表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/19

クズ男、探索を始める

 俺とヒマリちゃんが『裏ギルド』と呼ばれる探索クエストの斡旋や探索者関連の管理を担っている施設へと向かう途中、周りから好機の視線にさらされた。

 女性が少ないからか、あるいは女子高生だからか、にやにやと笑いながらこちらを見る男たちばかりだった。

 ただ近寄っては来なかった。

 日中だからだろうか、少しだけ治安が良くなっている気がする。

 腰や背中に剣やら槍やら持っている探索者連中なので何をされるかわからない怖さがあるから油断は絶対にできないが。


「い、急ごう」

「は、はい」


 俺とヒマリちゃんは視線から逃れるように早歩きで大通りを進んだ。

 裏ギルドは大通り沿いにあった。

 三階建てで下層の建築物の割には意外に豪華な作りだ。

 コンクリート構造でやや現代チックな見た目をしている。

 出入りする人が多い。

 かなり活気があるようだ。


 裏ギルドに入ると屋内にいた連中が一斉にこちらを見てきた。

 街中の連中よりもさらに一段階ヤバさを上げた奴らに見える。

 実際、ここにいる奴らは全員探索者。

 つまり一般人とは異なりレベルやスキルを持つ連中だ。

 あまり関わりあいにならない方がいいだろう。


 玄関は広々としており、俺が知っているギルドと構造は同じだった。

 正面に受付、側面に注意事項など情報が張られた掲示板、その反対側面にはベンチがある。

 ただパソコンやテレビなどの機器はなく、すべて書籍か紙ベースだ。

 ダンジョン内には現代機器を持ち込めないのでそこは不便だな。


 受付へ進むとだるそうにしながら手のネイルを塗っている女性が目に入る。

 他の受付の人は対応中らしい。


「あの、すみません」

「はーい、何か用?」


 フランクである。敬語なしの上に、目線をこちらに向けてこない。

 ちょっとムッとしたが無駄に波風を立てる必要はない。

 というかできれば印象を良くしておきたいところだ。


「実は昨日この街に来たばかりでして」


 ダウナー受付は少しだけ俺たちに興味を持ったのか顔を上げた。

 俺とヒマリちゃんを交互に見ると首をかしげる。


「……パパ活?」

「ちげぇ! 俺はこの子の……叔父みたいなもんで!」

「ああ、はいはい。パパ活オジね。まあ、別にどっちでもいいけどさ」


 どっちでもよくない! ヒマリちゃんが横であわあわしてるだろ!

 確かに傍から見ればパパ活してるみたいに見えるかもしれんが。

 ヒマリちゃんは制服姿だし。


「じゃ、登録してねぇ。これ登録用のリングね」


 ダウナー受付が取り出したのは台座に固定されたステータスリングだった。

 どうやら裏ギルドの登録にはステータスリングを使うらしい。

 俺とヒマリちゃんは登録用リングに自分のリングを近づけて、裏ギルドに登録した。

 近づけると登録のタブが出てきたので簡単だった。


「リング確認して」


 ダウナー受付に言われてステータスリングを確認する。


○裏探索者ランク:アイアン


 裏探索者ランクが追加されている。

 裏ギルドで登録しないと正式に裏探索者とは認められないわけだ。

 ダウナー受付は面倒くさそう頬杖をつきながら口を開いた。


「んじゃ説明ね。ランクには何種類かあるけど面倒だから省くね。裏ギルドの依頼をこなしたり、素材を持ち込んだりするとランクが上がるけど面倒だからそこら辺は自分で調べて。一応、裏ギルドではパーティの斡旋もしてるけど、おすすめはしないかな。ここ、ヤバい奴らばっかりだし、あとフォローが面倒くさい。少人数でいるのも危険だけどさ。大抵はアライアンスに入るね。まあ、どこも入団テストあるし、新人はよっぽどメリット提示しないと入れないけど。例えばその子とか」


 ダウナー受付がヒマリちゃんを指さす。

 ヒマリちゃんは突然、自分に注視されたことで驚いたようで、ビクッと肩を震わせていた。

 しかし表情に驚きはあれど恐怖や緊張は見られない。意味がわかってないのだろう。


「……それはなしで」

「あそ。ふーん、本当にパパ活じゃないんだ。それとも意外にご執心とか?」

「あ、あの! シンさんはそういう人じゃありません! 私の母の友人です! だからパ、パパ活とは違います!」

「あら、真面目系? 連帯保証人とかで借金こさえちゃったパターン? ま、どうでもいいけどさ。これで説明は終わり。初心者ガイドブックあるけど買う? 50万」


 ダウナー受付が出してきたのは小さな冊子だった。

 表なら無料で貰えそうな薄っぺらさだ。これが50万。清々しいぼったくりだ。

 恐らく、ダンジョンに明るくない連中に必要な情報が少しだけ載っている感じだろう。

 正直、買う価値はないと思う。

 ドーラに教えてもらった情報で十分だろう。多分。


「いや、やめとく」

「そ。ま、後悔しないようにね。死んだら終わりだからさ」


 脅しとも取れるが、ダウナー受付は大して気にした様子もなく、冊子を机下に入れた。

 恐らく本心だろう。彼女にとってはどうでもいいみたいだ。

 ダウナー受付は最初の時と同じようにネイルを塗り始めた。

 もう用はないということだろう。


 どういう接客態度ですか。

 俺は表世界の人たちの真面目さ、まともさ、勤勉さ、優しさをすでに感じ始めていた。

 昔、ギルドでバイトしてた時はこんな受付いなかったし、いたら厳しい指導を受けることになっていただろう。

 まあ、俺はほぼ裏方だったけど。

 学生バイトだったし。


 別にいいか。

 俺にとって大事なのは探索だ。またあの快感を味わえるんだからな!


「次は装備や服を買いに行こうか」

「はい!」


 俺はパチンコ来店早朝のようにわくわくしながら店を出た。

 ヒマリちゃんはそんな俺を見て、きょとんとした後、なぜか少し微笑ましそうに笑ったのだった。


  ●□●□●□


 俺とヒマリちゃんは町はずれにあるダンジョン前に来ていた。

 すでに闇市で装備を購入している。

 俺は中古のレザーアーマーと使いやすそうな短剣(ショートソード)

 ヒマリちゃんも中古のレザーアーマーとシンプルな弓矢と矢筒を購入した。

 どうやら弓道の心得があるらしい。

 そして制服から私服に着替えた。

 簡素なシャツにショートパンツという動きやすい格好だ。

 おかげで周りからの視線は少なくなったように思う。


 他にも中規模のバックパックを二つとFランクの回復薬を一つずつ購入した。

 探索装備には色々な種類があり、回復薬、解毒薬、強化薬など様々だ。

 表でも販売されているが需要も価格も高く、一般人が簡単に手を出せるものでもない。

 Fランクの回復薬は出血を多少抑えて、軽傷を完治し、中傷を多少癒すくらいの治癒力を持つ。

 それがなんと一つ30万である。

 高すぎるがいざという時を考えて購入しておいた。

 合計で一人200万。

 もう金銭感覚がおかしくなってきた。


 現在、俺の借金は2755万5000円。

 ヒマリちゃんの借金は3255万5000円である。


 早いところ収入を得ないとヒマリちゃんの上限に達しそうな勢いだ。

 余裕はあまりない。


「結構、人がいますね」


 落ち着かない様子で周りを見回すヒマリちゃん。

 ダンジョン周辺には探索者らしき人たちが集まっていた。

 強面で厳つい連中ばかりで、中には亜人もいた。

 半獣人と言えばいいだろうか。

 耳と尻尾があり、全身に毛が生えており、顔は獣っぽい風貌だ。

 犬、猫系の亜人が多い。

 表世界では画像や動画で彼らの姿を拝むことはできないので、ちょっとだけ嬉しかった。


「も、もふもふしてますね」

「街中にも何人か見かけたな。やっぱりここはダンジョンの中なんだな」


 ダンジョン内にダンジョンがあるという不思議な状況だ。

 いや、今はそんなことは置いておこう。

 俺たちがすべきことは金を稼ぐこと。

 つまり探索するのが最優先だ!


 それにさっきからちらちらとこちらを見ている奴らがそこかしこにいる。

 やはりヒマリちゃんの存在が目立つのだろう。

 制服姿ではなくなったが十代の女性という時点で珍しいからな。

 男衆の見る目が危ない。

 特に顔面にタトゥーを入れた明らかにやばい奴らの集団。

 ニヤニヤしながらヒマリちゃんを見ている。

 幸いにしてヒマリちゃんは奴らの視線に気づいていない。


 早いところダンジョンに入ろう。

 ダンジョンのゲートは常時解放されているらしい。

 いつでも誰でも入れるということだ。

 表と違って管理はずさんだな。


 空間に生まれている歪みを境に別の光景が広がっている。

 実際に見るのは二度目だが、幻想的な光景だ。


「じゃあ、入ろうか」

「は、はい!」


 俺はワクワクしながら、ヒマリちゃんは緊張しながらダンジョンへと足を踏み入れた。

 自然系のダンジョンらしく、内部は鬱蒼と茂った森の中。

 空は青々としているが、遠くの方で飛んでいる鳥らしいモンスターの姿が見えた。


「このダンジョンはアルフヘイムで一番簡単なEランクダンジョン。『環境』は自然系、『傾向』は通常だ。昨日のダンジョンと同じくらいと思ったらいいよ」


 ちなみにダンジョンの名称は『E28』である。

 28番目に生まれたEランクのダンジョンという意味だ。

 まんまだな。


「ダンジョンって洞窟みたいなイメージだったんですけど、開けた場所もあるんですね」

「洞窟が基本的な形ではあるけど、こういう森や丘、砂漠なんて場所もある。ダンジョンとは言うけど、閉鎖空間というよりは別の環境世界みたいな感じだ。亜人もいるくらいだからな」

「亜人さん……さっき他の人と話していましたね。ドーラさんもそうですけど、モンスターとはまったく違うような?」

「モンスターも亜人もダンジョンに住む生物だけど、モンスターは会話が通じない敵で、亜人は会話が通じる人間寄りの存在って感じだな。まあ、ダンジョン学の分類的には差はないって見解らしいけど」

「さすがシンさん、詳しいですね!」

「がはは! まあな!」


 ヒマリちゃんは心底感心したように可愛らしく小さく拍手をしてくれた。

 人に褒められるのは嬉しいものだ。

 最近、勤めていたバイト先でも若い連中に役立たずのおっさんと馬鹿にされながらこき使われてたし。

 しかも最終的にクビされて。

 俺が一番働いていたのにバイトテロ起こしたの俺のせいにされたんだぞ。

 なんだか泣けてきた。忘れよう。


「今日は探索に慣れるために入り口近くでモンスター討伐と素材集め、あとクエストを受けておこうか。ステータスリングから受けられるはずだから」


 俺とヒマリちゃんはリングを起動し、ホログラムを表示した。

 タブには元々表示されていたステータス、所持金に加えて、ギルド情報、クエストリストなどが追加されている。

 クエストリストに環境自然ダンジョンの条件に該当するクエストを探すと、自然系ダンジョンのモンスターの素材『ノコキノコ』と『緑銅鉱石』の採取のクエストが一つずつあったので受注した。

 報酬は品質や大きさによって変わるが、一つ1万から3万程度だ。

 表世界で考えるとかなりの割高だがアルフヘイムで考えるとそこまで高報酬でもなさそうだ。

 表に比べて物価が約10倍だからな……水一本1500円したんだぞ。

 ヒマリちゃんにも同じクエストを受けるように伝えてから、リングを停止させる。


「よし、それじゃ探索開始!」

「開始―っ!」


 テンションが上がった俺は思わず右手を空へと伸ばす。

 ヒマリちゃんも俺に倣って同じポーズをとってくれた。しかもノリノリで。

 いい子だ。おじさん、嬉しくて足取り軽くなっちゃうよ。


 ここから俺たちの探索人生が始まるのだ。

 たくさんクリティカルヒット出して脳汁ドバドバ出して、大金稼いじゃうぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ