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76.おやっ!? 金恵の様子が…

えっ、金恵さん!?なんで急に俺の隣に座るん?しかも、思ったよりも距離近めだし…。


 普段の金恵はツンデレ気質というか、いつもなら面倒ごとを済ませたらその場からすぐ離れるor座るにしてもテーブルを挟んだ向かい側に座るのに。

 少し不思議に思った俺は、横目でチラリと金恵の様子を伺う。


「・・・・・・。」


金恵は手に持っていたグラスの中身を黙って数回口に運ぶと、何か考え込むような顔をしたあと、俺の視線に気づいた瞬間急に顔が赤みがかる。


 あれっ?もしかして酔ってる?もしくは何か俺に対して憤りを感じているのか?

わからん…、金恵の今の感情が何一つわからん。

 何だか段々金恵との間に流れる沈黙の時間が怖くなってきた。


スッ…。


 俺が困惑している最中。急に俺のいる方向と逆の方を向きながら、金恵が俺に手を伸ばしてくる。


 何っ!?何されるの俺!?はっ、まさか今日の対抗戦に対してのお怒りとかだったりします?

もっと早く相手倒せたでしょとかそういうお叱りですか?

 今回木陽と共に指導役をしていた金恵が試合の内容に対して何かしらの不満を抱いていたとしてもなんら不思議ではない。

 読めたぞ!これは打ち上げで緩んだ気を引き締め直すための抜きうち反省会だ!そしてこの伸びてきた手は俺に対するお仕置きのアイアンクローだ!!


「落ち着け金恵っ!確かに俺まだまだ姉さん達満足するレベルまで達してないけど。俺だって俺なりに頑張って…。」


俺の言い訳なんて聞く気もないのか、金恵の手は止まることなく俺の方にまっすぐ伸びてくる。

そしてその手はとうとう俺の目と鼻の先まで差し迫った。


「ヒィッ!!」


 俺は咄嗟に両腕で顔の前をガードして、金恵の手を防ぐ体制に入った。しかし、最初に俺の腕に来る筈の金恵の手が触れる感触は一向に来ず。おかしいと思いながら腕の隙間から様子を見ようとしたタイミングで、金恵の手は何故か俺の頭の上に優しく降りてきた。

そしてその手は俺の頭の上でゆっくりと一定のリズムをとりながら動き出す。


「あの〜金恵さん?これは何をしてらっしゃるのでしょうか?」


思い切って金恵聞いてみる。


「見てわからない?あんたの頭を撫でてんのよ。それ以外になんだっていうの?」


「えーっと…。アイアンクローは俺の防御した手が邪魔だったから。咄嗟に俺の髪の毛をむしり取るお仕置き方法に途中で変更して、髪の毛が一番多くむしれるポイントを探っているのかと…。」


「ちょっ、アンタっ!アタシのことなんだと思ってんのよ!?どこからどう見たって、対抗戦で頑張った弟を褒める姉そのものでしょう!?」


どうやら金恵は怒って顔を赤くし、俺に制裁を加えようとしていたのではなく。普段やり慣れていない人を素直に褒めるという行為が恥ずかしく、それに照れて顔を赤くしていただけだったようだ。

 結局自分が俺を褒めていることをバラしてしまい、さらに恥ずかしくなったのか。せっかくこっちを向いていた金恵の顔は、すぐさままた反対方向を向いてしまう。


「勘違いしててごめん。まさか金恵が俺のこと褒めてくれるなんて思ってなくてさ。でも、ありがとう。素直にめっちゃ嬉しいよ。」


「あっそ…。それは良かったわね。」


顔を合わせぬまま、俺の口にした感想にあまり反応を示してないように見える金恵だったが。髪の間から覗く金恵の耳がさっき見た以上に真っ赤になっているのに俺は気づいた。

 よほど、褒めるという行為が恥ずかしかったのだろう。なのに褒めてくれた。そのことに感謝を抱きつつ、これ以上ふざけて素直に伝えてくれた金恵の気持ちを茶化すことはしないようにしようと思った。


***


「でも今更だけど、本当に対抗戦勝てて良かったよ。それもこれも、一緒に戦ってくれた木陽と特訓に付き合ってくれた金恵のお陰だよ。本当にありがとう。」


誤解も解け、打ち解けたついでに今日の対抗戦の振り返りを兼ねたおしゃべりを俺は金恵としていた。


「もう感謝の言葉はいいわよ。ったく、こういうふうにこっちが褒められ慣れてないと見るや否や、調子に乗って感謝の言葉を連呼してくるんだから…、」


 金恵は不機嫌そうに少し頬を膨らまして見せた。


「ごめんって。でもさ、これでようやく目的のSクラスに一歩近づいた気がしてなんか嬉しいよ。姉さんがSクラス入りする前も俺と同じような気持ちだったのかな…。」


「それは無いわね。叶愛がSクラス入りしたのは入学初日のことだったから。あの子が入学した年、一年生に活きがいいのがたくさんいてね。周りがうるさいからってその年に入った一年生ほとんどその日のうちにみんな倒しちゃったのよね。」


「マジかよ…。」


初めて知る驚愕の事実。俺の知らなかった姉さんの凄すぎる武勇伝に自分と姉さんの才能の差を感じ、対抗戦でようやくついた自信が砂でできた城のように簡単に崩れ去った。


「そう落ち込むことないわよ、あの子は特別(・・)だから。それに、あんたは落ち込んでる暇あるなら少しでも強くなんなさい。」


いつもの調子を取り戻した様子の金恵は俺に手厳しい事を言うとその場から立ち上がり、玄関の方へ歩き出す。


「あれっ、金恵どこかいくの?」


「ちょっと外で風に当たってくるわ。すぐ戻るし、先に休んでていいわよ。」


それだけ言い残して金恵は居間を後にする。


「あら金恵、お出かけですか?」


「別に…。少し、外にいる虫(・・・・・)が目障りだから、適当に処理してくるだけ。」


「そう…。1人で大丈夫ですか?」


「問題ないわ。ってゆうか、私1人で片付けるのが一番静かで街に被害少ないでしょ。逆に姉妹の誰か1人でも連れてったら、やりすぎてご近所迷惑になりそうだし…。」


「それもそうね。それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。」


「んっ。」


金恵は振り返らずに右手だけ上げて了解の合図を美月に送ると、静かに玄関の戸を開け外に出て行った。

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