スパイ
「続いてのニュースです。ゾロール人らしき男性が民家に侵入、強盗に入ったもようです」
「ゾロール人男性が、強盗か……最近、こういったニュースが増えたな」
「そうなんですか?」
「あぁ、やはり外国人が増えると、こういう事も発生するらしい。まぁ全員が全員、そうではないがな」
「でも、この事件、なんか変だって言われてますわよ」
「変って? なんですか、ジェシカ先輩」
「何でも、このゾロール人男性、事件を起こす一週間前から記憶が無いらしいですわの」
「記憶がない?」
「えぇ、なんらかの魔術がかけられたのか記憶が無かったと本人が証言しているらしいですわ」
「おぉ、俺も、そんな話聞いたで」
確かにニュースでも強盗に入った男性の記憶が無い事がフューチャーされている。
「ここ最近のゾロール人の犯罪のニュースは全部、それですわ。犯人達の記憶が無いらしいですわ」
「そうなんですか……」
記憶が無く、何らかの魔術がかけられている。
一つだけ思い当たる魔法があるが、あれは、決して王家の外に出してはならない魔法のはず。
いくら兄でも、そんな真似は……。
「お、なんか犯人の首筋に紋様があるらしいで」
ニュースでは犯人の首筋に紋様が浮かび上がっている事がフューチャーされている。
レインは、その紋様をじっと観察した。
「これは……」
「「人の心を操る呪文!?」」
レインは皆に王家には操心の呪文という、人の心を操る事の出来る呪文がある事を話した。
その事に驚愕する一同。
「えぇ、そうです。王家には、そういった魔法が存在します。勿論、門外不出ですが……」
「その魔法を使ってゾロール人を操っている可能性があるのか?」
「えぇ、その可能性はあるとみてます」
レインはテレビに出ている紋様を指さす。
「この紋様は昔教えられた、操心の呪文の紋様と非常に似ています。しかも記憶が無いというのも、操心の呪文を使った時の症状なんです」
「そ、そんな魔法があったのか、知らなかった……」
「で、誰が、そんな呪文使ってんねん? クロス国王か?」
「いえ、流石の兄も、こんな真似をすれば大変な事になる事ぐらい分かっているはずです。恐らく兄は、この呪文を外へと持ち出し、誰かに託したと思われます」
「その託された人物がゾロール人を操り、悪さをしている。そういう事か……」
「えぇ、そうなります……」
操心の呪文を使い、人を操り悪さをしている。
これは許されない事だ。
「しかし、本当にクロス国王は、そんな事をしたのか、もう少し証拠が欲しい所だな」
ルビーが、そんな事を言う。
確かに、もう少し証拠が欲しいというのは分かる気がする。
「では、あの男に連絡してみますか」
「あの男って?」
「僕にも部下がいるんです」
「部下ってなんや?」
「その部下は兄クロスを陰ながら観察してくれています。その男なら何か情報を掴んでいるかもしれません」
「いわゆるスパイという奴だな」
レインは兄クロスを観察しているスパイに連絡をしてみる事にした。
「はぁ〜、楽して金が欲しい」
ロバートは、クロスの身の回りの世話をしている何人かの執事の内の一人である。
彼はやる気があまり無く、皆からも少し下に見られている人物で、目立った男では無かった。
しかしレインからの信頼は厚く、彼はクロスを監視するスパイの役割を任されている。
「あ〜、誰か一億ルーク(ルークとはマッセール王国の通貨単位)くらいくれね〜かな〜」
いつものように王宮の廊下の隅で腐った発言をしているロバート。
そんな彼のスマホが震えた。
「ん、レイン様から、ご連絡が来ている」
ロバートはメッセージの内容を確認した。
「え〜、クロス様が操心の呪文を使っている可能性があるから、調べてくれだって、面倒くさ〜」
ロバートは明らかな悪態をついている。
出来れば、こんな仕事をやりたくはない。
しかし主人であるレインが言っている以上、従うしか無かった。
「くそっ、レイン様が王になったら、絶対、働かないで金だけもらうんだ。だからレイン様には王になってもらわ無いと困るんだ」
そんな計算もありつつロバートは、クロスのいる部屋を、こっそりと覗く。
クロスは大体、王様としての仕事を行う、執務室にいる。
執務室は部屋の最奥に、見た事が無いくらい豪華な机と椅子があって、ソファーやテーブルなんかも置いてある。
クロスは専属秘書のモールスと談笑していた。
ロバートは気付かれないように、そっと聞き耳を立てた。
「ははは。予想以上だよ。あのネイサンとかいう小汚い国民。操心の呪文を使い大暴れをしている」
「どうやら、そのようですね」
「これはゾロール共和国との戦争も近いんじゃないか」
(な、何〜、確かにレイン様の言う通り、クロス様は操心の呪文を外に持ち出しているじゃないか〜)
これは急いでレインに報告しないと。
そう思いロバートはレインにメッセージを入れた。




