62.対抗戦:瀬川侑
俺と櫂がそれぞれ敵と遭遇している頃、他の三人もそれぞれ敵と対峙し交戦を開始していた。
〜瀬川サイド〜
校舎の玄関前にある噴水広場付近に飛ばされた侑は、根津井の策略により、既に三人の敵に囲まれていた。
「君が回復能力だけしか持ってなくて、戦闘能力は皆無だって根津井さんから聞いてるから知ってるよ。だから、大人しくしてればあまり痛い思いせずに気絶させてあげるよ。」
「お断りします。私も頑張りたい理由があってこの対抗戦に出場してるんです。大人しくやられるつもりはありません!」
「あっそ。じゃあどんな痛い目に合っても俺たち知らないよ?」
噴水を背後に背負いながら相手を警戒する侑は、ジリジリと隙間から逃げられないように間隔を狭めながら少しずつ迫る敵達の圧に、一歩分後退りをした。
特訓を真面目にこなして実力は間違いなく向上している侑であったが、初めての実践で敵を前にし、彼女の心の中は緊張と恐怖が入り混じっていた。
「おいおい、見ろよ。震えてるぜこの子。」
「さっきはあれだけ立派なこと言ってたのにやっぱりビビってんじゃん。ろくに戦う力持ってないのに、こんな戦場にノコノコ出てきた自分を恨むんだな。」
敵三人は丁度いい位置まで近づけたと見るや、身につけていたギアを発動。出現させた武器はバットや木刀といったようなシンプルなものだったが、ゼスト量が強化された彼らがそれを地面に叩きつけると、簡単に地面に敷き詰めらていたレンガにヒビが入るほど攻撃力が増していた。
怖がってばかりじゃダメ。落ち着いてゼストの操作に集中しなきゃ…。
侑は震える手で自分のギアのロザリオを強く握りしめる。
「今だお前ら、かかれっ!!」
三人は一斉に侑に向かって攻撃を畳み掛ける。
男達は自分たちの武器を振り上げ、それを目一杯の力で侑に叩きつけた。
同時に強い力で叩きつけたおかげで、広場は風圧で巻き上げられた砂埃で一時的に視界が遮られる。
『おーっと、瀬川選手に容赦なく三方向からの一斉攻撃がヒット!これは瀬川選手、早くも対抗戦脱落かぁ? いやっ、…あれは!?』
「何だこりゃ、壁か?」
攻撃が当たり、仕留めたと思った侑の周りは、半透明で球状のバリアのようなもので覆われていた。
「俺たちの攻撃を防ぐなんて…、まさか新しいギアか?聞いてねえぞそんなの。」
「違います。これは私がもつゼストを操作して作り出したバリアです。」
侑の説明を聞いた三人はありえないものを見るような顔をしていた。
それもそのはずだ。ゼストとは本来、人が纏う生命エネルギーのようなものであって。実態をもって触れられるだけでも驚きなのに、それがこのように武器が弾かれるほどの強度を持ったバリアを張れるなど、聞いたことがない。
だが、侑は一番仲間の中でゼスト操作がうまく、しかもゼストの質と量が元々他の者より優れていた侑は特訓の末、ゼスト量がさらに増え、そのゼストを極限まで圧縮することにより、強固なバリアを貼ることに成功した。
「構うな!こんな薄っぺらいバリアなんかいつまでも俺らの攻撃を受け切れるわけがねぇ。攻めて攻めて攻めまくれ!」
一人の生徒がそう言うと、侑の張ったバリアにこれでもかと三人は攻撃を叩き込む。
しかし、バリアは壊れるどころかビクともせず、攻撃をし続けていた三人は息を切らしてその場に座り込んだ。
侑はその瞬間を見逃さなかった。
「ギア形態変化。」
侑が握っていたロザリオがゼストをさらに込められて、みるみる大きく形を変化させる。
ロザリオはたちまち錫杖のようなものに姿を変え、それを侑は両手で握りしめる。
それは侑が持つゼスト量が特訓を経て一定量を越したことにより、ロザリオが本来持つ能力の形態変化を解放することに成功した。
「今度は何だ?」
侑は一人の生徒の近くに立つと、錫杖の下先を男子生徒の頭に当て、能力を発動する。
「睡眠誘導!」
錫杖全体が光を帯びたかとおもうと、その光はゆっくりと錫杖を当てている額に流れてゆく。
「なにしや…が…Zzz」
光が全て流れ込んだ瞬間。能力をかけられた男子生徒は、たちまち深い眠りの世界へと誘われた。
「この形態を解放したことによって、触れてさえいれば今までと違ってもっと細かい人体に関する健康状態を向上させることに成功したんです。今使ったのは睡眠欲を向上させて、強制的に人を眠らせる技。これでこの人は気絶したも同然なので、対抗戦脱落ですね。」
「だったらどうした?一人を不意ついて倒したぐらいでいい気になるんじゃねぇ。」
侑が一人を相手にしてるうちに息を整え終えた生徒が、再度侑に襲いかかる。
ガキンッ!
「なっ!?受け止めて…」
「テイッ!」
男が仕掛けた攻撃を今度はバリアではなく錫杖で受け止めた侑は、錫杖を上手く動かしながら攻撃をいなしつつ、男子生徒のバランスを崩すことに成功。
敵がよろけた隙に錫杖で足を払い、相手を転ばせた。
「今のは錫杖を使うようになった私向けに、特訓をつけてくれてた人が教えてくれた棒術です。ゼストの運動能力強化も使っているので、今のバテバテな貴方達の攻撃なら非力な私でも受け切れます。」
そう言い終わると、二人目も先程眠らせた敵同様に能力を使って相手を夢の世界へと誘った。
「さてと…。」
侑は眠らせた相手からまだ残っている敵に視線を移す。最初に敵と対峙した時の緊張や恐怖はもう侑からは感じられなかった。
それが分かったのか敵も直ぐにはかかって来ず、襲いかかるか迷っているように見えたが。
このまま女子相手に負けてたまるかと、男としてのプライドがそうさせたのか、少し間を空けてから侑に襲いかかる。
しかし、最後の最後で同じ攻め方をした敵が勝てるはずもなく。最後の敵も同じように眠らされ、見事三人の敵を返り討ちにする形で戦いは決着となった。
「稜君、みんな…。私…勝てたよ。」
初めての実践での勝利を噛み締めるように、胸元に手を置き、まだ収まらないはやる心臓の鼓動を自分で感じていた。
そして、まだどこにいるかもわからない仲間の安否を心配しながら、侑は遠くを見るように空を見上げた。
6月になりました。
梅雨に気圧関係、天気痛などの体調不良が心配になる季節ですのでどうか体調にお気をつけてお過ごしください。
作者も体調を崩しやすい体質なので。健康に気を配りながら、今月も毎日1話以上投稿できるように努力していきたいです。




