60.作戦の為だよ?
試合開始ッ!
『それでは改めて、前期対抗戦の簡単なルールをここにいる皆さんにご説明いたします。』
司会がマイクの音量を上げ、皆に聞き取りやすいように大声で対抗戦のルールの説明に入る。
今回の対抗戦は、四クラス対抗のバトルロワイヤル。
各クラスの代表五名のうち一人だけリーダーを決め、その生徒が身につけたデバイスを破壊、もしくは気絶などの戦闘不能状態とみなされた時点で、その生徒が代表を務めるクラスは脱落となる。
最後のひとクラスになるまで試合は続き、最後まで残ったクラスが試合に参加した中で最も高いランクのクラスと入れ替えになる。(一番高いランクのクラスが勝ち残った場合のみ変動はなし。)
「今回代表選手が戦うのはこの闘技場以外の校舎全域。敷地内から出なければ、どこで戦っていただいても構いません。」
ここまでは金恵達姉妹から聞いていた、いつもの一年生が行う対抗戦のルールだ。
いよいよ試合が始まる。
俺はいつも首から下げている指輪を右手の中指にはめ込む。
「みんな、それじゃあ昨日決めた作戦通りに。くれぐれも無茶だけはしないようにね。」
「分かった。」
「うむ。」
「おうよっ!」
「はいっす!」
みんなの返事が終わると、俺たちが立っていた闘技場の地面がゆっくりと光出す。
「なお、試合は代表生徒一人一人が闘技場の床に設置されたギアで校内のどこかランダムな位置に転送された瞬間開始となります。それではみなさん、張り切って行ってらっしゃいませ。」
闘技場にいる一人一人が光に包み込まれたかと思うと、次の瞬間、光の球体となった俺たちは空高くへと運ばれてゆく。
そこから四方八方へと散り散りに別れた後、適当な場所に着陸した。
「ここは…。」
着地した途端、さっきまで俺を包み込んでいた光は徐々に消えてなくなり、飛ばされた場所が視認できるようになる。
俺が飛ばされたのは、校舎の裏手にある広大な林の中だ。視界が悪く、林のどの場所に飛ばされたのかはわからないが、身を隠すならこれ以上ないと思える程の場所だ。
とにかく、みんなで決めた作戦通りに俺の役割を果たすために動くとしよう。
クイクイッ。
移動しようとした矢先、俺の制服を後ろから引っ張るものが一人。
「ねぇねぇ、稜ちゃん。」
俺の顔を上目遣いで見ながら、服を掴んでない方の指を口元に当てて何故かもじもじしている。
「どっ、どうした、木陽?トイレにでも行きたくなったか?」
「ううん、違うの…。木陽、もうお腹空いて一歩も歩けない…。」
はぁっ? このタイミングで空腹宣言っすか木陽さんっ!?
これから作戦を実行するのに動こうとしてるって時に子供みたいな理由で足止めをくって少しイラっとしてしまった俺だが、今はそんなことで時間を無駄にしてる場合ではないと深呼吸をして、なんとか怒りを抑え込む。
「そっ、そうか〜…。じゃあ、木陽の助けが必要になったら呼ぶから、今は指輪に戻ったらどうかな?」
「い〜や〜だ〜。それじゃあ木陽がつまらない〜。」
このガキャ!
今回の作戦は俺と木陽が要だから気分屋の木陽の機嫌を損ねないように言葉を選んでたのに、このままじゃせっかく抑え込んだ怒りが爆発してしまう。
いや耐えろ、耐えるんだ俺…。
ここで変に木陽の機嫌を損ねたら、せっかく考えた作戦がパァだ。ここは作戦を完遂するため、全力で木陽の機嫌を取り続けなければ…。
「そうか〜(怒)、じゃあ俺はどうすればいいかな?」
「えーっとね〜、そうだ!」
少し口元に手を当てて悩んでいた木陽は何かを思いついたかのように顔を上げると、俺の方に両腕を伸ばして…。
「抱っこして?」
そう言い放った。
抱っこぉ〜!?
いつ敵が襲ってくるかわからないのに、両手が塞がる抱っこしながら運べってゆうのかコイツは…。
「せめておんぶじゃダメ?」
そこじゃないだろと思う人もいるかもしれないが、俺はもうこんなやりとりで時間を消費したくない。
これからは文句なしでなるべくことを早く進めていく。
「ダメ、抱っこ! できれば、お姫様抱っこがいいな。」
「はいはい。よっこいせっと。」
最後のできればお姫様抱っこというのだけは個人的な願望だろうが、まぁそれくらいならと木陽を両手に抱えてようやく最初の場所から動き出す。
とりあえず今はこの林から一刻も早く出て、現在地を確認したい。
生い茂る木々を避けながら走る最中、無駄に広すぎるこの林に少しうんざりしてきて、さっきっから腕の中ではしゃぎっぱなしの木陽に意味もない雑談を投げかける。
「なぁ木陽、どうでもいいんだけどさ。なんで抱っこが良くて、おんぶはダメなの?」
「あ〜それはね〜。今履いてないからおんぶだと見えちゃうかもしれないから〜。」
ん?今なんて言った?
風が吹き、木々の葉がさざめく音がうるさくて変な聞こえ方をしただけかもしれないと、木陽に再度尋ねる。
「あの木陽さん?履いてないとか見えちゃうとか、いったいなんの話をしてるんだい?」
わざわざ気になって立ち止まりながら尋ねる俺に木陽は答えた。
「稜ちゃん何言ってるの?履いてないって言ったらパンツ以外ないでしょ〜?まぁ、履いてないだけじゃなくて、上もつけてないんだけどね〜。」
「はあぁーーーーーーっ!!!?」
何言ってるのはこっちのセリフなんだけど!?
俺のあまりに驚愕の事実を知って出た叫びが林の中を駆け巡る。
家にいる時はほぼ全裸。家族がいてもお構いなしに薄着で、もしかしたら服を着てないことの方が多い木陽が珍しく白のワンピース姿で現れたなと思っていたら、ワンピースの内側は防御力皆無の状態だったなんて…。逆になんで足元はかろうじてピーチサンダルを履いているのか聞きたい。
「木陽お前っ、この対抗戦中は至る所に見えないギアがこの試合状況をモニタリングしてるって金恵が言ってただろ?もしかして、それを分かっててわざとそんな状態なのか?そういうのが好きなのか!?」
「違うよ〜。これはね、今回の作戦のために仕方なくやってるだけだよ〜。」
作戦のために下着つけないってどういうことだよ!?
さっきから俺の心の中の木陽に対する叫びが止まらない。
「おいっ!」
「あーちょっと待ってくれる?今木陽とちゃんと話さなきゃだから…」
この際だからちゃんと叱る時に叱っとかないと、いつまでも甘やかして本人のしたいがままされてはいつか本人がとんでもない恥をかくかもしれない。
そうなってからでは遅い。
だからここは厳しく…
「オイッてば。いい加減こっち向けや!」
「なんだよっ、ちょっと待ってって言ってるだ…ろ…。」
何回もしつこく声をかけられるもんだからとようやく後ろを振り返ると、そこには3人の生徒が立っていた。
【悲報】家族のとんでもない奇行を注意していたら、すでに3人の敵が背後に迫っていた件について。
最近やる気が急降下しすぎて、地面に突き刺さったまま抜けない。そんな状態です。




