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最後の部活

 レインとルビー。二人はミラリス学園の校庭へとやってきた。

 ミラリス魔法学園の校庭は運動部が盛んでサッカー部や野球部、陸上部など様々な部活が汗を流している。


「ここが最後の部活ですか」

 校庭に出てきた以上、予算を上げたいというのは恐らく運動部だろう。

 一体、何部だ。面倒な事にならなければ良いけど……。


「この部活になるな」

 二人は校庭の隅っこへとやってきた。そこには三人程の生徒が居る。

 ミラリス魔法学校の部活の最低人数は三人からなので、この部活は最低限の人数しか居ない事になるだろう。

 一体何部なのだろうか。


「会長、ここ何部です?」

「ここは『ラジオ体操の深呼吸を極める部』だ」

「は?」

「ラジオ体操に深呼吸ってあるだろう? あれを極める部らしい」

「また訳の分からない部活が出てきた……」


 二人はラジオ体操の深呼吸を極める部に近づく。

「生徒会だが、部長はいるか?」

「あ、私です」

 一人の男が手を上げた。

「君が部長か」


「部長のマッカートニーです。宜しくお願いします……」

 深呼吸を極める部の部なのにボソボソと喋っていて聞き取り辛い。

 本当に深呼吸をしているのだろうか?

「予算アップを掲げているそうだが、何故だ?」

「実はあそこに居る、うちのエースがイップスに陥ってしまって」

「イップス?」

「えぇ、彼の深呼吸は素晴らしかったんです。でも最近はイップスのせいで全然実力を出せないでいるんです」

 深呼吸が素晴らしいってなんなんだろう。


「予算が上がったら彼のイップスを治す費用にあてるつもりです。会長、お願いします……」

「いや、無理でしょ。そんな事で予算は上げられ……」

「まぁ、レイン、話だけでも聞いてみよう」

 レインとルビー二人は校庭の隅に座っている深呼吸部のエースに声をかけた。


「君が深呼吸部のエースか?」

「あ、ルビー生徒会長」

「イップスになったと聞いたが、どうなってしまったんだ?」

「はい。俺はイップスになってしまったんです。昔のような深呼吸が出来なくなってしまったんです」

「いや、深呼吸なんて誰でも出来るでしょう」

「深呼吸を舐めないで下さい! あれは繊細な作業なんです!」


「いや、聞いた事ないよ! 落ち着いたりする為に必要な作業でしょ?」

「僕は昔出来た深呼吸一の型氷の舞が出来なってしまいました」

「深呼吸一の型? 何それ」

「深呼吸一の型、氷の舞。素早く深く呼吸を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。吐いた息で周りが凍る事から、別名『アイスブリザード』と呼ばれています」

「何それ!? もう必殺技じゃん? 深呼吸奥深!」


 思いもよらない深呼吸の奥の深さにレインは驚愕する。

「はぁ~、俺はもうアイスブリザードはうてないんだ。どうしよう……」

 アイスブリザードがうてなくなった事でエースは凄く落ち込んでいる様子だ。

 会長予算どうするんだろう?


「病院とかに行くのはどうだ?」

「いや、俺のイップスは通院では治りません。あれが無いと……」

 あれ? あれとはなんだ?

「あれってなんですか?」


「Vtuber ネリシャス・ブラウンの抱き枕です」

「は? ネリシャス・ブラウン?」

「知らないんですか? ネリシャス・ブラウンは今をときめくVtuberで動画投稿サイトVtvのチャンネル登録者数百万人を突破している超大物アイドルですよ!」

「いや、知らない」


 レインは流行り者には疎いタイプだ。という話は置いておいて。

 これ、完全に私物を買いたくて予算を上げようとしているな。

「お願いします。俺、どうしてもネリシャス・ブラウンの抱き枕が欲しいです。イップスを治すために買って下さい!」

「いや、私物を買うために予算を割くわけには……」

「そのネリシャスなんとかの枕を買えば、君のイップスは治るの……」

「会長!」


「いや、しかしレイン。ネリシャス・ブラウンの枕を買えば彼は再びアイスブリザードをうてるかもしれないんだぞ」

「いや、会長だからって、あんな訳の分から無い事に予算を割くわけには行かないでしょう……」

 またまた予算を割きそうになったルビーをなんとか止めたレイン。

 二人は廊下を歩き生徒会室へと戻った。


「会長、今日は、もう仕事終わりですね?」

「ん? そうだな。もう終わりだ」

「じゃあ、帰りましょう」


「あぁ、先に帰ってくれないか?」

「? 何かあるんです?」

「まだ少し書類仕事が残っているのを思い出してな。それが終わってから帰りたい」

「そうですか。じゃあ先に帰ります」

 レインはルビーに別れを告げて生徒会室を出る。


「全く、いままで、この学校の予算が無事なのはなんでだったんだ……」

 その優しさ故、色々な部活に予算を割きそうになるルビー。

 今まで、どうやって止めていたんだろう。とレインは思う。

「ま、僕が考える事ではないか。帰ろう」

 深く考えるのは怖いからやめにするとして。


 レインは帰路に着こうとした、その時。

 ガサガサ。

 視線の先。廊下の角に人影らしきものが見えた。

 その人影はレインに気づくと直ぐ様隠れてしまう。


 レインは少し気になり角を確認。しかし、そこに人の姿は無かった。

「……」

 なんだか嫌な予感がする。レインは、そう思った。



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