70.集い出す仲間たち
「さぁ、逃げ惑え弱者共!!」
根津井は二人に向かい、何度も引き金を引く。銃から放たれた無数の砲撃は容赦なく束となって燕と櫂に襲いかかった。
「なんという重たい一撃なのだ…。一発ずつであればなんとか相殺できなくもないが、ああも連射されては相殺するかギリギリ躱すかで、奴に近づくことすらできんぞ。」
「それだけじゃねぇ。これだけ強力なゼストエネルギー弾連発したら、いかに根津井が他の生徒からゼスト集めてるって言ってもゼストがすぐ底をつく筈。だが根津井はそんな様子を一切見せず、少しのゼストの消費だけで済んでやがる。どうやら根津井の使ってるあの銃に秘密がありそうだぜ。」
ご明察やな、上壁。
そう、ワイが使ってる銃はただのゼストをエネルギーにして発射するだけのギアやない。
この銃は、吸収したゼストをギア内で増幅させて発射する代物や。だから少しのゼストを込めるだけで強力な一撃が打てるっちゅう訳や。
ただでさえ大量のゼストを持つワイがこのギアを使えば、まさに鬼に金棒。絶大な威力と数の暴力で、じわじわと削り切ったるわ!
「どうする不良男!このままでは近いうち防御に回すゼストも尽きてやられてしまうのは目に見えているぞ!」
「近寄れねぇならこっちも遠距離攻撃すればいいだけなんだが…。精度がイマイチだし、打つたびにごっそりゼスト減らしであまりいい解決策とは言えねぇな。クソムカつくが、完全に手詰まりだぜ。」
「中々しぶといなぁ。じゃあこんなのはどうや?」
根津井は銃の発射口を少し弄ると、再びこちらに狙いを定めた。
「何かまた変わったことを仕掛けてくるぞ、警戒しろっ!」
二人は再度気を引き締めて構えを取る。根津井の銃口が狙いを定め終えて、ピタリと止まる。
攻撃が来る…。
奴が引き金を引くタイミングに合わせて、さっきみたいに防御なり躱すなり対処を…。
その時だった…。
一筋の光が通りすぎた気がした。
ブシュッ!
「ぐぅっ…。なん…だ。」
燕は違和感を感じた自分の左足に視線を落とす。
するとそこには、自分の左足首に開いた数ミリほどの穴から血が滲み出していた。
「武士女っ!」
何が起こったかわからず、負傷した燕を見て、櫂は咄嗟に彼女の前に立つ。
何が起こった…。
おそらく奴の攻撃だろうが、目で捉えきれなかった。俺も武士女もゼストを纏い、防御を怠ってはいない。なら…考えられる可能性は一つ。
櫂は眉間に一層皺が寄るほど、根津井を睨む。
「気づいたか?そうや、俺の銃の発射口を調節して狭めたんや。そうすることでゼストは前の攻撃よりも集約され、速度も突貫力も大幅に増す。君らがいかにゼスト操作で防御膜を纏おうと、この銃弾はそれをいとも簡単に貫くんや。」
まずい…、この状況は非常にまずい。
唯一あいつの攻撃を防ぐ手段だったゼスト操作による防御膜。それがもう機能しないとなると、やられるのも時間の問題だ。
武士女も足を撃ち抜かれて思うように動けず、これからから攻撃をかわせる可能性は低い。
武士女を担いで走る?いや、簡単に追いつかれてやられる。防御に全ゼストを集中させて守りに徹する?いや、それもすぐにゼストがなくなって、あの弾に貫かれる。
突破口を探している櫂に、根津井はゆっくりと銃の標準を合わせる。
「終いや…。」
銃弾は放たれる。
真っ直ぐに迷いなく進む銃弾の光が上壁の眼前に迫る。
「"聖なる守り"!」
声がしたと共に、燕と櫂を光の壁が包み込む。
根津井が放った銃弾は壁に当たって霧散する。
「間一髪だったね、二人とも。でも間に合って良かった。」
背後からした声に振り返ると、そこには錫杖を手にした侑が立っていた。
「「侑・瀬川!!」」
「だけじゃないっすよ!」
もう一つの声と共に、根津井の頭上に複数の球体のようなものが投げ込まれる。
「あ"ん?」
投げ込まれたそれを確認するために空を見上げた途端、それらは次々と爆ぜだした。
「あれはタツの…。」
「大正解っす!あれは手持ちありったけのゼスト爆弾と煙幕弾す。煙幕弾の煙を爆弾の爆風を使ってこの広いグランドを急速に煙で満たしました。これでしばらくは目眩しになって時間が稼げるっす。さっ、この隙にこの場から離脱を…」
駆け寄ってきたタツがこの場から退避するために手を貸そうとすると、根津井が自身の足元に攻撃を放った。
「なんすかっ?」
大きな音に驚き根津井の方へ振り向くと、せっかく起こした煙幕が根津井が放った銃撃の風圧で、いとも容易く掻き消された。
「ちょっ、早すぎません!?」
「逃さへんで!」
煙幕が晴れ、集ったG組の面々を視界にとらえた根津井はすぐさま追撃を加える。
「やらせないっ!」
侑は咄嗟にまたバリアを展開。しっかりと根津井の銃撃から仲間を守る。
「鬱陶しいバリアやなぁ。だけど、どこまでワイの攻撃耐えられるんやろなぁ!?」
根津井は侑の張ったバリアに向かって集中砲火を開始。大砲のような威力と圧倒的な数量に、侑のバリアにひびが入り始める。
「もう…、持たない…。」
バリアに入ったひびはどんどん大きくなり、ついにはバリアは無惨にも砕けちる。
「キャアァッ!」
「クソッタレがぁ!」
バリア砕かれると同時にG組のメンバーは通常タイプの銃撃に押し流される形で後方に吹き飛ばされた。
「ゔ"っ…うぅ…、はっ、上壁くん!?」
「か、カカっさん!? まさか、自分らを庇って…。」
バリアが破壊され、メンバーが銃弾に当たる寸前に櫂は身を挺して仲間を攻撃から守った。
「心配…すん…な。まだ…、や…れる…。」
体をゼストで防御していたとはいえ、背中に根津井の集中砲火を受けた櫂は、喋るのがやっとという状態だった。
「待ってて、今回復を…」
「おっと、そらあかんで。」
侑が櫂を回復しよう近づいた瞬間、目の前に同じく近づいてきていた根津井が現れる。
「せっかく追い込んだのに、また元気になられたら厄介やからなぁ。まずは回復役の瀬川ちゃんからおねんねしてもらおか?」
根津井は手をゆっくりとあげ、侑に狙いをつける。
「させんぞっ!」
横から負傷した足を引きずらながらも、燕が根津井に斬りかかる。
「邪魔や。」
根津井は危なげなくそれを一発の銃撃で跳ね除ける。
「燕ちゃんっ!!!」
燕は遠くの方まで押し返され、少し転がったのち、校舎の壁に激突した。
「むっ、無念だ…。」
意識はまだあるようだが、あの様子ではしばらくは動けないだろう。
「さて…、って、またかいな。」
再び侑の方を向く根津井の前に、今度はタツが両手を広げて立ち塞がった。
「なっ、仲間はやらせないっす!」
声を張りあげたタツだが、その声は恐怖でうわずり、広げた足は明らかに震えていた。
「あはははっ、いやー、勇気あるなぁ伊月君。ゼスト持ってないのにワイの前に立つその度胸。だけどなぁ、意味もない自己犠牲はただの自殺行為や。そんなに死に急がなくても後できっちり殺してやるさかい、少し寝とけや。」
そう言うと根津井はタツを蹴り上げ、軽々と自身の前からどかした。
「伊月君!」
「ガハッ、ゴホッ…、う"ぅ"…。」
蹴られたタツは、ふっ飛ばされた場所で腹を抱えながら蹲った。
「さぁ、これでようやく瀬川ちゃんの相手できるわ。しかし、惜しかったなぁ。せっかくワイ以外の敵倒して、仲間も集まり出したゆうのに呆気なくほぼ壊滅状態にされて。しかし、こんなか弱い女の子一人守れないなんて、つくづく頼らない仲間やなぁ。」
「……ない。」
「あん?今なんか言った?」
「頼りなくなんてないっ!みんな努力して、助け合って、上を目指すために一緒に誓い合った大切な仲間達なのっ!あなたみたいに一緒に戦ってくれてる仲間を手下なんて読んでる人に、私の仲間たちをわるく言われたくないっ!!」
侑の叫びを聞いて根津井は少し顔を曇らせ他かと思うと、すぐさま表情が笑顔に変わる。
「瀬川ちゃん、いいこと教えたるわ。この世には二種類の人間がおる。一つ目は他者に従うやつ。ほんで、もう一つは他者を従わせ使う奴や。
まぁ何が言いたいかと言いますと…、仲間云々言ってるうちは本当の意味で上を目指す覚悟が足りてないっちゅうことや。マジで上目指すなら他人を使うか蹴落とすかしていかなアカンくなる。そう言うのを繰り返して最終的に残った一人が、真の支配者になれるわけや!」
自論を語りテンションの上がった様子の根津井は、天を仰ぎ見る。
小さい頃から実力至上主義の裏の世界を見てきた彼にとって、重要なのはただ勝つか負けるか。どんな手段を使おうと勝てばいい。勝てさえすれば負けた奴がなんと言おうと、それはもう敗者の理論。つまり負け犬の遠吠えだ。
だからむかつく奴は負かして黙らせる。
勝者たる自分が正しくあり続けるために。
今回もそうだ。勝ってこの善人ヅラした女の考えを否定する。
そうすれば、相手の意見に考えさせられることも悩まされることもなくなる。
「まぁ無駄なおしゃべりはここまでにして、今度こそ瀬川ちゃんに寝ててもらうで。なぁに、ちょっと痛い思いして寝て起きたら、残った響八君倒して対抗戦は俺の勝利という結末で終わってるさかい、変に倒された責任感じんとゆっくり寝とったらええよ。」
上げられた手に持つ銃が侑の顔の前で止まると、根津井は引き金に指をかける。
「ほなな…。」
根津井が引き金をゆっくりと絞り込む最中、侑目を瞑り心の中で一言つぶやく。
『稜君…。』
「"踊る根っこ"!」
「「……!!!?」」
突如聞こえた声と共に発生した無数の木の根は、侑に向けられていた銃を持つ根津井の左腕を瞬く間に覆った。
寸前に放たれた銃撃は狙いがそれ、侑の顔の横スレスレを通り抜けた。
侑は声がした方へ振り向き、そこにいた人物を見て先程までの恐怖で張り詰めていた緊張の糸が緩んだのか、目に涙を浮かべた。
「ごめんみんな、遅くなって…。」
「ううん…。待ってたよ、稜君。」
侑との短い会話が終わると、すぐさま根津井の方に視線を移す。
「待たせたな。ここからは仲間の代わりに俺がお前の相手になるぜ。」
「ハンッ、最後にノコノコ遅れて来やがって。ヒーロー気取りか?響八君。」
二人は徐々に歩いて間合いを詰め、互いに目を合わせながら睨みをきかせた。
いつもより長くなってしまい読むの大変だったらすみません。




