73.仲間と共に
「ワイを倒すやと?まさか、もうゼストがほとんどないからゆうて楽に勝てる思うてるんやないやろな?甘いで。ワイが生徒から集めたゼスト使えなくなったぐらいで、もう打つ手がないと思ったら大間違いやで。」
そう言うと、根津井は再び左手に彫られた刺青に意識を集中させる。
「何をするつもりだ?能力を解除したゼストを回収してない八人が持ってたゼストは、能力解除されたからって元の持ち主に戻ったわけじゃないぞ。」
「フンッ、もう生徒のちんけなゼストなんてどうでもええわ。そんなもんよりもっと強力なゼストを持った奴らに能力マーキングしてるからなぁ。気づいてなかったかもしれんけど、闘技場の応援席にウチの組のモン十数名待機させとんねん。」
〜観客席〜
「なんか応援席の一部分だけ妙に真っ黒だなぁとは思ったけど、あの子の家の人たちだったんだ。」
「そんな落ち着いてる場合じゃないですよ水姫さんっ!生徒ならまだしも、身内だからと言ってこの学校部外者にあたる人たちのゼストを使うなんて…。ルールに記載されてないからといって、ほぼ反則スレスレですよ。」
「切羽詰まってなりふり構ってられなくなったんでしょうね。でも、格下だと思っていてもここまで追い詰められた時用に準備してるなんて、用意周到な子ですね。」
「笑ってる場合じゃないですよ美月さんっ!見てください!根津井君のゼストが回復したどころか、一番ゼストが多かった時よりもゼストが増えてますよ。」
「あんたが落ち着きなさいよ。確かに、根津井のゼスト量はあの子達が戦った熊型よりも多く、下手したら上位クラスのトップ層と同じくらいかもしれないけど。あれぐらい倒せなくちゃ、最終目標のSクラスに入るなんて夢のまた夢よ。」
金恵の言葉を聞いて、心配そうにモニターを見つめる友子。そこに、火鈴が一言声をかける。
「心配すんな嬢ちゃん。アタシたちがこれまでみっちり鍛えてんだ。ウチの弟はそんな簡単にやられたりしねぇさ。」
〜校庭〜
「もうちまちました攻撃はやめや。持てる全てのゼストを銃に込めて、デカいの一撃ブチ込んで終わらせたるわ!」
根津井の纏っている膨大なゼストが、こちらに揃えて向けられた二丁拳銃の銃口に集中していく。
「すごいエネルギーだな…。木陽、あれも吸収出来たりする?」
「できなくはないけど〜、それじゃあ面白くないよね〜?」
木陽はそう言い残すと、俺がつけていた指輪に触れ、ギアの中に戻り姿を消した。
その瞬間、木陽の考えとこれまでに敵から回収した大量のゼストが俺の中に流れ込んでくる。
「なんやそのゼストは!?まさか、さっきのチビはゼストを吸収する力もあったんか。どこまでも無茶苦茶な能力やな。ったく、どこまでもムカつくやつやで。だけど、これで終いや。」
根津井は集め終わった全てのゼストをこちらに向けて撃ち放った。今までに見せた銃撃とは比べ物にならないその絶大な威力に、攻撃が通った箇所の触れてもいない地面が抉れてゆく。
向かってくる高出力のエネルギーに少し後退りしたが、ここであの攻撃をどうにかできなければこの戦いに勝つどころか、後ろにいる侑と櫂が危ない。
木陽の考えたこの場を切り抜ける技と集めた大量のゼストがあるとはいえ、初めて使う技だ。ここで失敗したら…。
『稜ちゃん、自分を信じて…。』
そう木陽が俺の中で囁いた。
そうだ…。ここでビビってどうする。俺を信じて待っててくれたみんなのためにも、死んでもこの戦い勝つんだ!!!
「"解放する大樹砲"!!!」
周りに出していた木の根が、一纏まりになり、大砲のような姿を形取る。その発射口と思われる部分から根津井が出した攻撃に向けて、込められた強力なゼストが放たれる。
「いっけぇーーーーーーっっっ!!!」
放たれた二つの強力なエネルギー同士は両者に挟まれた中間距離で、激しくぶつかり合いながら動きを止める。
「このまま押し切ったるわぁっ!」
根津井の叫びと共に、根津井の攻撃が稜の砲撃を押し返し始める。
「ヤバイっ…。」
初めて使う技だからかゼスト操作が上手くいかず、収束が足りないゼスト砲はやや威力が劣っていた。
『ゼスト量的には互角かこっちが少し勝ってると思うんだけど、向こうの凄まじい執念のせいか少し押され気味だね。』
このままじゃ…。
稜の頭の中に一抹の不安がよぎる…、その時だった。稜の背中に、突如として複数の暖かい何かが当たる感触がした。
「私のゼストも使って、稜君!!」
「私のもだ。頑張れ、稜!」
「これで負けやがったら、後でぶっ飛ばすからなっ!!」
「自分はゼストを渡して上げられないっすけど、精一杯気合いを込めるんで頑張るっす、ヒービーっ!!」
振り返ると、みんなボロボロの筈の体を引きずって、俺の背中を支えるように手を当てていた。
「みんな…。ありがとうっ!」
みんなから流れ込んでくるゼストと思いが放つ砲撃の威力を跳ね上げ、押され気味だった攻撃を逆に押し返し始める。
「クッ、ソ…があぁぁぁっ!ワイは…こんなところで負けるわけにはいかへんっ…。親父をっ…、兄貴を…、見返すまでは…。」
根津井は体に残る全てのゼストを極限まで振り絞るさなか、食いしばった歯茎や、力みすぎて膨張した血管から、血が流れ出していた。
だが、それほどまでに負けたくないという思いも虚しく押し返された攻撃は、根津井の目の前まで迫っていた。
「なんでやっ!!?なんでっ、底辺の筈のG組にこんな…」
「そんなこともわからないのか?」
「なんやと?」
「俺にはあって、お前にはないものがこの勝負の明暗を分けたんだよ。」
「それは、それはなんや!?」
「それは仲間さ。共に戦い、支え合う仲間の存在が、俺にこれほどまでに力をくれるんだ。それがない今のお前に、どんなことがあろうと俺達は、絶対に"負けない"!!!」
攻撃はついに根津井の持っていた銃の先に到達し、徐々に体を腕の先から飲み込んでゆく。
「認めへん…、認めへんぞっ!仲間なんて…。」
ついにほとんど根津井の体が砲撃に包まれた時、根津井の銃撃はゼスト操作が完全に解け、砲撃によって根津井と共に校庭の端の遥か彼方まで吹き飛ばされてゆく。
「クッ、クソがあぁぁぁっ……っ……」
吹き飛ばされた先の障害物に当たり、ようやく遠くで動きを止めた根津井は倒れたまま動かなかった。
「これって…。」
G組のメンバーは、互いに顔を合わせる。そこに、闘技場にいる実況のアナウンスが鳴り響く。
『只今、根津井選手のデバイスからの情報を受信いたしました。
デバイスの判定により、根津井選手は気絶状態と判断されました。これにより、大将であった根津井選手は脱落!それにより、今回の下位グループ対抗戦勝者はG組となります!!』
「「「「「いよっしゃあぁーーーっ!!!」」」」」
俺達は嬉しさのあまり、大声で叫んだ。
俺達の叫びだけでは無い。闘技場で見ていた観客達もの熱狂も聞こえてくる。
***
「やったーっ!勝った、勝ちましたよみなさんっ!」
「見ればわかるわよ。」
「ええ。」
「だよねぇ。」
「そうだな。」
「なんでそんなテンション低いんですか?あのDクラスに勝ったんですよ?すごいことなんですよ?もっと喜びましょうよ〜。」
はしゃぐ友子を見て姉妹たちは顔を見合わせて微笑んだ。
「なっ、なんですか!?どうしたんですか?」
「「「「私たちの自慢の弟なんですから、当然でしょ?」」」」
珍しくニコニコした表情の彼女たちを見て、友子は思った。最初から最後まで自分の弟である稜が勝つことを少しも疑ってなかったことを。
「素敵な信頼関係ですね…。まるで叶愛さんと一緒に戦っていた時のように。」
「そう見えますか?」
「えっ、それってどう言う?」
「いえ、なんでも無いです。ただ、才能に溢れた叶愛と違って、一人なんでもできるのではなく。稜君には仲間たちと共に成長し、みんなで協力し合う大切さを知って欲しかった。私たちはそう思ってただけです。」
少し悲しそうな表情をする美月の言った言葉の全ては友子には理解できなかった。だが、その言葉の意味の一部はきっと、能力である姉妹以外には頼らず、一人だけで戦い続け命を落とした叶愛のことを思い出しながら話してくれた言葉だろうと思った。
きっと心配しているのだ。同じ力を持った稜が叶愛のようになってしまうのが。だが、友子はそうはならないと感じていた。
それは、対抗戦の勝利を仲間と一緒に喜ぶ彼の姿を見たからだ。
多分、姉妹たちも同じことを想い、感じているのだろう。
この素晴らしくも尊い時間が、ずっと多々いけばいいなと、友子は思った。
対抗戦、決着ッ!!!




