補習開始
「と、いう訳で、今日から補習を開始するぞ!」
翌日の放課後、空き教室にて。
何故か黒のスーツに伊達メガネ姿という、いかにも女教師っぽい格好に着替えたルビーが言う。
「会長、どうしたんですか? その格好」
「うん? こいうのは先ず身なりからだろ。違うか? レイン」
ルビーは意外と形から入るタイプだった
「まぁ、好きにすれば良いですけど。所で、エイデン、良く捕まりましたね」
教壇に立つルビー、その前にはエイデンが座っている。
「うん? なんか面白そうだったから来たで〜」
どうやら彼は興味本位で、この教室に来たらしい。
「ふふふ。自慢じゃないが私は教えるのが上手いと定評があるんだ。では、行くぞ。エイデン」
こうして、ルビーの授業が始まった。
「えー、先ずは教科書の十ページ。魔法力学の授業から始める。エイデン、例えば、空中から撃つ魔法と地上から撃つ魔法。二つがせめぎ合い、本人同士の魔力が同じだった場合、どちらが有利だ?」
これは初歩中の初歩の魔法力学の問題。
重力の関係上、空中にいる者が真上だった時は、空中にいる者。しかし、真上以外だったら角度によって変わるという物。
こんな問題、誰にでも分かる……。
「はい。俺、牛丼が食べたい!」
「はぁ?」
「俺は今、牛丼が食べたいんや!」
「いや、私は今、問題を出しているんだぞ。聞いているのか?」
エイデンは絶対、話を聞いていない。
牛丼を食べたいの一点張りだ。
「ちわ~っす。ミートーイーツです」
事前に注文していたのだろう。
宅配の人がクラスに来てしまった。
「いや、今は授業中ですよ」
「えー、この牛丼受け取って貰わ無いと困りますよ〜」
「仕方ない。特別に許そう」
来てしまった物はしょうがない。
エイデンは牛丼を受け取った。
「おぉ、うまいのう。この牛丼。やっぱり藤の屋は最高や〜」
受け取った牛丼を美味しそうにほうばる、エイデン。
いや確かに美味しそうだけど、今は授業中。
レインとルビーは困惑した表情を浮かべた。
「では、続きだ。エイデン。さっきの問題、答えはなんだ?」
「うーん。でもな、この牛丼、何か足りへん気がするねん」
「またか! 流しソウメンの時といい、なんで何か足りないんだ!」
どうやらエイデンは牛丼に満足していない様子だ。
「ちわ~っす。ネットスーパーで〜す」
その時、再びクラスに荷物が届く。
「また、なんか届きましたよ!」
「エイデン、君は今度は何を頼んだ?」
「見たら、分かるで〜」
ネットスーパーから食材を受け取る、エイデン。
クラスの机に牛肉や玉ねぎ、パックご飯など、様々な食材が並べられた。
「いや、エイデン、これから何をするつもりですか?」
「牛丼や。牛丼を一から作る!」
「はい?」
「俺は思ったんや。毎回、なんか違う気がする牛丼。そんなら一から作った方が早い。だから俺は牛丼を一から作るんや!」
「む、無茶だ……」
しかし、やる気はあるエイデン。
「よし、先ずは牛肉と玉ねぎを煮込む所から……は! 鍋が無い」
しかし、このクラスに調理器具が揃っている訳は無い。
「なら先ず、ご飯を作る所から……は! 電子レンジが無い!」
「こんな学校の教室で、料理を作るのは無理だと思いますよ」
「なら、場所を変更や。ルビー会長、調理室で授業してくれ!」
「それは無理だ。エイデン……」
授業は、ほぼ、調理室で牛丼を作ろうとするエイデンを説得するのに費された。
「えー、という訳で、今回、テストに出る範囲は、ここまでだな」
それでも、なんとか立て直し授業を終えるルビー。
「く〜、くかぁ〜」
しかしエイデンは寝てしまっている。これでは授業は頭には入らないだろう。
「ううむ。案の定寝てしまったな」
「困りましたね。どうしましょう?」
「……レイン、私は、エイデンは自由の意味をはき違えているように思えるんだが、どうだろうか?」
「僕も、そう思います」
「私も自由が、なんなのかは分からない。しかし、彼は、このまま自由過ぎてしまったら孤立してしまうような気がするんだ」
「まぁ、そうなるでしょうね」
「うーん。どうしたら良いんだ。一体?」
エイデンは、はっきり言って自由過ぎて、周りに迷惑をかけてしまっている。
その事は、彼には告げた方が彼の為になるだろう。
レインは、そう思ってエイデンを起こした。
「エイデン、起きて下さい」
「は! 授業終わったんか?」
「えぇ、終わりましたよ」
「よし! 今日は、バッティングセンターに……」
「エイデン、貴方は自由が好きなんですよね」
「うん? あぁ、そうや。自由は何より大切や」
「しかし、貴方は”自由”だけでは無く”禁止”されている事にも目を向けるべきです」
「禁止されている事?」
「何処の場所にも禁止されている事というのは存在します。自由とは、その禁止されている事の内側に過ぎないんです」
「……」
「その人が何を禁止しているのか。何故、禁止しているのか、そういう所にも目を向けた方がいいですよ」
「……うーん。よう分からへんな」
駄目、だったか。
「でも、あんたが俺の事を思ってくれるのは分かるわ。考えとく」
お、どうやら意外と話は聞いてくれるみたいだな。
「ほな、俺はバッティングセンターに行ってくるわ。じゃあな!」
そう言って彼はバッティングセンターに行ってしまった。
「これで彼も変わってくれると良いんですけど……」
「あぁ、そうだな」




