83.魔の海域
と、まぁそんな感じで理事長に頼まれたので今その例の島まで向かっている最中というわけです。
えっ?なんか色々と端折りすぎじゃないかって?
理事長と侑が親子だとか、倒れた侑はその後大丈夫だったのとか、色々気になることが多いかもしれないが。あの後は大した事はなかった。というかあまり思い出したくない。
侑が倒れた時、娘が危ない状態かもしれないのに顔色ひとつ変える事なく、とりあえず保健室へと急いで運ばなければいけないと思い焦っていた俺に任務の成功を祈っている旨を伝えるだけだった理事長。
間違いないと思うが、本当に親子かと疑うほど冷たい反応の理事長の態度を見て文句の一つでも言っておけば良かった。
でも、あの時は侑のことで頭がいっぱいだったのでそんな余裕はなかった。
急いで侑を抱えて理事長室を後にし、保健室へと駆け込んだ。そこでヨーコ先生にお姫様抱っこで来たことをイジられたり、侑の体を冷やす為に急に着ていた服を脱がし始めたりしたので、保健室に居づらくなって外で待っていた。
一旦落ち着いた頃、ヨーコ先生が一応侑を病院に連れて行くというので、先生に侑を任せて俺はそのまま帰路についた。
家に帰った後、先に帰った燕達に事情を説明してアパートで合流。島の件を話したら二つ返事でみんな一緒に行くと言ってくれた。
姉達は話をした時点で何故か島に行く準備はもうほとんど完了していると訳のわからないことを言っていた。
夜になって病院から無事帰ってきた侑はみんなに迷惑をかけたことを謝り、島の件で自分も行くという意思を確認した後それ以外の事は何も話さずに自分の部屋へと帰っていった。
何故あそこにいたのか、理事長と過去に何かあったのか。それを俺から聞くのは違うだろと思った。
こればっかりは親子間の問題だ。俺が口を出すことじゃない。もしこの先、侑自身が俺達に何か自分の中に抱えた悩みを打ち明けてくれる時が来たら、その時は自分ができる精一杯の協力をしよう。
そう胸の内に想いを秘めて、俺も島への準備を開始した。
***
「気分はどうかしら?」
先程気分の悪くなった輪國先生を介抱する為に船内まで付き添っていたヨーコ先生が、いつのまにかデッキに戻ってきていた。
「あっ、ヨーコ先生。先生がくれた薬のお陰でだいぶよくなりました。今回は無理言って島の調査についてきてもらってすみませんでした。」
そうなのだ。ヨーコ先生が今ここにいるのは侑が暑さにやられて倒れた件があった為、また誰かに同じようなことがあった時の備えとして養護教諭のヨーコ先生に同行をお願いしていたからだ。
先生は快く俺の申し出を快諾。
ついでにその話を近くて聞いていた友子先生が、"私も皆さんの担任として一緒に行きます!決して、夏休み中の学校の仕事が嫌でそれを免れる為に皆さんに同行する訳じゃありませんからね!?"と、一人で訳のわからないことを言っていたが、いざとなった時頼りになる?大人が増えるのはこちらとしてもありがたいので友子先生にも一緒に来てもらうことにした。
「気にしないで。私も輪國先生もいい気分転換になるわ。そして、あの子もそうであるといいわね。」
そう言うヨーコ先生は、海を見ながら何処か元気のない様子で佇む侑の姿を見ていた。
「はい、本当にそうですね…。」
今回は調査が一番な目的だが、せっかくのみんなでの遠出だ。どうせなら、いつもと違う環境に身を置く事で、少しでも侑のリフレッシュになればと俺は思っていた。
季節は夏。それに南の島に行くとなれば、学生が誰もが憧れる夏休みの南の島のバカンスというシチュエーションだ。
仕事なので羽目を外しすぎるのは良くないが、少しばかり島で遊ぶことぐらいはいいだろう。
ただし…、それをするにはまず上陸不可能と呼ばれるその島に上陸しなくては…。
「ねぇー、みんな!あれ見て!」
突如船の先端付近にいた木陽が声を上げる。
彼女が指を刺す方向、少し進んだ先の海上に濃く深い霧が立ち込めていた。
「あの霧…多分自然に発生したものじゃないよ。あーしの能力で操れないし。」
「それは厄介ですね。確か、目的の島はここからもう少し行った先のはず。あの視界の悪い霧の中、船で進むのはいささか危険ですね。」
美月言う通りだ。確かに今回の任務のために前の調査団の得た僅かな情報をまとめた書類を理事長から受け取り、それに目を通したから知っている。
島に上陸できない大きな理由の一つがこの水姫も言っていた自然なものではない謎の霧。
この霧の視界不良のせいで、第一回目の調査団は引き返したそうだ。
自然のものでないと言うだけで不気味なのに、あの霧の中を進むのは少々勇気がいるな。
「どうしようか…。」
デッキにいるみんなと顔を突き合わせながら、あの霧をどう対処するかを考える。その考えてる途中の沈黙をさくように、操縦室の窓から身を乗り出した火鈴が声を上げる。
「何ごちゃごちゃ考えたんだっ!?あんな霧、邪魔なら吹き飛ばしちまえばいいだろうが!!」
火鈴は腕を天に向かって突き上げ、開いた手のひらの上にゼストを集中させる。
「"爆炎球"!行ってこい!!!」
クルーザーの上に、船よりも巨大な炎の塊が発生。
それを霧に向かって投げつけるように火鈴は腕を前方に振り抜いた。
勢いよく霧に向かって放たれた強力な炎エネルギーの塊は、霧に飲み込まれ姿が見えなくなったと思いきや。凄まじい勢いで爆発し、周りにあった霧を爆風で吹き飛ばして見せた。
「よっしゃあ!どんなもんだコラァッ!!」
「確かに霧は晴れたけど、ちょっと不味いかもね…。」
「あん?どういう意味だ水姫?」
霧を吹き飛ばしたことに得意げになる火鈴を他所に、水姫は今出した技の衝撃でこちらの存在に気づいた何かが水中を移動する気配を察知していた。
「水姫、それってまさか…。」
俺は水姫のテンション低めの声のトーンから、今少しやばい状態に陥っていることに気づく。
それは調査書に書いてあった島に上陸できない大きな理由の二つ目に関する事だった。
霧が発生している状況でも、お構いなしにその霧の中を進んでいった調査団はいくつもあったそうだ。しかし、その調査団がことごとく上陸に失敗している原因が今まさに俺たちの船の近くに迫っていた。
「みんな注意してっ!来るよっ!!」
水姫の掛け声と共に水面に蠢いていた巨大な影の正体が大量の水飛沫を上げながら、海上に姿を現す。
その正体とは、突如現れた島の影響。または流れ星がこの世界に降り注いでから鉱石の力で突然変異したと見られる無数の大型海洋生物。姿を形は様々だが、どれも明らかに俺たちの船よりも巨大で禍々しい姿をしていた。
「なっ、なんなんすかこれはーーー!?」
「おいおい、囲まれたんじゃねぇか?」
怪物達が姿を現した事で、俺は確信した。
俺たちの船は足を踏み入れたのだ。
数々の調査団の船を沈めてきた巨大生物がうじゃうじゃ住む、"魔の海域"と呼ばれる怪物達の巣に。




