ゾロール人
「いやはや、申し訳ございません。また私の考え事で迷惑をかけてしまいましたか」
「いえいえ、大丈夫ですよ。トール先生、事故が起きなくて何よりです」
電球を付け替え終えたレイン達。無事に立ち止まってくれたトール先生と談笑をしていた。
「所で、トール先生、考え事って何を考えていたんですか?」
レインがトール先生に問いかける。
「いやはや、アッシル合衆国についてです」
「アッシルがどうかしたんですか?」
「アッシルがガール共和国に戦争を仕掛けたのは、ご存知ですかな?」
「えぇ、なんとなくテレビで見てます」
「その報道が問題なのです。アッシル側から戦争を仕掛けたのに対して。報道ではまるでガール共和国が悪者扱い、いやはや、マッセール王国の報道も地に落ちましたな」
「何故、そのような報道をするのでしょう?」
ルビーが口を挟む。
「アッシルは先の世界対戦で勝利してから、自由民主主義のトップを走っているかのように振る舞っていますが、その自由は今、脅かされています。その事にマッセール王国民も気づくべきなのですが、いやはや、まだホメリカに追随していれば大丈夫だと考える者が後を絶たないのです。テレビもアッシルを応援してれば受けが良いのでしょう」
「ううむ、脳死でアッシルに追随するのは危険という事ですかね」
「アッシルは世界一の大国と考えても問題ありませんが、付き合いは考えた方が良いでしょうな」
ルビーとトール先生の談義は進んでいく。その時チャイムが鳴った。
「いやはや、もう下校時間になりました。それでレインさん、ルビーさん、さようなら」
「ううむ、アッシルの件は中々問題だな」
「そうですね~」
階段を下って、レインとルビー、二人は下校する為校舎の玄関へと向かっていた。
アッシルが戦争を仕掛けまくっている事は問題だ。しかし、このマッセール王国も、また大きな問題を抱えている。
「ぼ、僕の教科書、返してよ~」
玄関の方から生徒らしき声が聞こえて来る。
二人が視線を移すと、そこには二人の生徒が一人の生徒の教科書を奪い声を荒げていた。
「はん、ゾロール人がなんで、このマッセールで勉強なんかするんだ。国に帰れ!」
「そうだ。帰れ!」
この状況は明らかにイジメだ。しかもゾロール人という声が聞こえる。
「会長」
「あぁ、助けにいこう」
レインとルビー、二人はイジメを止めるため、割って入る。
「そこの君達、イジメは辞めないか」
「ちっ会長かよ。邪魔すんなよ」
「教科書を返しなさい」
「うるせー! ゾロール人は、この国のルールを守らない。だから悪い奴なんだ」
ゾロール人問題。それは、このマッセール王国の抱える問題の内の一つだ、
少子高齢化の激しい、この国において外国人労働者は積極的に受け入れられている。
その中でも隣国であるゾロール共和国からは沢山の労働者が、この国に来ていた。
しかし一部国民の間ではゾロール人が来てから治安が悪化した事やゾロール人がルールを守らないという意見が相次いでいる。
勿論、ゾロール人が増えてから犯罪件数が増えたという事実はない。一部のゾロール人は犯罪をする者も居るが、それはマッセール人も同じである。
しかしSNSではゾロール人を公然と差別する者も現れた。それが、この国の抱える闇、ゾロール人問題である。
「問題を起こす者がゾロールか、どうかは関係ない。それに今問題を起こしているのは君達じゃないか」
ルビーが優しく諭す。それでも生徒たちは聞き入れようとしなかった。
「うるせー、うるせー、そういえば会長、お前も確か、ゾロール人だったよな!」
「そうだが、私は父と母がゾロール人というだけだ、生まれも育ちも、マッセール王国だよ」
「そうか、ゾロール人だからゾロール人の味方をしているんだな。そうに違いない!」
「いや、話を聞いてくれ……」
拉致が明かないな、そう思いレインは杖を構えた。
「フワロール(宙に浮け)」
レインが呪文を唱えると、杖から光が飛び、イジメている生徒に飛んだ。
「う、うわわああ」
光を食らった生徒は宙に浮く、浮遊魔法の一種だ。
「教科書を返すんですか、返さないんですか、どっちなんですか?」
「返す! 返すから、下ろしてくれ~」
レインの浮遊魔法を食らった生徒たちは大人しく教科書を生徒に返した。
「おい、レイン」
「会長、残念ながら話の通じない人達ってのは居るんです。行きましょう」
レインとルビー二人は帰路につく事にした。
それは、まだレインが六歳くらいの事だった。
「母さん、何をしているんですか?」
幼いレインが母に問いかける。
「うん、地球儀を見ているの」
レインの母は地球儀を見ていた。
「何が書かれているですか?」
「大小様々な国が描かれているわ」
「へー」
「レイン、何故人は国境を越えてはいけないのでしょうね?」
母が唐突に言う。
「へ? 法律で、そう決まっているからじゃないですか?」
「でも、鳥や人間以外の動物は国境なんて気にしないでしょう?」
「まぁ、そうですが……」
「人間だけが国境という檻に縛られています。本当は人間も自由に地球のどこでも行けるようにするべきだと思うの」
「は、はぁ」
「レイン、国境をなくしましょう」
「え? 国境をですか? 一体どうやって?」
「それはあなたに任せます。国境を無くせば人々の心に平安が灯るわ。きっと」
「いや、無理でしょう」
「約束よ。レイン」
幼いレインの心に残っている母との記憶。大事な約束。




