69.ここから先は…。
「"戦威"発動!コイツがあればお前のゼストがいくらか増えようと、まだまだ余裕で戦えるぜぇっ!」
「いくら貴様が莫大なゼストを見に纏い高い肉体強度を手に入れようと、私の愛刀翔飛と特訓により向上したゼスト操作技術があれば、何であろうと一刀両断してやるわ!」
「はっ!息巻くのは勝手やけどなぁ、どうせ最後に勝つのは俺やでぇっ!」
燕が倒した手下のゼストを吸収した根津井は、ゼストが増えて上がった身体能力を利用して、応接室の壁や天井を縦横無尽に跳ね回りながら攻撃を仕掛ける。
目で追うのも難しいスピードで不規則に攻撃を仕掛けてくる根津井から、二人で危ない場面を互いにカバーしながらギリギリ触れられない戦いを続けていた。
「ここで戦うのは何かと不便が多い。場所を変えるぞ不良男!校庭だ、校庭に向かって走れ!」
「命令してんじゃねぇよ。」
文句を言いながらも、櫂が入ってきた時に割った窓から出ていく燕にしっかりとついて応接室を飛び出した。
「なんや?せっかく楽しくなってきたとこやのに、今度は鬼ごっこかいな。もう時間稼ぎはええんか?まぁなんであろうと、もう逃してそのままにするなんてせえへんからなぁ。」
二人が向かう方向を出て行った窓枠に留まりながら確認した後、すぐさま追いかける。飛び出す際に足場を強く蹴ったことで窓枠はあまりの力に砕かれる。
先行する二人は、スピードでは自分たちよりも上をゆく根津井に追いつかれぬよう、校庭まで一直線に走るため、目の前にある障害物を切るか砕くからしながら突き進んだ。
***
運動部がよく利用するグラウンドに到着した三人は再び向かい合い、戦いを開始する。
「ここならば先ほどいた部屋のように狭くもなく障害物もない。あのように飛び跳ねて死角から攻撃を仕掛けられることもない。」
燕の思惑通り、根津井の動きは大分制限され読みやすくなっていた。二人での連携も時間が経つごとに息が合い、スピード差の優位もそこまで気にならなくなっていた。
「俺たち二人の動きを追いきれなくなってるんじゃねぇか?ほらっ、こっちだぜ!」
唯一体を傷つける可能性のある燕の刀に意識を向けすぎたのか、根津井は櫂に背後を取られる。
気づいた瞬間、咄嗟に後ろを振り向いた根津井の顎に合わせて、櫂はアッパーを繰り出す。
「"戦威強化版・アッパーカット"!!」
コンパクト動きの技術と、戦威の能力を瞬間的に増幅させたことで生まれる爆発的な力で、捉えるのも難しいほどの速度を出した櫂の右拳は、見事に根津井の顎を打ち抜いた。
「…っ!?」
アッパーを食らった根津井の体は宙に浮き、少し距離の離れた場所まで飛んでゆく。
「決まったか?」
「いや…、多分まだだ。」
櫂が不機嫌そうに眉を顰めると、飛ばされた根津井は地面に落ちる寸前でくるりと空中で体制を変え、危なげなく地面に着地した。
「いやー、効いたわ。モロに食らってたらそのまま脳が揺れて気絶して試合終了の流れやったわ。」
打たれて赤くなった顎をさすりながら、いつも通り根津井は目を細めて笑った。
「どう言うことだ?お前の拳は、しっかりと奴の顎を捉えていたではないか?なのになぜ根津井は普通に立っていられるのだ?」
「あいつ、俺の拳が顎に当たる寸前で自分で上にわざと飛んだんだよ。だがら完全に直撃を受けたわけじゃないから、あの程度のダメージなんだよ。まぁ、無事な理由はそれだけじゃなく、ゼストによる身体強化とかまだ色々あるんだろうけどな。だけど、今ので決め切りたかったぜ。」
遠くにいる根津井を見据えながら不安を孕んでいるかのような表情をする櫂の横顔を燕は見ていた。
「どうした?渾身の一撃だと思ったものが思ったよりも効果が薄くて落ち込んでいるのか?しかし、身体能力的な差はあれど、状況的に押してるのはこちらだ。何をそんなに暗い顔をしている?」
「あぁ、それはそうなんだが…。劣勢なまま何もしてこないほど、甘くねぇだろうなと思ってな。あいつは…。」
櫂の感じ取った僅かな悪い予感は、すぐに現実となって二人に襲いかかることになる。
接近戦でフィジカル差でゴリ押してタッチ→能力発動で勝ち、だったら良かったねんけど。敵が二人で連携し出してから攻めきれんのよなぁ。
接近戦でやった方が有利やと思ったんやけど、それは相手の方が上手だったわけや。
しゃーない、これ使うか…。
根津井は両手をブレザーの内側に突っ込んだと思うと、すぐさま抜き出した。
「「…!?」」
何をしてくるのかと身構えた二人が見たのは、根津井の両手に握られた二丁の拳銃だった。
「お前らチョロチョロ鬱陶しいから、これ使うてさっさと蹴りつけたるわ。」
「何出すかと思ったら、ただのピストルじゃねぇーか。」
「ただの…か。そうやったらいいなぁ…。」
下がっていた銃を持った右手をゆっくりと上げ、こちらに狙いを定める。揺れる銃口がピタリと動きを止めると、静かに根津井は引き金を引いた。
「…! 上壁っ、伏せろ!!!」
銃から発せられる異様な感覚を察知した燕が櫂の頭を掴み、地面に倒れ込むように一緒に伏せる。
燕が即座に取ったその行動は正解だった。
根津井が引き金を引いた途端、銃口からは普通の銃弾ではなく、凄まじいエネルギー体のような光線が発射される。頭上を通ったその光線はしばらく先の地面を着弾し、地面を大きく抉った。
「とんでもねぇもん隠し持ってたもんだな、オイ。」
櫂と燕の顔に汗が一筋流れ落ちる。
「これから始まるんはさっきまでの手に汗握る戦いやない。強力な武器を手に圧倒的な力を振るうワイによる、お前らを獲物に見立てた一方的な狩りや…。」
梅雨が日本を徐々に飲み込んでいきますね。
気候が変われば生活の仕方や体の調子など色んなものが変わります。
健康にお気をつけて、日々をお過ごしください。




