65.対抗戦:伊月達夫 I
本校舎東側、一階にある男子トイレ。その内部の最奥に位置する個室に伊月達夫は転送されていた。
「いやおかしくないっすかっ!?なんで自分のスタート位置がトイレの個室なんすかっ? おかしいでしょ絶対!」
本来タツが飛ばされたトイレは、校舎の至る所に設置されたトイレの中でも人通りが少なく、1日の利用者がほとんどいない少し入るのが躊躇われる雰囲気を醸し出している不気味な場所として生徒の間では有名な場所だった。
どうせ対抗戦中は校舎にいるのは戦っている選手だけと言う理由で、個室にいるタツは普段はトイレの個室を利用していることを知られたくないがゆえに絶対にしないであろう思ったことを心の底から口に出して大声で叫んでいた。
「あれっすか?自分が対抗戦で緊張しまくってて、上からも下からもなんか出そうになってる状況を転送ギアが察知してこんな辺鄙な場所に自分を転送したんすか?ついにギアは人の心を理解し、こんなちょっとした気遣いも出来るようになったってことですか?余計なお世話だよこのヤロー!!」
度を越した緊張と行き場のない怒りが入り混じり変なテンションになったタツは、誰も聞いてはいないであろうトイレの個室で大声で垂れ流す不満を部屋に反響して自分自身で聞いていた。
そんなことを何度か続けているうちに、自分は何をしているのだろうと自分の奇行を自覚し、数分後にようやく落ち着きを取り戻した。
「こんなことしてる場合じゃないっす。みんな今頃戦ってるはずっすから、なんとか誰かと合流して、鉱獣と戦った時みたいに連携を取りながらお役に立たないと…。」
そんなことを考えていると、不思議とトイレにいるせいか急に催してくる。
「丁度いいっすからここでスッキリしてから行くっすかね。いざ戦いになってトイレ行きたくなってもいけないですし…。トイレは先に済ませといて間違いはないっすからね。」
どうせ個室にいるからと扉を閉めて鍵をし、ズボンを下げて便器に腰を掛ける。あとは用を足すだけと思ったその時だった。
コンコンッ。
えっ…。
不意に自分が入ってる個室トイレの戸が叩かれる。
えっ、誰っすか?自分と同じでトイレしたい人?
でも他に個室は空いてるはずですし…。そういえば、ここのトイレだけなぜか古くて自分のいる個室以外は全て和式便座だったはずっす。洋式でしかトイレしたくないという強いこだわりを持った人だったら、小で個室を占領してる自分はノックしてる人に取ってとんでもない行いをしてるんじゃないっすか…。
※タツはトイレ中という極限状態でいきなりノックされて、正常な判断が出来なくなっています。
それかもしかすると、ヒービーかカカっさん。敵の誰かもこの近くに転送されて急にトイレがしたくてこの男子トイレに来たけど、扉が閉まってて先客がいるのかと思い、戦闘中にトイレで鉢合わせるのが気まずくてとりあえず誰か入ってるか確認しようと律儀にノックしてきた人かもしれないっす。
※タツは正常な判断が以下略。
ここで、ノックしてきたのが味方である確率は極めて低い。しかし、トイレを我慢してるかもしれない人のノックをシカトするのも悪いっす。
とにかくここは、人として当然の対応をするっす。
「は、入ってま〜す…。」
「・・・・・・。」
礼儀正しくトイレを利用中だということを返答したのに、相手は一言も発しなかった。
とゆうか無視。
あわよくば声を聞いて敵味方が判別できるかと期待したが、そんな都合よくはいかなかった。
扉の前にいるのは誰なのかわからぬまま、扉を隔てた二人?の間に気まずい時間が流れる。
もし敵だったらまずいっす…。早いとこ用を足して、もしも戦闘になった時用にギアを準備しないと…。
コンコンッ!
返答したはずなのに聞こえなかったのか扉の前の誰かはまたノックをしてくる。
「いや、だから入ってますってば。」
コンコンコンコンコンコンッ!
「しつこいっすね!だから入ってますってば、今出るんでちょっと待っててください!!」
ドンドンドンドンドンドンッ!
ドアを叩く音がいきなり強くなったことで、タツはようやく今置かれた状況に気づく。
これ、もうドアを破ろうとしてるんじゃないっすか?…と。
「待って待って、待って欲しいっす!まだズボン履いてな…」
バキッ!!!
「うわっ!?」
タツの訴え虚しく、ドアは瞬く間に太い腕に貫かれた。
ドアを貫いた腕を抜くときに一緒にドアを巻き込みながら個室のドアはこじ開けられる。
風通しが良くなった個室から見えた太い腕の正体は、高校一年生とは思えないほどのガタイをした助っ人外国人みたいな生徒だった。
「マサカ、ホントニコンナトコロニテキガイルトハ。オドロキダナオトウトヨ。」
「ソウダネニイサン。広鬼ガオレタチフタリダケデジュウブンナアイテテイッテタケド、ボクヒトリデモタオセソウナホドヨワソウダネ。」
余裕そうに談笑している兄弟と思われる敵に、大口開けながらただただタツは絶句して立ち尽くしていた。
「サァ、サッサトコンナムシケラヤッツケテ、ミンナトゴウリュウシヨウ。」
「ソウダネニイサン。」
淡々と自分に攻撃を加えようとする兄弟に、タツは急いでズボンを履き終え、ポッケに入っている発明品を探る。
「フンッ!」
殴り掛かる兄目掛けて、とりあえずポッケに手を入れたときにすぐ掴めたギアを投げつける。
ペチャ!
「オウッ!ナンダ!?」
即座に手に取ったのは、新たに開発したペイント弾。色んなギアを開発中に偶然出来た、攻撃力は皆無の何に役立つかわからないシリーズの発明品の一つだ。
だが今回は運良く相手の目に当たり視界を奪いつつ、強力なゼストを纏った拳を避けることに役立った。
外した拳は、トイレの壁のタイルを砕くほどの威力を秘めていた。こんなの食らったら、一巻の終わりっす。
避けはしたがあまりにも強力なパワーを持つ兄弟の登場に、自分が置かれた絶望的な状況を改めて痛感し、タツは冷や汗を流した。
悪ふざけでギャグ色強く書いたタツの対抗戦の話ですが、あまりにもふざけて書きすぎたのか、I話分に収まりそうもないので次回に続きますw




