エイデンの決断
「お早うございます。エイデン」
翌朝、レインは登校中のエイデンに声をかけた。
「ど、どうしたんですか? その目のくま?」 レインは振り返ったエイデンを見て驚く。
彼の目の下には、はっきりとくまが出来ていた。
「ううん? 何でもないで……」
「何でもないわけないじゃないですか。凄いくまですよ。しかもいつもみたいな元気もないし……」
「えぇねん、なんにもないねん」
「いや、でも……」
「大丈夫や! 問題はない。俺は今日も自由や!」
その時、始業を告げるチャイムが鳴る。
「おぉ、授業が始まる時間や。ほなな!」
エイデンはまるで、逃げるようにレインの元を去って行った。
「ううん。これは何かありますね」
昼休みの時間。エイデンはアンドリューに校舎裏へと呼び出された。
校舎裏は木々が植えてあるだけで、この時間、滅多に人は来ない。
密会をするにはうってつけの場所だった。
「来たで、アンドリュー」
「よぉ、エイデン。待ってたぜ〜」
アンドリューは思い悩んでいるのか焦燥している。
かなり追い詰められているのだろう。
「アンドリュー、昨日の答えやけど……」
「エイデン、お前は確か自由が好きだったよな」
「うん? なんや急に? まぁ、そうやけど」
「俺も、そう昨日、一晩考えたんだ。そしてある結論に至った」
「……なんや?」
「俺も自由を愛そうと思う」
「……なんでや」
「そう! 俺は自由な存在。お前と同じ自由になろうと思うんだ」
「……」
「俺の自由には、『人を差別する自由』も含まれている。だから、ゾロール人を差別しても良い。そういう結論に至ったんだ」
「……アンドリュー」
「なぁ、お前も俺と同じ『人を差別する自由』を謳歌しようじゃないか! 一緒に、ムカつくゾロール人を、この国から追い出そうぜ〜」
エイデンは考える。
もし仮に自分だけが自由を謳歌しようとしたら、そういう考えも出てきてしまうだろう。
でも、それは自分の自由を犠牲に他の人間の自由を奪う事になる。
自分の追い求めて来た自由は、そのような自由だったのか?
レインの言っていた事が引っかかる。
他者とやって行く為には、自由以外にも禁止している事にも目を向けるべき。
エイデンの結論は……。
「アンドリュー、それは無理な相談や」
「はぁ?」
「俺は誰かの自由を奪ってまで、自由を謳歌しようとは思わへん。お前の言う『人を差別する自由』は認められへんのや。人を生まれた国で判断したらアカン。その国には色々な人がいる。そんな事も分からへん男にはなりとうない」
「わ、分かっているのか? アンドリュー。俺が、お前がテストをカンニングしていた事をバラしたら、お前は終わるんだぞ?」
「それで結構や! アンドリュー、一緒に罪を償おう」
エイデンはアンドリューの脅迫をきっぱりと断った。
それがエイデンの自由。進む道。
その決断をした事に後悔はない。
「く、クソがっ! なら最終手段だ!」
「アンドリュー、何をするんや!」
アンドリューは杖をかざす。
「メテオフォール!」
アンドリューは呪文を唱えた。
すると巨大な魔法陣が地面に出現。
嫌な音をたてている。
「これは?」
「これは、この学校に隕石を落とす魔法さ! 仕掛けるのに一ヶ月はかかるが、いざという時の為に校舎裏に、こっそりと仕掛けていたのさ!」
「隕石を落とす魔法って……、そんなもん仕掛けてどうするんや!?」
「どうせ、俺は退学だ。だったら、この学校の生徒達を道連れにしてやる!」
「道連れって、お前、本気で言っているんか?」
「あぁ、本気だとも。こんな学校、俺がぶち壊してやるよ!」
アンドリューは本気で学校を壊すつもりだ。
まだ校舎の中には人が多い。ここで隕石なんて放たれたら、甚大な被害が出る。
しかしエイデンは、この魔法の解除方法を知らない。
一体、どうすれば?
「ははは! どうする? 俺を倒しても、この魔法は消えはしない。どうするエイデン?」
誰か。誰か、助け……。
「メテオファースデュオ!」
その時、エイデンの背後から呪文が唱えられた。
その呪文は光となって、巨大な魔法陣に突き刺さる。
そして、その魔法陣を破壊してしまった。
「な、何だと? この魔法は学生なんかが破壊出来る魔法じゃ……」
エイデンは呪文の声が聞こえた方を振り返る。
そこに立っていたのはレインとルビーだった。
「流石だな。レイン。仕掛けるのに一ヶ月かかると言われている魔法陣を、いとも容易く破壊するとは」
「まぁ、この位は余裕ですよ」
レインはエイデンの様子が可笑しい事に気付いていた。
だから、こうして彼の背後を会長と一緒につけていたのだった。
背後をつけていて良かった。お陰で生徒達に怪我を負わせなくてすむ。
「く、クソ!」
もう無理と悟ったのか、素早く逃げようとするアンドリュー。
「む、会長」
「あぁ、分かっている」
ルビー会長は地面を蹴って飛んだ。
そして素早くアンドリューを捕獲。
動け無くなるアンドリュー。
「クソっ! 離せ!」
「校舎を破壊する事は立派な犯罪だ。残念だが警察に突き出させてもらう」
エイデンの元に駆け寄るレイン。
「エイデン、怪我は無いですか?」
「あ、あぁ、俺は問題無いで……」
怪我は無さそうなエイデン。
その表情は、アンドリューの事を心配している様子だった。
「なぁ、レイン、アンドリューは、どうなるんや?」
「残念ながら警察行きです。その事は覚悟していて下さい」
「そうか……」
この状況でアンドリューの事を思っている。
まぁ、エイデンらしいといえばエイデンらしいけど。
「ふはは! エイデン、これで終わりだと思うなよ!」
アンドリューは、まだ何か言いたいようだ。
「お前がカンニングしようとしていた事を全部、バラしてやる! そうなれば、お前は退学だ!」
「かまへんよ」
「へ?」
「言ったやろ。一緒に罪を償おうって、その言葉に嘘はあらへん」
エイデンはアンドリューに近づく。
「なぁ、今度は楽しい事でストレス発散しようや。約束やで」
そして、優しい言葉をアンドリューにかけた。
「エイデン……」
その言葉に心のつっかえが取れたのだろうか。
「ううう。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」
アンドリューは泣きながら謝罪した。




