もう一軒のカフェ
「はぁ、はぁ、凄い店だった……」
「確かにインパクトは抜群だったな……」
店を出てルビー達と合流したレイン。
「うーん。じゃあ、この店かいな」
エイデンは、ネガティブカフェの隣のカフェへとずいずいと入って行った。
「あ、エイデン、ちょっと待って下さい」
エイデン、一人に任せておく訳には行かない。
レイン達も遅れて店へと入る。
「いらっしゃいませ〜」
今度の店は白を基調としたカフェで、客も、それなりにいる。
何故か店員は全員、タンクトップを着た男性だった。
「いらっしゃいませ〜、お客様〜、ポジティブカフェへ、ようこそ〜」
「あの〜、ここにハリソンという人は来ませんでしたか?」
「ハリソンさんですか? ちょっと分かりませんね〜」
「そうですか。ちょっと探してみても良いですか?」
「良いですとも、このカフェなら、きっと見つかりますよ。なんせ、この店はポジティブカフェですから!」
「ポジティブカフェ? なんですか? それ」 さっきのネガティブカフェと真逆の気がする。
「良くぞ、聞いてくれました。このカフェはポジティブシンキングな客と店員が集まる店。あなたもきっとポジティブシンキングになれますよ!」
「いや、なんか、ちょっと怖いですね」
ちょっとしたセミナーみたいな事を言い出す店員。
さっきの店と同様、この店も早く抜け出した方が良いのか?
「店長、大変です!」
「うーん。どうした、カール店員〜」
ポジティブカフェの店長がアルバイトの店員に話しかけられている。
「このチーズケーキ、賞味期限が切れてます!」
「うーん。カール店員、こんな時こそ、ポジティブシンキングだ。賞味期限なんてネガティブな物、気にして駄目。お客差にお出ししろ!」
「いや、カフェとして駄目だろ! それ」
店員は「はい、分かりました!」と言って、客にチーズケーキを出してしまった。
この店で食べ物を頼むのはやめよう。レインは、そう思う。
「店長、聞いて下さいよ〜」
お客さんらしき人が店長に声をかけてきた。
「うーん。どうしたんだい? お客様〜」
「この前、二股してたの彼女にバレちゃったんですよ〜、どうしたら良いんでしょう?」
それは、あんたが悪いだろ。
「お客様、そんな時こそ、ポジティブシンキング。今度は絶対バレない。そう思い込むんだ!」
「いや、二股止めろよ! 駄目でしょ。店長」
ポジティブシンキングというより見当違いなアドバイスをする店長。
この人、大丈夫か?
「店長、聞いて下さい〜」
また、別の客が店長に声をかけてきた。
「うーん、どうしたんだい〜?」
「会社はクビになって、嫁にも逃げられたんです〜、どうしたら良いでしょう?」
散々だな、この人。
「そんな時は歌を歌おう。ミュージックスタート!」
店長が、そう言うと店内に明るめの曲が流れ始めた。
その曲に合わせて店長が歌い出す。
「あ〜、きっと大丈夫さ〜、明日には、会社に復帰し〜 嫁も帰って来てるさ〜!!」
「世の中、そんな甘くないですよ」
やっぱり、この人に相談するのはやめておこう。
レインは、そう思った。
「レイン、どうやら、この店にハリソンさんは居ないみたいだぞ」
「そうですか、会長、じゃあ、この店、出ましょう」
ハリソンが居ないのに、この店に長居する理由はない。
レイン達は、店を出る事にした。
「エイデン、あまりズカズカと別に店に入らないで下さい」
「おぉ〜、スマン、スマン。でも、次の店で最後やろ?」
エイデンの言う通り、一番左の店が最後の店だ。
二軒が外れた以上、ハリソンは、この店にいるだろう。
「じゃ、入るで〜」
エイデンが入り口を開けて三人は続くように中へと入る。
最後の店は一軒目と同じ木目調ではあるが、お洒落な内装で、ネガティブな感じはしない普通の店員達がいる。
「いらっしゃいませ〜」
「あの〜 ハリソンという人は来てませんでしたか?」
「あ、その名前のお客様なら、あちらにいらっしゃいますよ」
お、やはり、この店、当たりみたいだ。
レイン達は店員に案内され店の奥へと入った。
テーブル席で、コーヒーを飲んでいるハリソンがいた。
「あ、あなたがハリソンさんですか?」
「えぇ、という事は、貴方達は……」
レイン達はハリソンと挨拶を交わす。
そして彼の向かいの席へ座った。
「心を操つる魔法ですか……、そんな物が存在したんですね」
レインはハリソンに操心の呪文について話した。
その事を聞き、ハリソンは何かを思い返すように考え込んでいる。
「ハリソンさん。もし宜しければ、記憶が無くなる前、何があったか話してはくれないでしょうか?」
「……分かりました。警察に話したのと同じ内容で良ければ」
ハリソンはレイン達に記憶が無くなる前、何があったかを話してくれた。
彼の話をまとめると、こういう事になる。
・ハリソンはコンビニでバイト中、外に出た時に四十代位の太った男性に声をかけられた。 ・客かな?と思い、話していると突然、男は杖を向け「モールスファクチュア」と呪文を唱えて来た。
・ハリソンの記憶は、そこから一日無い。
気づけば、強盗をしたとして警察に捕まっていた。
「以上が警察に話した内容になります。正直言って私も何がなんだが、分からないんです」
ハリソンは見知らぬ男に呪文を唱えられた。 その呪文は「モールスファクチュア」と言う。
やはり……。
「レイン、どうだ?」
「モールスファクチュア、僕が見た操心の呪文も同じ呪文でした」
「! という事は、やはり」
「えぇ、ハリソンさんは操心の呪文を唱えられ、操られていた。彼が記憶が無くなる前に出会った人物がネイサンで間違いないでしょう。ハリソンさん、その男について他に覚えている事はありますか?」
レインの問いかけにハリソンは首を縦に振る。
「実は、私、絵が上手いんです。彼の似顔絵なら描けますよ」
「それは凄い。是非書いて下さい!」
ルビーはノートを一枚ハリソンに手渡す。
ハリソンはスラスラとネイサンの似顔絵を書いてくれた。
「これは重要な手がかりになりますわね」
「後、彼は……」
「まだ話してくれる事があるんですか?」
「えぇ、彼はネリシャス・ブラウンのTシャツを着ていました」
「ね、ネリシャス・ブラウンですの!?」
ネリシャス・ブラウンと聞いてジェシカが驚いた表情を見せている。
「ネリシャス・ブラウン、ちょくちょく出てきますけど、誰なんです?」
「えぇ、レイン、ネリシャス・ブラウン知らんの。レイン!?」
今度はエイデンが驚いた表情を見せている。 と言っても彼はネリシャス・ブラウンを知らないレインに驚いている様子だ。
「ネリシャス・ブラウン、私も良く知らないな」
「か、会長も知らないんですの? 貴方達は少し世間に目を向けるべきですわ」
「で、誰なんです?」
「……ネリシャス・ブラウン、今、大人気のvtuberで若者からお年寄りまで知らない人は居ない」
「ルイス先輩、詳しいですね」
「……そのTシャツは高値で取り引きされ、一枚、一万ルークはすると言われている」
「Tシャツが一枚一万!? 高っ」
「……そんな限定品、私でも持ってない。悔しい」
「そんな大人気なんだ……」
どうやらネリシャス・ブラウンは大人気のvtuberらしい。
今度vtvで見てみようとレインは思った。
「では、ハリソンさん。済まない。色々と教えてくれて」
「いえ、君達に協力出来たみたいで、何よりです」
聞きたい事は大方聞く事が出来た。
レイン達はハリソンに別れを告げ店を出る。




