クズ男、闇カジノに挑む
500万負けた。
バカラで50万勝ったところでやめとけばよかったんだ。
そのあと、調子に乗ってポーカーの席に座ったのが運の尽きだった。
負けに負けて最終的に500万マイナス。
俺の借金が2560万くらいまでに膨れ上がった。
終わりだ終わり! 俺の人生おーわり!
俺は打ちひしがれながら宿へと向かった。
途中でコンビニっぽい店で飲み物数本とサンドイッチ二つとパンをいくつか買った。
一万もした。
ふざけんなよ、この街。
「あ、おかえりなさい!」
部屋に入るとヒマリちゃんが笑顔で迎えてくれた。
どうやら俺がギャンブルに勤しんでいる間に朝の身支度を整えていたらしい。
昨日あれだけのことがあったのにそれを感じさせない元気な姿を見せてくれた。
対して俺は数時間で500万スッた男である。
頬がひきつるのも仕方がない。
「た、ただいま。朝ごはん買って来たから食べようか」
「ありがとうございます! いくらでした? 半分出します」
普通の大人の男ならここは、いいよいいよと答えるだろう。
だが俺は普通ではないクズな大人である。
「えーと、全部で一万だったから……」
ヒマリちゃんは笑顔で「じゃあ五千円ですね!」と言いつつステータスリングを差し出してきた。
俺も慌ててリングを出すと五千円が入金される。
このリング、非常に便利だが危険だな。
ギャンブルをしてわかったが金の感覚が薄いからついつい使いすぎてしまうし、実感がない。
キャッシュレス決済とかクレジットカードも消費が激しくなりやすいし、やはり現金の方が自分を抑制できるのかもしれない。
うん、もうギャンブルはやめよう。真面目に探索するんだ!
そう思った時、お腹の虫が盛大に鳴いた。二匹いた。
互いに顔を見合わせる。
ヒマリちゃんは恥ずかしそうに俯いてしまった。
腹が減って当然だ。
昨日の午後から何も食べてないんだし。
互いに苦笑して朝ご飯を食べた。
パサパサで味気なかったけど美味かった。少しだけ元気が出た。
「あの、シンさんはどうして借金を?」
食事を終えるとヒマリちゃんが聞きづらそうにしながら口を開いた。
「あー、えーと、そのー……ギャンブルです」
「あ、そ、そうなんですね。ギャンブル……」
気まずい空気が流れる。
くっ! ダンジョンではちょっと頼りがいのある大人のイメージを与えられたと思ったのに、まさか一瞬でダメ人間の証拠を提示することになるとは。
しかし嘘も吐けないしな。
一緒に行動するんだからどうせバレるし、逆に株が上がっている内に白状した方が傷は浅いってもんだよな。
ヒマリちゃんはちょっと引いているように見えた。
そりゃ引くよね。ごめんね、こんなクズで。
「ヒ、ヒマリちゃんは? どうして借金があるんだ? どう見ても高校生だし、自分が大金を使ったってわけじゃないよな?」
「……亡くなった父の借金です。母が遺産を相続した後で見つかったみたいで……母は親戚や知り合いに頼んだり、休みがないくらい働いたりして返済していて、私はできるだけ母に負担をかけないようにバイトしたり、勉強して特待生になったりしていたところ、母が急逝しまして。生命保険である程度は賄えたはずだったんですが、どうやら父は闇金に借りてたらしくて……」
「それで借金が膨れ上がってたってわけか」
「はい……。残った借金は3000万。弁護士さんに頼んで一時的にどうにかなっても一生追いかけると脅されて、妹がまだ小学生で小さいので余計に怖くて……か、体で稼ぐって手もあると言われて、額が額だから妹も手伝わせるって言われて……それで……た、探索者って手段もあるって……だから、だから、私……」
話の途中から嗚咽を混ぜながら話していた。
そんなヒマリちゃんを見て、クズな俺でも胸を痛めた。
彼女は高校生で妹さんは小学生。
子供二人を巻き込んだ奴らに嫌悪感を抱く。
九頭竜たちだ。
あいつらがやったのだ。
反社会勢力に所属する人間というのはまともな人間じゃない。
奴らに道徳心とか倫理観なんてもんはないんだ。
「妹は親戚に預けていますけど……ずっと面倒を見てくれるとは思えませんし、何より妹が心配で。だから早く借金を返して、妹を迎えに行ってあげたいんです」
頬を濡らし、顔をしわくちゃにするヒマリちゃんを見ると、リリのことを思い出した。
まるで昔のリリが苦しんでいるかのように錯覚する。
ヒマリちゃんはリリの面影を色濃く継いでいるようだった。
俺は金に汚い。
金は大事だし、喉から手が出るほど欲しい。
金があれば世の中の八割くらいのものは手に入ると思っているし、金で解決できることも多いからだ。
でも、ヒマリちゃんや妹ちゃんを助ける方がもっと大事だと心から思えた。
どうやら俺はまだ腐り切ってはいないらしい。
人のために頑張ろうと思うくらいには人間味が残っているのかもしれない。
リリの家族だからってのが大きいんんだろうが。
「わかった。一緒に借金を返していこう! そのためには探索を頑張らないとな!」
俺は立ち上がると拳を握り、決意を新たにした。
ヒマリちゃんは少しだけ目を見開いて俺を見上げると、目じりに溜まった涙を手で拭って立ち上がった。
「は、はい! 頑張ります!」
「よし! その意気だ! そうだ。念のため、互いの借金も見ておこうか!」
ステータスリングを掲げて互いの画面を表示する。
俺の借金は2555万5000円。
ヒマリちゃんの借金は3055万5000円だ。
互いに上限は3500万。
それを超えると強制回収に入る。
つまりゲームオーバー。
ヒマリちゃんはあと444万5000で上限か。あまり余裕がないな。
「お互いにすごい額になっちゃってますね……あの、シンさんの借金ってギャンブルなんですよね? 競馬とかですか?」
「いやほぼパチンコパチスロだよ。カジノに行ったのはさっきが初めて……」
墓穴を掘った。
語るに落ちた。
気付いた時にはもう遅かった。
俺は咄嗟に自分の口を手で覆う。
その行動もあからさますぎた。
探索で得た評価はすでにギャンブルで借金をしたという話でトントンくらいになっているはず。
さらについさっきカジノで多額の借金をこさえてしまったという事実が加われば評価は急落するだろう。
俺は恐る恐るヒマリちゃんを見た。
彼女は驚いたように目を何度もパチパチしていた。
「……もしかしてアルフヘイムのカジノに行っちゃったんですか?」
「…………はい」
俺は体を小さくしながら俯いて答える。
怖い。
ヒマリちゃんの呆れのため息が聞こえるんじゃないかと怖くてしょうがない。
「ここは無法地帯ですから表のギャンブルよりも危険でしょうし。アルフヘイムでのギャンブルはやめましょう……ね?」
子供を諭すように優しく言われてしまった。
ちょっと困ったように眉根を寄せているヒマリちゃん。
相手は高校生。俺はアラサー。
しかし不思議と情けなさよりも、見捨てられなかったことに安堵してしまう俺。
29歳のおっさんが大人として終わった瞬間だった。
「……ごめんなさい」
俺は素直に謝った。




