最初の試練
怠惰な王子と最初の試練
ネイサン・アルビデ。彼の部屋は、はっきり言って汚い。
床には漫画やら、ペットボトルやらが散乱していて片付ける様子も無かった。
「くそっ、くそっ、またゾロール人が悪さしてるげこ」
ネイサンはスマホを取り出しSNS『スイッター』にゾロール人の悪口を書き込んだ。
「ゾロール人は皆、悪い奴げこ。俺は正義の味方げこ」
実際、彼はネット上で作られた嘘の動画か、承認欲求の為に作られた悪意ある動画を鵜呑みにしているだけである。
それでも彼はゾロール人全てが悪い奴だと信じて疑わない。
ネイサンはそういう人間だった。
「げ、もうバイトの時間げこ」
そうこうしている間に彼はバイトの時間になってしまった。
「くそっ、なんでバイトなんてしないといけないげこ、こんな世の中間違っているげこ」
ネイサンは文句は言うがバイトの時間は待ってはくれない。
彼は家を飛び出しバイト先へと向かう。
「くそっ、くそっ、これも全部ゾロール人のせいげこ。もっとマッセール王国人を優遇しろだげこ」
バイトへ向かう最中もネイサンはゾロール人の悪口が止まらなかった。
そんな彼の前に一台の車が止まった。
「うん? なんだげこ」
車の後部座席の扉が開く。
そこにはクロス国王が座っていた。
「やぁ、少し乗ってはいかないか?」
クロス国王に誘われては一般市民であるネイサンは無下には出来ないだろう。
彼は車に乗る事にした。
ネイサンは車中で考える。
何故、自分は、こんな車に乗せられているのだろう。
なんか自分やってしまったか?
あの、ゾロール人の悪口がバレてしまったのか?
そんな事を頭の中で巡らせながら悶々としていると。
「君はゾロール人に恨みを持っているみたいだね」
唐突にクロスが口を開いた。
「な、何故、それを、ご存知で?」
「私の従者に調べさせれば分かる事だよ」
「も、申し訳ございませんげこ!」
ゾロール人の悪口を書いているのがバレてしまっていた。
これは、きっと何らかの罪に問われるに違いない。
そう思いネイサンはクロスに謝罪する。
「ん? どうして私に謝罪するんだい?」
「い、いや誹謗中傷をしてしまい、申し訳ないと」
「君は謝る必要など全く無いんだよ」
「……へ?」
「確かにゾロール人は愚かだ。それは私も感じる」
「く、クロス国王陛下もですか?」
「あぁ、あいつらはマッセールのルールを守らず迷惑ばかりかけている。私もどうすれば良いか、困っている所なんだよ」
「そ、そうですげこよね! あいつら悪い奴でげこよね!」
「あぁ、そうだ。だから君に頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事?」
「先ずは、これを貰ってくれないか?」
クロスは一冊の魔導書をネイサンに手渡した。
「これは?」
「これは王家にのみ伝わる魔導書。『操心の呪文』が書かれた本だよ」
「操心の呪文?」
「この本に書かれた呪文を唱えれば、どんな人間も魔法生物も操る事が出来る。君に、この呪文を託そう」
「お、俺に託して、どうするでげこ?」
ネイサンが当然の疑問を投げかけた時、車は止まった。
そしてネイサン側の扉が開く。
「それをどう使おうが君の自由だ。出来れば君が私の意にそぐう形で、この呪文を使う事を願っているよ」
ネイサンは車から降りる。
そして車は去って行ってしまった。
「人や魔法生物を操る事の出来る呪文……」
ネイサンは考える。
もし本当にこの呪文が人や魔法生物を操る事が出来るとしたら。
これは、このマッセール王国からゾロール人という悪を取り除く為に使うべきだと。
「良いのですか? 国王陛下、あの呪文を訳の分から無い中年に渡してしまって」
ネイサンが去った後、車の中でクロスは専属秘書のモールスに声をかけられた。
「くくく、楽しみだな。あいつはあの呪文をどう使うかな?」
クロスは不適な笑みを浮かべている。
まるで全てが自分の思い通りに進んでいるかのように。
「モールス、差別とは便利だな」
「はい?」
「差別があるから人をコントロールする事が出来る。私のような王は積極的に差別を利用するべきなのだよ」
「はぁ」
「私は差別を利用して馬鹿でカスな国民を更に支配するつもりだ。誰にも邪魔はさせない」
「なるほど」
車は去って行く。
不適な笑みを浮かべた国王を乗せながら。




