59.開幕
対抗戦、いよいよ開幕です。
能力人材育成高等学校、略してAHD高校は、この日前期終業式であるにも関わらず、盛大な賑わいを見せていた。
学校上空に無数に上がる花火に敷地内にある大きな闘技場の周りを囲む多くの屋台の数々。
本日行われるクラス対抗戦は、前期終業式の最後を飾るのと同時に、この学校がある地域全てをも巻き込んだ一大イベントとして、毎年お祭り騒ぎになるらしい。
『さぁ!いよいよこの日がやってまいりました。皆様お待ちかね、前期クラス対抗戦!!司会進行は私、放送部2年の上森が勤めさせていただきます。そして今回、解説にはスペシャルゲストとして、あの一年生からSクラス入りを果たし、そのルックスと実力から校内に非常にファンの多いと噂のこの方、遠野 光様にお越しいただきました〜。本日はどうかよろしくお願いいたします〜。』
『・・・・・・。』
『あっ、あの〜。光様?何か一言皆さんに向けてお言葉を〜…。』
『……何?』
『い、いえ、なんでもないです!それでは早速最初に行われる一年生下位クラスの部、代表選手の入場です、どうぞ!!』
対抗戦の開幕を盛り上げようとした上森だったが、解説である筈の光の塩対応によって涙目になりながらもなんとか対抗戦の進行を行っていた。
司会の生徒の掛け声と共にランクが上のD組から1組ずつ、司会の軽い選手紹介を交えて5人の代表生徒たちが闘技場の入り口から姿を現す。
そして、ついに俺たちG組が入場する番が回ってくる。
「みんな準備はいい?」
俺は後ろにいるみんなに確認を取る。
「うん、準備OKだよ。」
俺の呼びかけに、真っ先に返事をする侑。そのさらに後ろにいるみんなも侑のようにテンポよく返事をして欲しかったのだが…。
「おい武士女、なんで列の並び順が俺よりお前の方が前なんだ?なんだか俺よりお前の方が強そうに見えるじゃねぇーか。今すぐそこ変われよ。」
「もう入場だと言うのに、何を訳のわからないことで文句を言っているのだ貴様は!いいからさっさと私の後ろにきっちり並べ。入場する際の列が乱れていると纏まりが無く弱そうなチームに見られてしまうことが多い。そんな些細なことでチームワークを乱すな。」
試合を前に緊張せずいつも通りなのはいいが、大事な試合を前に喧嘩するのはやめてほしい。
「二人とも…喧嘩はやめるっ…す。うぷっ…。やば、また緊張し過ぎて吐きそうになって来たっす…。」
「伊月君大丈夫?」
タツを心配して侑はうずくまる達の背中をさすってあげていた。
今このチームの状況。赤の他人から見てもわかる通り、団結など微塵も感じられず、チームワークが良さそうな強いチームにはさらさら見えない。
今し方司会がG組の入場コールをしていたと言うのに、このまま会場に出て行ってもいいものか悩むレベルだ。
だが、呼ばれてしまったからには出る他に道はない。
「おいみんな!もう呼ばれたんだから、早くいくよ!」
半強引にみんなを引き連れて、ようやく入場口から差し込む光の方へと歩みを進めた。
***
『さあっ、最後に登場するのは一年生の最低ランククラス、1Gの代表生徒だ!ほぼ一般学校の生徒と変わらない面々と、何かしらの入学試験で問題を起こした問題児で構成されたこのクラスは、対抗戦でどんな動きを見せるのか!!!』
精一杯大会を盛り上げるべく俺たちの紹介をしてくれているのはいいが、やはり最低クラスだけあって紹介文に少し悪意があると思うのは俺だけだろうか?
会場にいる生徒たちは、実況の解説を聞いても盛り上がりもせずに携帯をイジるか友達との話に夢中でこちらに見向きもしていなかった。
「こんなに注目されてないと、さっきまで緊張してたのがバカらしくなってくるね。」
「そうっすね。自分もなんだか注目されてないと分かったら、なんだか体調が少し良くなって気がするするっす…。」
想像以上の注目度のなさにタツと二人して落ち込んでいると、後ろから櫂が俺たち二人の肩に腕を回し、自分の方へと引き寄せた。
「何落ち込んでんだお前ら。俺たちに興味がない奴らのことなんかほっとけよ。どうせこの後の戦いで、嫌でも注目を浴びることになるんだからよ。」
落ち込む俺たちを気遣ってくれたのか、櫂が自信満々な顔でそう言った。
「おーおー、えらい自信満々やなぁG組の皆さん。」
「根津井…。」
突然絡んできたD組の根津井に、俺たちG組のメンバーは一斉に視線を向ける。
「これからワイらにボコボコにされて大恥かくの間違いやあらへんの?せっかくファミレスでおうた時に仲間になれいうたのに無視するからこんな大舞台で公開処刑されることになるんやで?」
不敵に笑う根津井の後ろには根津井以外のD組代表だけでなく、手を組んでるE、F組の代表生徒も続々と集まってくる。
「頭が悪そうなG組さんでもこれを見ればわかるやろ?圧倒的に兵力差があるこの状況でそれでも5人だけで歯向かってくるなんて、アホのすることやろ?だから大人しく俺たちの仲間になるて言った方が身のためやで?」
「5人じゃないよ!」
「あん?」
突如として俺たち5人の誰のものでもない者の返答に、根津井はその細い目を見開く。
「木陽も一緒に戦うんだから、えーと…。15対6だもん!」
俺の後ろから急に顕現した木陽が、指を使いながらおぼつかない計算で割り出した数の差をドヤ顔で根津井に伝えた。そのせいで緊張感が張り詰めたこの空間に異様な空気が流れ出す。
「偉いわよー木陽ー。ちゃんと計算できてー。」
さらに遠くの観客席からよく聞いたことのある声が聞こえてくる。
声が聞こえて来た方を向くと、そこには木陽以外の姉妹たちが明らかな観戦客気分で並んで座っていた。
「やっちまえーG組ー!喧嘩は数じゃねぇー!気合いだぁ!」
「みんなーちゃっちゃと終わらして、この後打ち上げ行こうね〜。」
「姉さん達、もうちょっと静かに応援できないの?あまりに私たち浮きすぎて、周りの生徒が引いてるんだけど?」
姉妹が座っている席の周りだけ妙に空きが目立つ。
周りにいる生徒達もこの人たちはヤバイと、自分の中の何かが警笛を鳴らしたのかもしれない。
ともかく、あんなに大声で身内が応援してると思うと、なんだか気恥ずかしくなってくる。
「なんや、ファミレスで一緒にいたちんちくりんやないか?どしたんこんなとこで?迷子にでもなったんか?」
「迷子じゃないもん!稜ちゃん達と一緒に敵倒すんだもん!」
「そりゃ恐ろしいわ〜。恐ろしすぎてワイ怖くなって来たからもう行くわ。じゃあまた後でな。」
試合前の緊張感が削がれたのか、根津井は振り返って仲間達と共に元いた場所へ戻っていく。
「おい、おかっぱギツネ。勝手に帰ろうとしてんじゃねーよ。」
この場から去ろうとする根津井を一歩前に出た櫂が呼び止める。櫂の言葉に足を止め、再びこちらを振り返る根津井に近づき、顔面を寄せ至近距離でメンチを切る。
「対抗戦が終わった後、バカにした俺たちを二度と笑えなくなるぐらいコテンパンにしてやっからよ、楽しみにしとけや。」
「ほう、それは楽しみやな。まっ、期待せずに待っといたるわ。」
木陽のせいでおかしくなった空気を櫂が元の緊張感がある空気へと塗り替える。そして、その塗り変わった空気感の中、実況が対抗戦がもう間も無く開始されることを告げた。




