90.遠い星を見ながら Ⅱ
「…やっぱり、今の季節だと夜も暑い…ね。」
「う…、うん。暗いから焚き火も焚いてるしね…。」
久しぶりにちゃんと会話をするせいかお互いしっかりと相手の顔も見ずに、まるでお見合いでもしているような雰囲気で会話も良く途切れてどちらかというと沈黙の時間の方が長かった気がする。
だけど、そんな気まずい雰囲気に嫌気がさしたからか突然侑が俺の一番気になっていた話をするために口を開いた。
「終業式の日はごめんなさい、急に倒れて迷惑かけちゃって…。それにもう気づいてるかもしれないけど…」
「もしかして、理事長のこと?俺もだいぶ昔に見たっきりで、侑のうわごとでやっと思い出せた程度なんだけど…。」
「…うん、そうなの。私のお父さん国の防衛機関の偉い人だったんだけど、今から2年半ぐらい前に急にAHDの理事長になったんだ。それでね…」
侑はそこから一年半ぐらい前の自分の事を話してくれた。
この学園の理事長として働き始めた父が、まるで別人のようになってしまった事。そのことがきっかけで家族での生活が上手くいかなくなり、挙げ句の果てに理事長が家から出て行ってしまったこと。
生活がガラリと変わってしまったことにより侑とその母は色々な面でとても苦労したようで。
その時のことを思い出しながら話す侑の顔は、当時の苦しさを物語るように暗く重たいものだった。
「私、どうしても知りたかったの。どうして優しくて家族思いだったお父さんが、あんな風になったのか。」
「じゃあ、対抗戦前日に話してくれたこの学園にきて会いたかった人って言うのは…」
「そう、お父さん。」
侑はそう言うと腰掛けていた丸太から立ち上がり、海がある方へと歩き出す。
「私のどうしても直接聞きたいの。あの変わってしまった一年間に何があったのか。私が持ってるギアはね、中学に上がるお祝いにってお父さんがくれたものなの。これは私とお父さんの1番の思い出であり、私のいちばんの宝物でもあるんだ。あの時のお父さんとっても優しかったなぁ…。」
海の方を向いたままの侑は顔は見えないが、昔の父との思い出を思い出しながら話す彼女の声は、話が進んでいくごとに話し声が少し震えているように思えた。
無理もないことだと思う。
身近にいた人が別人のようになってしまったと言うことは、記憶の中にいる大切な人がまるで自分の前から消えて無くなってしまったようなものだ。
俺も姉さんがいなくなってしばらくは心にぽっかり空いた穴が塞がらず、脱力感が抜けなかったことがある。だけどそれらを経験し、なんとかそれを乗り越えた俺は、その虚無感に似た状態がどうすればマシになるかも知っている。
「話してくれてありがとう侑。それとごめん。辛いことを思い出させちゃって…。でも、俺なんだか侑の話を聞いて益々頑張ろうと思ったよ。」
「…どうして?」
同じく座っていた丸太から立ち上がり、侑の隣まで歩いてきた俺に侑は首を傾げながら不思議そうにそう尋ねる。
「前に話した通り、俺の上に行きたい理由はたった一人の大切な家族だった姉さんのことが知りたいからで。
同じように侑も大切なお父さんのことを知りたいから上に行くために頑張ってるわけでしょ?
今まで一緒にいろんなこと頑張ってきたことに変わりはないけどさ、理由が分かったことで共に大切な人のことを知りたくて頑張ってることがわかったから、自分と同じような理由で頑張ってる人が側にいて俺も侑に負けないようにもっと頑張らなきゃって思ったんだ。」
上手く言いたいことをまとめられなかったが、とにかく侑が頑張ってると言うことを伝えたかった。
思い悩んでる時は他者のその人への干渉が、心が辛くて視野が狭まってる人にとってとても大切なのだ。
実際俺も最初は嫌になる程姉達に構われていた。
だけど、そのやかましいぐらい俺と関わろうとしてくれたことで俺は辛いことばかり考える時間が少なくなり、今のように前とあまり変わらず笑えるようになった。
このやり方が今の辛く弱ってる心を持つ侑に有効かはわからない。だが、知って欲しいのだ。一人で塞ぎ込まずに周りに目を向けて生きることの大切さを…。
「ありがとう稜君。また励まされちゃったなぁ・・・・・・。」
「・・・・・・また?」
身に覚えのない俺は、さっきの侑と同じように首を傾げる。
「うん。お父さんが出て行っちゃって落ち込んでた時にね、稜君がAHDを受験するために頑張ってるところを偶然見ちゃって。その時の頑張ってる姿を見て、私もお父さんともう一度ちゃんと話すために出来ることを頑張ろうって思えたんだ。」
全然知らなかった。気づかないうちに俺の特訓姿が、侑に勇気を与えていたなんて。
でも、その時の俺の姿を思い出したおかげか、ようやく久々にちゃんと見た侑の顔に笑顔が戻ってきていたことに気づき。
昔の頑張りがこのような形で役に立って、何もないと思ってがむしゃらに頑張っていた自分が少し誇らしく思えた。
「なんだかちょっと気持ちがスッキリしたかも。そのせいか、少し気分が開放的になってるのかも。」
侑はそう言い終えると、何故かいきなり羽織っていたパーカーや着ていたTシャツを脱ぎ始める。
「ちょっ、何やったんの侑さん!?」
急いで目を塞ぐ俺に侑はすぐさま声をかける。
「心配しなくても大丈夫だよほらっ!」
パシャッ
「冷たっ…。」
急に飛んできた水を浴びて、驚きのあまり俺は目を塞いでいた手を咄嗟に下す。
すると、目の前には昼間に着ていた水着を纏った侑が立っていた。
「水着着てたの?」
「うん。なんだか、もうちょっと海で遊びたくて。稜君もどう?昼間気絶しちゃってあんまり遊べてなかったと思ったから。」
もしかしたら侑は俺に気を遣って、俺と見張りをすると聞かされた時からこうやって夜海で一緒に遊ぶことを計画していてくれたのかもしれない。
実際のところはどうかわからないが、せっかくの侑のお誘いだし、昼間に思う存分遊べなかったのも事実なので、ここは侑の誘いになって一緒に少し遊ぶことにした。
静かな夜の海に、見張りの仕事中に二人で水をかけあって遊ぶ二人の小さな声だけが聞こえていた。
これぞ青春の一幕とも言えるシチュエーションに感激する俺であったが。見張りをおろそかにしたせいか、二人だけしかいないはずの砂浜に、一つの足跡が確かに近づいていることに俺たちは気づいていなかった。
今日の投稿で、三ヶ月連続で小説を投稿したことになります。
途中からストックなしの状態でなんとか1日1話し続けた結果、あっという間に三ヶ月経っていたと言うのが正直な感想です。
今まで私の描く小説を読んでいただいた皆様には大変感謝しております。
これからも投稿を続けていきたいと考えておりますので、もし更新されているのを見かけた際は、読んでいただけると嬉しいです。
六凰 采




