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66.対抗戦:伊月 達夫II

「ナンダコリャ? マエガミエネェ!」


兄は目についた塗料を袖で拭うのに必死だった。

その隙を見逃さず、狭く自由が少ない個室から出したするため逃げ道を探す。個室を隔てる壁を登る余裕はないが、入り口正面には塞ぐように兄が立っており、普通には出られそうにない。

 仮に出られたとしても兄の後ろ待ち構えている弟の攻撃が直撃したら、ゼストで防御力を上げることの出来ない自分は一瞬でゲームオーバーだろう。


 ここで倒すしかないっす!


 タツは自分の懐に手を入れ、脇のホルスターから自作の拳銃型ギアを抜く。弾は普通のゼスト弾が装填してある。


「喰らうっす!」


ダァンッ!ダァンッ、ダァンッ!!


 弾は至近距離に相手がいることもあり、しっかりと三発とも体を捉える。しかし、…。


「痛ッ、…。ナンダナンダ?」


「えっ、反応薄っ!直撃してるのに貫通してもないし、何食ったらそんな鋼みたいな肉体強度になるんすか。」


「ナンダ?コウゲキダッタノカ?カデモトマッタノカトオモッタゼ。」


「ニイサン。ラチガアカナイカラボクニカワッテヨ。ボクガコイツカタヅケテルアイダニ、ソコノスイドウデカオアラッテキナヨ。」


もたつく兄に痺れを切らしたのか、弟が少々強引に兄の体を押しのける形で立ち位置を交換し、タツの前に立った。


 これは流石にまずいっす。


 もう一度ペイント弾で視界を奪おうにも、一回見られてる手をすんなりと喰らってくれる程甘くはないだろう。だから、今度は別の手で視界を遮る。


「ここで再登場、煙幕弾す!とりゃあっ!」


 地面に投げつけた途端、球体型のギアから勢いよく吹き出す煙にトイレ内はたちまち多くの煙に包まれる。


 今のうちにあの外国人弟の大股の間から脱出を…。


「コザカシインダヨッ!」


弟はその場で思いっきり大腕を横に一振り。すると、弟を中心に竜巻のような空気の流れが発生し、煙はすぐに吹き飛び消え失せた。

 ついでに煙どころか、個室の上半分の壁もバラバラに吹き飛んだ。股を潜って脱出しようと低い体制にを取ってなかったら、自分の上半身も同じように吹き飛んでいた。そうなっていたかと考えると、思わずおしっこちびるところだった。トイレだけに。


どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする。


 脱出はもう絶望的。そう思うと頭の中に次の手を考える余裕はなく、焦りだけが頭の中を支配してゆく。


「コザイクバカリシヤガッテ。ソンナンデオレラニカテルトオモテルノカ?」


 話しかけてきた弟の声でタツは我に帰る。

もう勝ったと思ってムカつくしてるコイツらにどういう風にして勝つか。頭を切り替えた最中、対抗戦前の特訓中に水姫との会話をふと思い出す。


〜対抗戦前・特訓期間中〜


「えっ、自分のより明らかに強い奴に勝つ方法?どしたの急に?」


戦いに備えたギア作成中、ほんの雑談感覚で振った話に水姫は首を傾げた。


「いや、この前の熊型との戦いの時に思ったんですけどね。あの時はたまたまみんな一緒だったから協力してなんとか熊型を倒せましたけど、もし自分一人だけだったら確実に死んでたと思うんすよ。

それで、今度一人の時にやばい相手と戦う状況に陥った時にどう戦えばいいのかなって思って…。」


「ん〜、そうだね〜。まぁ状況にもよるけど、そういう時は今どうすれば最低限いいのかを優先的に考えるといいよ。」


「というと?」


「例えばタツちんが熊型と一人で会っちゃたとしたらどうする?」


「えーっと、持ってるギアを確認して、どうにか勝てないか考えるっす。」


「はい、その時点で8割以上の確率でタツちんは死にます。」


「えぇー!!」


突然の死亡宣告に驚き、作業で俯いてた頭を勢いよくあげたせいで掛けていたメガネが少しズレる。


「じゃあどうすれば正解なんですか?」


「まず、勝てるかどうかわからない時は無理に戦わないこと。だけどやむを得ず戦わなきゃ行けない時は、勝とうとするんじゃなく、その場をどう生きて切り抜けるかを考えるんだよ。どんな危うい状況だって、無様でもカッコ悪くても逃げたっていい。生きてさえいればまた強くなって同じ相手に勝てるようになってから戦えるし。

まぁ結論として纏めると、"生きていれば勝ち"なんだよ!」



〜現在〜


 劇的じゃなくていい。爽快感も達成感も味わえなくていい。今この時をどうにかする一手を…。


「キュウニシズカニナッタナ。アキラメタノカ?」


「ナンダヨ、セッカクメノヨゴレガオチテキレイニナタノニ。」


弟は止めを刺すために黙ったままのタツの胸ぐらを掴み、片手で軽々と持ち上げた。


「コレデオワリダ!」


「….だよ。」


「ン?イマナンカイッタカ?」


「臭えんだよ、さっきからお前の息が!ここトイレだからそのせいかと思ったけど、顔が近くにきてお前の口が原因だってわかったわ!」


「ナンダトッ!?」


「オチツケオトウトヨ。ソンナミエスイタチョウハツニノルナ。」


「何他人事みたいに言ってんだよ。お前の口もヤバイかんな?兄弟揃って口の匂いのヤバさまで一緒ってどこまで似てんだよ!?」


「テメェッ!!!」


 散々煽ったお陰で、目を血走らせた二人がこれでもかと近くで顔を睨んでくる。


「あーもう無理。息止めなきゃまじ吐きそうっす。」


怒り心頭の二人を無視しながらタツは肺いっぱいに空気を溜め込み、口をパンパンにしながら口を固く閉じる。


「ソノママイキノネモトメテヤレ、オトウトヨ。」


「OKニイサンッ!」


弟はトドメを刺そうと拳を強く握り、腕を振りかぶった。


 "今っすっ!!"


 タツはさっきから密かに握りしめていた一つのギアを顔の近くに持ってきて起動させた。


プシューーーッ


「ブファッ、ナンダ!」


「マタエンマクカ!?」


二人の顔の近くでギアを発動した為、敵は煙を思いっきり吸い込みその場で咳き込んだ。すると、すぐに二人に異変が起こりだす。


「ナンダ…シカイガ…カス…ム…。」


「…ウ、ウゥ…Zzz」


急にその場で倒れ込むように眠りに落ちる二人。

そう、今し方発動させたのは催眠ガスを噴出するギア。相手をわざと怒らせ、自分にギリギリまで接近させたところで効果を最大限発揮させるために至近距離で発動させたのだ。

 二人が眠りに落ちたことを確認して、タツはトイレを後にする。

 トイレの入り口を出たところで、止めていた息をようやく吐き出し一息ついた。


「いくらゼストで強化しても、人体に効果のあるガスは不意打ちで食らうとどうしようもないっしょ。ちょっとカッコ悪いかもっすけど、これが今俺にできる精一杯の勝ち方(生き方)っす。」


タツはこんな不意をつくやり方しかできない悔しさを胸に抱きつつ、今は他のみんなと合流して自分のできる限りのサポートをしなければという想いに駆られながら、その場を後にした。

二話分書いたのに、こんなスッキリしないオチですみません。

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