく、距離としては馬でないと自分たちは辛いと訴えた。魔女は頷き、じゃあ乗るか、と騎士団が用意した馬に跨った。

魔女に倣い、三人も馬に跨る。魔女の合図をきっかけに、馬は走り出した。



***


三日ほどで、目的の街に到着する。

中央街道沿いと言っても街道から離れたところにあり、外壁もなく、荒地が続いていた。

馬の音に気づいた住民がわらわらとやってきて、何事かと一行を見る。


「領主様を呼んで参りました!」


若めの男がそう言って連れてきたのはこれまた若めの男であった。二人とも息を切らしている。


「落ち着いてからで良いぞ」


魔女は馬から降り、そう声をかけた。馬を繋ぐところはと見回すと、住民がこちらにと厩舎であっただろう場所を案内してくれた。


「ここで魔物が出ると聞いていたが気配はないな」

「え、ええ……ここでは魔物自体は見たことありませんが、このように水が枯れてしまっているのです。その先が元は川でしてそこから水を引いていたのですが川の上流に行ったところ魔物が住んでおりまして、水を塞き止めていたのです。それゆえこのような事態に。普段は雨水を貯め、それでも足らない時は隣の子爵領に頼っておるのです」

「魔物が住んでいる?」

「はい。あの山奥が川の上流になるのですが、魔物が暮らしておりました。小さな集落のようになっていまして、私とリッキー……彼で見に行ったのですがこの数では太刀打ち出来ないと判断し下ってきたのです。ここは男爵領と言えどちょっと大きな村みたいなものでして、若い衆含め誰も犠牲にはできず、討伐隊を組むには至らずこの有様です」


領主と呼ばれた男はそう説明し、俯いた。


「貴殿がフルールド男爵か」

「はい。ご挨拶が遅れて申し訳ございません、殿下。私がフルールド男爵でございます」


フルールドの言葉に周りにいた住民が、殿下?とざわめく。そして頭を垂れようとした住民をウェルガーは制した。


「楽にして良い。私は今はノーラ殿のお供だ。気にせずとも良い。ノーラ殿は魔族の専門家で、魔族問題の解決方法を探りに来たのだ」


そう伝えると住民は安堵した表情になった。魔女であるノーラが魔族の専門家であることは、住民を驚かせないための設定であった。魔女の言い伝えは広く伝わっており、魔女であることで事が上手く進まないよりは、正体を隠した方が良いだろうという判断であった。それは正しかったようで、フルールドとリッキーはノーラに、川の上流の様子を懸命に話している。

そこへ、足を引き摺った若者がやってきた。


「魔物を討伐してくれるのか? 俺も太刀打ち出来ず

この有様だ。村のために頼む」


そう言ってよろめいた若者をリーシャは支えた。


「そのお怪我は……」

「魔物にやられちまった。足だけで済んだから良かったものの、もう走れはしない」


若者の足を見ると黒くなっていて、歩けているのが奇跡のようだった。リーシャは、休める場所を聞き出し、若者を座らせた。


「治癒術による施術をしましょう。走れるようになるかはわかりませんが、今より歩きやすくなるかと思います。何より、このまま放っておくと足より上を失うことになりましょう」

「そ、そんなに酷いのか? 歩けるから大したことないとばかり……」


そう言うと若者は俯いた。彼に着いてきた、赤子を抱えた女性も悲愴な面持ちになる。


「だから治癒術を使うのです。今まで治癒を受けたことは?」

「ないな」

「でしたら、副作用があるかもしれません。気分が悪くなったら言うのですよ」


そう言ってリーシャは患部に手を翳した。治癒術の特徴とも言えるキラキラとした光が降り注ぐ。黒かった足はみるみる元の色へと戻っていった。

リーシャは思った以上に魔力を使ったことに首を傾げた。遠くから様子を見ていたノーラがやってきて声をかける。


「魔物汚染の治癒もできるのか」


魔物汚染とは、魔物に直接傷つけられた際の傷から広がるものだ。通常のポーションでは治らないため、治癒術が必要となるが、治癒士の中でも魔物汚染の治癒が可能な治癒士は限られていた。


「はい。ただ、思ったより魔力を使いまして……これまではそんなことなかったのですが」

「魔物汚染が足だけではなかったのではないか。恐らく全身に……」


若者はスムーズに動く足を確認していたが、ノーラの言葉を聞いて青ざめた。


「あ、ありがとうございます、治癒士様。なんとお礼を申し上げたら良いか」

「私からも……なんとお礼したらよいか……」

「では、私から。魔物の情報を教えてもらおうか。先程の領主殿の話の魔物では、お主のようになるとは考えにくい。複数の特徴が異なる魔物が住んでいるのが自然だ。どんな魔物だった?」


若者は魔物に襲われた時のことをノーラに話した。ノーラの想像通り、フルールドと若者が出会った魔物は別だろうと言う話に落ち着いた。

これは対策が必要だ、とノーラは領民と話していたウェルガーとハルクを呼んだ。

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