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78.裏の住人と少女は戯れる II

 何をするつもりだ?この嬢ちゃん…。

先程金恵から出された、呑むだけでターゲットを狙って来た俺たちを見逃してくれるというたった一つの条件。

 それは、"俺の持つケータイを貸せ"だった。


 プライバシー的に無理ですと、一度は断ったが。

断れる立場かとこちらに銃を向けて引き金に指をかける少女の姿を見て、咄嗟にスマホを両手で差し出した。

 少女は強引に俺の指を使ってスマホにかけられた指紋認証のロックを解除すると、すぐさまどこかへ電話をかけ始める。


「どちらにおかけになってるんで?」


「シッ!ちょっと黙ってなさい。」


静まり返る夜道に流れる微かな呼び出し音。それが止むのは、思ったよりも早かった。


「あっ、もしもし? 玄坊?久しぶりねぇ。えっ?誰かって?アタシよアタシ、金恵よ。」


玄坊…? まさか…、根津井 玄龍組長!?


 電話の向こうで驚いたような、慌てふためいたような様子が電話から漏れる声でこちらにもわかった。


「なんの用ですかって?いや別に大したことじゃないんだけどね。あんたの息子がウチの弟とちょっと揉めたんだけど。そのせいで、あんたのバカ息子が私たちに刺客を差し向けた訳。

いやいや、別にいいの。刺客を差し向けたことを怒ってるんじゃないの。むしろ極道の息子として、この上ないぐらい負けた後の動きとしてはちゃんとしてるわよ。」


この女、何者なんだ…。なんで組長とこんな親しげに話してんだ…。


 組の長たる組長と、どこから見ても女子高生ぐらいにしか見えない少女の通話。その異質な光景を見て、男は困惑していた。


「怪我しなかったかって?するわけないでしょ、こんな奴ら相手に。だけどね、今私たちアンタの息子の癇癪に付き合ってるほど暇じゃないの。次はないからそのつもりでいなさい。いいわね!?」


金恵は遠回しに息子をどうにかしろと組長に釘を刺した。


「あっ、あと調べて欲しい事が一つあるんだけど、お願いできる?まさか断ったりしないわよね?」


ヤクザの組長相手に脅しかけてやがる…。めちゃくちゃだこの女…。

 金恵、今回の襲撃の件を不問とする代わりに、玄龍に今回の調べ事の要件を伝え、通話を終了する。


「これ、返すわ。」


「おっと…。」


金恵から投げ返された自分のスマホをなんとか落とさずにキャッチした男は、これ以上このヤバそうな少女と関わるのはよした方がいいと自分の勘が囁くのを感じ。金恵に一礼した後、仲間を回収した後にさっさとアパートの周りから退散していった。


「さてと、…。」


厄介ごとが片付いたスッキリとした達成感に、肩の荷が降りてようやくリラックスできそうと、アパートの階段を上がる途中に伸びをする金恵。

 しかし、すぐさま金恵の頭の中に次々と稜をSランクに上げるためのクリアしなければならない問題が思い浮かぶ。それを思うと、またすぐに気が重くなった。だけど、こんなことでこんなことでへこたれてはいられない。

 頑張っている大切な弟やその仲間たちのためにも、自分のできることはできるだけしてあげたい。


「よしっ!」


金恵は自宅のドアの前で、胸の前に拳を強く握る。

改めてこれから来るであろうどんな困難にも負けないように改めて覚悟を固め直し、自宅のドアを開いて帰宅した。


***


「おぉ〜金恵〜!帰ったか〜。」


「げっ…!」


帰宅して早々、食い倒れていた筈の火鈴が復活し、飲み直している状況が視界に入ったかなえは思わず声が出た。


「げっ、てなんだよ〜。お姉ちゃん傷つくな〜。」


「お帰りなさい金恵。仕事終わりがてら、久しぶりに姉妹で一杯いかがですか?」


「そうだそうだ〜、一緒に飲もうぜ〜。」


「はぁ…、少しだけなら。」


いつも火鈴に呑みの席に誘われたら何も言わずにスルーしている金恵だが。珍しく晩酌をしている長女ポジションの美月誘われて、めでたい日だからいいかと、その場に座り込んだ。


「ってゆうか、姉妹でって言うのに二人足りないじゃない。」


「水姫は何か、見たいあにめ?があるとか言ってましたね。木陽は単純にお腹いっぱいで眠くなったからもう寝るって寝室の方に。」


「相変わらずウチの姉たちは自由ね。」


その性格のせいで苦労が絶えないんだよなといった表情を浮かべる金恵のグラスに、火鈴はお酒を注ぎ込む。


「なんだか疲れた顔してんな。そう言う時は酒飲んで、全部スッキリさせちまえ。」


悩みの原因にそんなこと言われてもなぁと言おうとしたのをグッと我慢して、注がれたお酒を一気に喉に流し込む。


「よっ、いい呑みっぷりだねぇ。ささっ、もう一杯!」


「ったく、調子いいんだから…。」


鬱陶しそうにする金恵だが、内心こんなにゆったり家族でお酒を飲むなんて久しぶりだなと少しだけ優しい笑みが溢れた。


 たまにはこういうのもいいかもね…。


 忙しい毎日にこうした息抜きの時間を挟み、明日の頑張りの糧にする。


 よしっ、明日も頑張りますか。


 そう金恵が心の中で呟いた瞬間だった。


ピンポーンッ!


 もう夜中の12時を回っているというのに、非常識にも鳴り響いた家のチャイム。その状況に、金恵は瞬時に表情を曇らせる。


 こんな時間に誰?まさか…、さっき追っ払ったのとは別の刺客?


 金恵は銃を手に持ち、ドアの前にいるであろうチャイムを鳴らした人物の様子を探るべく、ドアに背中をつけドアノブに手を伸ばす。

すると、金恵が開けるよりも先にドアが開け放たれる。


「いぇ〜い、皆さん盛り上がってますか〜!?一人で飲むのが寂しくて、元いた居酒屋からハジコしてきちゃいました〜!!」


ドアを開けて現れたのは刺客でもなんでもなく、ベロベロに酔っ払った様子の輪國友子だった。


「ちょっとあんた!何時だと思って…!?って、聞いてんの!?」


怒る金恵をスルーしてづかづかと上がり込む友子は、同じく酔っ払いの火鈴とすぐに意気投合し、互いに酒を注ぎあって呑み始めた。


「美月姉さん、あれいいの?今通報したら、不法侵入で多分警察沙汰にできると思うんだけど?」


「まぁおめでたい日ですし、今日は多めに見ましょう。一応お客様ですし、おつまみでも簡単に作ってきましょうかね?」


マジですか…。


「金恵〜、お前も早くこっち来て一緒に飲もうぜ〜。」


「そうですよ金恵さん。今日は朝まで寝かせませんよ〜!!」


「はぁ…、私ももう寝たいんだけど…。」


さっきこんな夜もいいかなと思っていたのに、突然の来訪者のせいでやっぱり火鈴とお酒を飲むと碌なことがないと、少しでも気を許した自分を許せなくなった金恵。

この後、結局酔っ払い二人に絡まれながら朝までバカ騒ぎに付き合わされることになった金恵は、今日の出来事を深く後悔した。

ほぼ金恵回でしたね。はい、なんか突然書きたくなって衝動的に書いてしまいました。

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