80.デジャヴ?
事の発端は数日前。対抗戦で俺たちが見事勝利を納めた日の二日後に起こった。
「はぁ〜い、皆さん。先ほど説明しました通り、半月ぐらい早いのですが〜…。明日から夏休みとなります〜。早めに夏休みが来て嬉しいですね〜…。」
7月に入って最初のホームルームで告げられた突然の明日から夏休みという連絡。
普通ならば学生は長期休暇のお知らせに狂喜乱舞し、休み中に何処に行くかなど友達と計画を話し合いで教室の中は賑やかになるものだが、対抗戦によるクラス変動で移動してきたD組全体はそういう雰囲気ではなかった。
あ…暑い…。
教室内だというのに夏特有の肌を焼き焦がすかのような太陽の光が俺達を照らすこの状況。俺たちの試合があった次の日に行われた上位グループの対抗戦の影響で学園全体の大部分が破壊され、至る所に大穴やひび割れなどのが残り。そのせいで、せっかく移動してきたD組の教室はクーラーの冷気も意味をなさないほどの開放感あふれる灼熱の青空教室と化していた。
「話はここまでにして、今日はこのホームルームが終わったら皆さん即下校となります。そりゃそうですよね。こんな教室でこのまま授業しようものなら、いつ崩れるかわからないほど決壊した校舎に押しつぶされるか、過酷な暑さのせいで熱中症になるかで、命がいくつあっても足りませんからね。」
夏休みにいつもより早く入ることになった理由は、今友子先生が話した内容に大きく関係している。
例年よりも上位グループの対抗戦が校舎に及ぼした被害が大きいらしく、いつもその補修に当てられる筈の従来の夏休み期間だけでは足りないと判断されたようで。
急遽夏休みを大幅に延長。そして、それが決定された日の翌日からいきなり夏休み突入という運びになったそうだ。
***
「で?明日からどうするよ?夏休みがいつもより早く、しかも日数が増えるのはありがたいけどよ。いきなり休み貰っても、予定も何もない休みなんてただ暇なだけだよなぁ。」
「かと言って、何処か遊びに行くにしても、費用や時期的な観光地の混雑具合。その他様々な問題を考え出すと、遠出する気がどんどん削がれていくというものだ。」
「結局自分の家にいるのが一番いいなんて思っちゃうよね。」
「でも、せっかく高校生になったんだから高校生らしい夏休みってものをしてみたいっすよね〜。」
ホームルーム終了直後。さっそく夏休み中何をするかの話し合いが、いつものメンバーで集まって執り行われる。
「ねぇ、響八君は何処か行きたいところある?」
「えっ、俺!? そーだな〜…。」
みんなの楽しそうに話し合う様を見ていた俺の顔を覗き込むように、侑が俺に話かけてくる。
改めて何処行きたいかと言われても返答に困る。
中学時代の俺の夏休みの過ごし方といえば、家でゴロゴロするか、出された宿題やるか、家にいる姉とおしゃべりするかのどれかだった。
我ながら面白味のない夏休みを過ごしていたものである。中学の時、友達がいなかったわけではない。だけど、遊びに誘い合う程の仲でもなかった。
だから、せっかくできた気の合う仲間と夏休みに何処へ行けば楽しいのかよくわからない。
「悩んでるところ悪いけどよ。いい加減ホームルーム終わったんだからこんなクソ暑いところさっさと出て、涼しいところで続きを話そうぜ。」
腕を組み、汗をダラダラかいている櫂の提案にすぐさまみんなで賛成し、教室を出る。
「うお眩しっ、なんだ!?」
廊下に出た途端、不意に目に差し込む強力な集光。
驚いた俺たちは、その光が来た方向を手で光を遮りながら目を細めてよく見る。
すると、その光の出所が思わぬ人物の頭からきていることに気づく。
「あ"ん? そこのお前ら、何見て…、って!?お前らは…。」
奇しくも俺たちと同じタイミングで隣のE組から出てきたのは、対抗戦で戦った根津井だった。しかし、2日ぶりに見た彼の姿は、対抗戦と時とは大きく変わっていた。
「根津井…なのか?それにしても…ぷっ、お前w その頭…。」
俺を含めたいつものメンバー五人が根津井の姿を見た瞬間、皆笑いを堪えるのに必死になる。
なんと、根津井の特徴の一つとも言える長さの整ったおかっぱ髪が綺麗さっぱり無くなっており。ツルツルの頭が太陽の日差しを四方八方に反射し、初日の出のご来光状態になってたのである。
「チッ、一番会いたくない奴に出くわしてもうたわ…。つうか笑いすぎやろお前ら!」
「ごめんごめん。だけど、どうしたのその頭。あっ!最近暑いから長い髪が鬱陶しくなって思い切ってスキンヘッドにしたとか?」
「別になんでもええやろ、ワイはもう帰るとこやねん。用がないならもう絡んでこないでくれへんか?お前らと関わると碌なこと起こらんからな。」
そう言い残して、根津井はそそくさと廊下を歩いていってしまった。
「なんだアイツ?心入れ替えましたみたいな頭になってたくせに、何も変わってねぇじゃねぇか。」
櫂が不思議そうにしているのを見て、俺はまた姉の誰かが裏で手を回したのではないかと考えたが。まぁ流石にヤクザ相手にそんなことしないだろうと考えが自己完結し、何も口には出さなかった。
「根津井のことは確かに気になりますけど、自分たちも早く帰りましょ。もう自分、暑さで溶けちゃいそうで…。」
暑さのあまり掛けていたメガネが曇り出していたタツの一言で、また涼しい場所を求めて歩き出す俺たち。そんな俺たちをまたよく知る人物が呼び止めた。
「あぁー!?いたーっ!よかったです〜。響八君がまだ校内にいてくれて〜。」
俺たちの後ろから職員室に帰って行ったはずの友子が走ってきて、また俺たちは歩みを止めた。
「輪國先生ではないですか。どうかされたのですか?」
「ハァ、ハァ…。実は…、響八君に…、伝えなきゃ行けないことが…、あって…。」
なんか前にもあったな、こんな感じのこと…。
友子が俺を探して何かを伝えようとする時は、決まって俺に面倒なことを頼もうとしている可能性が高いのである。
櫂の自宅へおつかいを頼まれた時もそうだった。
俺は悪い予感をものすごく感じながらも、汗だくで俺を探していた先生に免じて、話を聞くことにした。




