87.砂浜にて Ⅲ
「ハァ…、ハァ…。」
砂浜に響き続けていた艶めかしい声が止んだ頃。日焼け止めを背中に塗り終えられた金恵はまだ背中に残る微々たる刺激に体を震わせながら息を切らしたいた。
「あらあら金恵ったら。よほど気持ちが良かったんですね。稜君もお疲れ様でした…って、どうしたんですか?そんなにぐったりして?」
三人に日焼け止めをサンオイルを塗っている途中から何故だかどんどん体がだるくなっていっている感じがする。
「どうした稜?興奮しすぎて疲れたか?いや、顔はさっきより赤くなってるけど、血圧とかの問題じゃなさそうだな…。じゃあどうして…、あっ!もしかしてあれのせいじゃね?」
火鈴一瞬視線を海の方に向けた時何かに気付いたのか、それを俺に教えるようにある方向を指差す。
俺は指し示された方に顔だけ向けると、そこには先程侑と燕が遊んでいる場所に水姫と木陽が加わって四人で遊ぶ姿が見てとれた。
「あれがこの倦怠感の原因?ただ四人集まって次何をして遊ぶか話しているだけじゃない?」
「よく見ててみな。今はさっきしてた遊びが終わった所みたいだが、これからまた新しい遊びがはじまるみてぇだからよ。」
火鈴に言われた通り四人の方をじっと見ていると、次の瞬間、水姫と木陽は各自が持つ能力を駆使してとんでもない遊び行い始めた。
「ほら〜、みんな見て見て〜。あーしの能力で大量に海の水を操って、超ロングウォータースライダー作ったよ〜。」
水姫の能力で海から一本の水柱が上がると、それは空中に漂い続けながら長さを増してゆき、最後にはまるで透明な器を流れているように見える水流だけで出来たウォータースライダーが完成した。
「なんじゃありゃ!?水姫の奴何派手にやってくれちゃってんの?あんなに大量にゼストを使いそうな事やってるんじゃ、俺の体力もすごいスピードで減り続けてあっという間に無くなるに決まってんじゃん!」
このままではせっかく南の島まで来たのに極度のゼスト不足でまた気を失ってしまう。それだけはなんとしてでも避けたい。避けたいのだが…、止めに行こうにもすでに今の俺には立ち上がる力さえ湧いてこない。
その様子を見ていた美月と火鈴が俺の両肩に手を置いてくる。
「仕方ないですね。私の持つゼストを少し分けてあげますから、早いところあのはしゃいでる二人を止めていらっしゃい。」
「おう、アタシたちが持つなけなしのゼストを分けてやるんだ。無駄遣いしてまたバテるんじゃねぇぞ。」
二人はそう言うと俺の体に直接ゼストを流し込んでくれたが、よく考えたら元々俺のゼストを返してもらってるだけじゃね?という疑問を今は考えないようにして、動けるようになった瞬間一目散に四人が遊んでいる場所まで走った。
***
「ちょっと水姫!?」
「あれ稜ちんどしたん?あーっ、もしかして、この超絶ウルトラ楽しそうな水姫特製超ロングウォータースライダーをやりに来たの?」
「確かにウォータースライダーに関する事だけど、別に乗りに来た訳じゃないのよ。俺はただこんな風にゼストを無駄遣いしないでほしいと注意しに来ただけだよ。」
「ひどーい。無駄遣いなんてしてないよ!その証拠にこの作ったウォータースライダーで遊んでる陽ちん達の顔を見てよ。」
水姫に言われて今現在ウォータースライダーで遊んでいる侑と燕、そして木陽の三名は弾けるような笑顔をしながらとても楽しそうに滑り続けている。
「稜ちんは遊んでる三人をこんなに笑顔にする素晴らしいアトラクションを作るのが無駄遣いっていうの?」
なんだろう。変に真剣な顔をして反論してくるせいか、水姫の言ってることに妙に説得力のようなものがあるように思えてきた。
確かにここにくるまで元気がなかった侑は、もうすっかり元気を取り戻したかのように楽しそうに遊んでいる。
それはきっと、水姫と木陽が二人に混じって色々と普段の生活の中では味わえない楽しい遊びを能力を使って一緒にやってくれていたからなのだろう。
そう思うと、怒って注意するのではなく、むしろ感謝するべきなのではないだろうか?
「ごめん。俺が間違っていたかも。確かに、侑達が楽しんでくれるなら俺のゼストがほぼ底をつこうが別に大した問題じゃない気がしてきたよ。」
「でしょ〜。私たちも色々二人を楽しませようと頑張ったんだから〜。ねぇ、陽ちん?」
「そう、頑張った〜!」
いつの間にかウォータースライダーを滑り終えて近くに来ていた木陽は、突然話を振られて内容をよく理解していない様子だったが。とりあえず水姫に同意しておこうと元気な声で返事をした。
「そうだったんだ。ありがとう。ちなみにこのウォータースライダー以外は他にどんな遊びしてたの?」
「えーっと他にはねぇ…。あーしがサーフィンしたくて大きな波を何回か出したり。あと流れるプールみたいな事やりたくて、海に大きな渦作ったりだね。」
ん?
「木陽はね〜。沢山スイカ食べたくて、能力で沢山スイカ作って食べたよ〜。あと、水姫ちゃんに頼まれてログハウス作ったの〜。」
「それねっ!スイカ割りし放題だったし、ログハウスも完成度高くてマジで陽ちんの能力神かよって思ったし。」
「いやほとんど自分のしたいことのためにゼスト使ってんじゃん!?やっぱり俺がこんな体怠いのお前ら二人のせいだろ!!」
「そんなに怒らないでよ稜ちん。そだ、稜ちんもウォータースライダーで滑って遊んでみなよ。きっと気に入るから。あと、ゼスト使いすぎちゃってオコな事も水に流してくれたら嬉しいな。ウォータースライダーだけにね!」
「上手くねぇよって、ちょっ、何すんだコラ」
水姫達を怒ろうとした途端、素早く俺の背後に回り込んだ水姫は俺の体を抱き抱えたかと思うと、即座にウォータースライダーに向かって俺をぶん投げた。
すぐ振り解けば良かったのに、予想以上の力に背中越しに当たる水姫の胸の感触に気を取られ、不覚にも軽々と投げ飛ばされてしまった。
バシャンッ!!
「ゴポゴポっ…。」
「さぁ楽しんで行こうね稜ちん。いっぱいサービスするよ〜。さっきよりも水の流れを早くして、めちゃくちゃスリリングにしてあげるからね〜。」
水に全身浸かったままの状態であることなどお構いなしに、ウォータースライダーはさっきとは比べ物にならないスピードで水が流れ始めた。
「どぉーお?楽しーい!?」
まるで洗濯機の中に放り込まれたように目の回る思いをする俺は、もう解放して欲しいと水の中でジタバタして見せたが、それを水姫はものすごく楽しんでくれていると勘違いしたらしい。
「わぁー、良かった。楽しんでくれてるみたいだね。だったらもっともっと楽しくしてあげなきゃなぇ!」
何故かまたさらに加速する水の流れに俺は絶望感を感じつつ、抵抗する体力も尽きた俺は数分間されるがままに流され続けたのち、変に中途半端な位置でウォータースライダーから空中に放り出された。
「うぇ、気持ち悪い…。水姫の奴…後でとことんシバく…。」
水を加速させた分また新たにゼストを大量に浸かったのか、また急激な倦怠感に襲われつつ、意識が遠くなるように感じた。
ヤバイ…、今度こそ意識が落ちる…。
俺は意識が途切れそうになる最中、自分が飛ばされた場所からかろうじて上げた顔の視線の先の岩場に見知らぬ小さな銀髪の女の子が立っているのが見えた。
えっ…人!? なんで…?
目尻に赤い隈取をしている目で真っ直ぐにこちらを見つめてくる女の子は、無表情に見えながらも何処か寂しそうな眼差しでこちらを見ていた。
君は…一体…。誰…なん…だ。
俺はその女の子の姿を視界に捉えながらも限界が来たせいで、久しぶりに海の浅瀬で意識を失い眠りについた。




