64.櫂vs根津井
〜櫂・根津井サイド〜
俺が根津井の手下三人と戦いを開始した頃。
応接室で櫂により思わぬ一撃を受けた根津井は、櫂を睨みながら狂い出した計画を考え直していた。
驚いたわ。まさかここまで強い一撃をお見舞いされるとは…。能力でまとめたゼストの配分を俺だけ少し多めにしといたのは正解やった。
もし調子こいてG組討伐に向かわせた奴らにゼストをほぼ全振りして今の一撃くらってたら、確実に気絶してこの対抗戦終わったったでホンマ。
「どうした根津井? さっきまでのクソムカつく余裕綽々な笑みが、顔から消えてるぜ?」
「ハッ!そう見えるかぁ?まだまだワイは余裕綽々やで?」
余裕かましおって、ほんまムカつくわ…。
しかし、ホンマ驚いたわ。さっきの一撃を繰り出す為に必要なゼスト操作技術。
ワイの能力を不意打ちでかけた後やからあの時はゼスト操作出来なかったのは当然として、あの時ワイの能力をあんなに簡単に喰らう奴が、ここまで上手くゼスト操作できるか?
もし、あのファミレスから二週間でここまでゼストを使えるようになったんやら、驚異的な成長やで。
何より、ワイが一番驚いてるのはワイが上壁にかけた能力が何故が解除されてるってことや。
能力を解除できる能力を持った奴が身近にいるんか?
いや、今はそんなことどうでもええ。ここに上壁が直ぐに敵を倒して現れたのを見るに、他のG組メンバーも上壁同様実力を上げてる可能性が高い。
そうなると、戦力を分散したのは悪手やったわ…。
「作戦変更や…。ここで手下からの連絡を受けつつ、苦戦してるところがあったらワイが向かう算段やったが、それはもうやめや。ここからはワイも積極的に動くとするわ。」
上壁は手につけていた革手袋を外すと、体制を少し前に屈め、櫂に意識を集中させる。
「まずは、せっかくワイのところまで来てくれた上壁君をサクッと倒して、他の生き残ってる奴らに合流して君たちを蹂躙していくとするわっ!」
そう言い終わると根津井は櫂に向かって走り出す。
「サクッと倒せるもんなら倒してみろや!!」
睨み合いの続いていた二人はついに本格的に交戦を開始。根津井は能力をもう一度櫂相手に発動すべく、櫂の体に向かって真っ直ぐに手を伸ばす。
「そう簡単にやらせねぇぜっ!」
櫂はそれを持ち前のボクシング技術と向上したゼスト操作で上がったスピードで、手のひらに触れることなく、上手く拳で打ち払う。
「まだまだやっ!」
さらに手数を増やし櫂に接触を試みる根津井とそれを最初と同じように連続で打ち払う櫂。二人の攻防は徐々にスピードを増してゆく。
「やるやないか。ならこんなんはどうや?」
根津井は先ほどまで手を何度も突き出し接触しようとすると単調な動きをやめ。合間にフェイントや蹴り技などを織り混ぜながらさらに手を回避する難易度を上げてくる。
「甘ェんだよっ!」
櫂もボクシングでの経験とゼストの出力を上げそれに対応。一旦長引く攻防の流れを断つ為、強めの右ストレート根津井のボディにお見舞いし、距離を取った。
「ホンマに最初に会った時と同じ奴とは思えへん戦いっぷりやな。敵ながら天晴れやで。」
「まだまだ俺はこんなもんじゃねぇぞ?あの時受けた借りはさっきの顔面で返したが、まだ利子の分が残ってんだ。あれで終わりだと思うなよ?」
互いに一瞬の隙が勝負を分けるような戦いの中で、根津井は妙な違和感を感じていた。
何やこの感じ…。ワイの能力が発動したら一貫の終わりやから、ワイの手を警戒して攻めあぐねてるだけかと思たけど。それにしては最後の右ストレート以外、ワイを倒そうとする攻めの意識が少ないように感じる。ワイの考えすぎか?それとも…。
「どうしたおカッパギツネ!まさかスタミナ切れか?もっとかかってこいや!」
やっぱり自分からは攻めてこうへん。ワイの出方を見て行動を考えてる感じや。コイツ…。
「上壁君。かかって来いなんて、えらく消極的やな。そんなにやる気満々ならそっちからかかってきたらどうや?それとも、何かそうせざるを得ない訳でもあるんか?」
「ハッ、何わけわからないこと言ってやがる?何でもいいからサッサとかかって来いやっ!」
櫂のその言葉を聞いて、根津井の細い目が何かの確信を得たかのようにきらりと光る。
読めたで、上壁の考えが…。
このヒットアンドアウェイにも似た戦い方。俺に頻繁に攻撃を促す挑発。なのに攻めは消極的で俺を倒し切る意思を感じない。その訳は…。
「時間稼ぎか…。」
「・・・・・・。」
無言の櫂を見て、根津井の顔から完全に笑みが消える。
「どうやら図星みたいやな。何考えてるのかわからへんけど…、そうと分かったらそちらさんの思い通りにされるわけにはいかへんわなぁ。」
バレたか…。もう少し時間が稼げるかと思ったが、どうやら向こうも本腰入れるみたいだし、これは俺も気を抜けねぇな。
櫂はさっきよりも根津井に意識を集中させ、根津井の次の行動に備える。
「"力の返還"×3。」
そう言うと根津井の手の甲に描かれたマークが光だし、根津井が纏っているゼストの量が先程よりも増す。
「…!?」
「驚くことないで。ただ、上壁君が倒した俺の手下に貸してたゼストを本来あるべき場所に戻しただけやから。君が時間を稼げば稼ぐほど君の仲間達が俺の手下を倒して、その都度俺にゼストが返ってきてその分俺が強くなるだけや…。さあ、この状況で、上壁君はどこまで耐えられるかな?」
力を増した根津井は、少し焦りを感じされる櫂見てニヤリと笑った。




