53.青天の霹靂
「ふ〜、食べた食べた〜。満足満足〜♪」
「木陽、あんたちょっと食べ過ぎじゃない?これから夕飯もあるのに、食べられないなんて言ったら美月姉さんに叱られるわよ。」
「大丈夫だよ〜。少し歩いたらまたお腹空くから〜。」
「どんな胃袋してんのよあんた…。」
「それに、美月ちゃんの料理は特に美味しいから、どれだけお腹いっぱいでも別腹って感じなの〜。」
「あっそう。もうなんでもいいわ。」
ファミレスからの帰り道、木陽と金恵はさっきの一件のことなどなんとも思っていない様子でいつも通り会話をしていた。
「あのさぁ二人とも、一つだけ聞きたいんだけどいいかな?」
「ん〜?」
「なによ?」
「どうして俺の傘に二人も一緒に入ってるのかなって…。」
ファミレスを出てから二人は、大して大きくもない俺の傘の中で雨に濡れないように俺の体に密着しながら歩いていた。
「なに?あんた傘のない私に家まで雨に打たれて濡れて帰れって言うの?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけどね。ほら、少し歩きにくいし、それに…。」
「それに?」
あんまりくっつかれると、胸とか色々な部分が当たって意識しちゃうから。
なんてことは言えないよなぁ…。
だけど、流石に二人ならまだしも、三人で一つの傘を指していると道ですれ違う人たちに変な目で見られるのが少し恥ずかしい。
「木陽はねぇ。雨に打たれるのは気持ちいいから、雨の日はいつも傘をささずに出かけたりするけど。今は金恵ちゃんが稜ちゃんにくっついてるのが仲良しでいいな〜って思ったから、マネしてるの〜。」
「はっ、はぁ!? 木陽、あんた何言って!こっこれは別に雨に濡れたくなくて、少しでも傘の中に収まろうと仕方なくやってるだけなんだから。」
「そんなにひっつくの嫌ならコンビニ寄って傘買ったら?」
「お金もったいないでしょ?いいわよこれで。」
「あれ〜?そういえば。金恵ちゃん、家出る時折り畳み傘持ってなかったっけ?」
ビクッ!
木陽の言葉を聞いて、金恵が少し体を強張らせる。
「あっあんたの見間違いじゃないの木陽?私は別に折り畳み傘傘なんて…。」
「じゃあなんでファミレス来た時雨降ってたのに金恵ちゃん濡れてなかったの?」
ビクビクッ!
「そっそれは…。そうっ、タクシー。急いでたからタクシー使ったのよ。」
何だか今までの反応を見るに、変に誤魔化しているように見える。
「何よ綾その目は。まさかあんたも疑ってるわけ?本当に折り畳み傘傘なんて持ってないんだから。」
そう言うと、金恵は背負ってる学生鞄を胸の内に抱き抱え、意地でも中身を見られないように死守していた。
金恵よ。それはもう持っていますと言ってるようなもんじゃないのか。
そんなことを考えていたが、本人に言うとまた面倒くさくなりそうなので、心の内に留めておくことにした。
***
相合傘騒動がひと段落つき、話題は何故二人がファミレスに現れたのかという話になった。
「私が稜達のところに行ったのは、偵察してたターゲットがファミレスに入って行ったからよ。」
「偵察?ターゲットってまさか…。」
「そう。根津井 広鬼よ。」
金恵の話では、テスト期間に入る少し前から俺たちG組の対抗戦の相手になりそうな生徒を調査していたようで、それがさっきの根津井だったそうだ。
さっきは根津井の能力も曖昧にしか把握してないように話していたが、みんなが帰ろうとした際に。
『木陽。この金髪に掛けられた根津井の能力、解除してあげなさい。』
『は〜い。』
というように、木陽が能力を使って一瞬で解除していた。
まさか二人が俺たちの元に来た、もしくは来るよう指示されていたのは、こうなる事を予測していたからかもしれない。
そう思うと、水姫が言っていた姉妹達全員が俺たちの対抗戦に関する全てのことをサポートしてくれるという話は、これ以上ないくらい心強いことなのではないだろうか。
俺たちのことを真剣に考えて行動してくれている二人感謝を表すために、とりあえず拝んでおこう。
俺は胸の前で両手を合わせ、二人に頭を下げた。
「「?」」
二人は不思議そうに首を傾げていたが、目を閉じて真剣に感謝を表そうとしている俺にはそれを知ることはなかった。
「そうだ、稜、あんた今週末何か予定ある?」
突然のなんの脈絡もなく、土日の予定を金恵が聞いてくる。
「週末の予定?特にはないけど、土日は家で勉強でもしようかなって。万が一にも赤点取って、対抗戦に出る前から不戦敗みたいな感じになるのは避けたいしね。」
「そう…。なら丁度いいわね…。」
「ん?金恵、今なんか言った?」
「別に。こっちの話だから気にしなくていいわ。」
今の会話の終わりに少し金恵が笑った気がしたのだが、気のせいだったのだろうか?
それが見間違いでなかったことと、ファミレスの時から感じていた、何かと事あるごとに二人が笑みを浮かべている理由を俺は明日知ることになる。
***
翌日の土曜日。
昨日降っていた雨は上がり、本日は梅雨入りした時期には珍しく雲ひとつない清々しい晴天となった。
「いや〜、久々に気持ちのいい天気だなぁ。」
休日なのに何故か朝早く起きた俺は、家の前で外の気持ちいい空気を感じていた。
キキィーッ!
「んっ?なんだ?」
突如、俺のうちのアパートの前に大きなトラックが止まる。
トラックにはよく見る引越し業者のマークが描いてあった。
「引越し屋のトラック?えっ、このボロアパートに?」
物好きもいたものだと思いながら見ていると、後ろから突然声がかかった。
「来たわね。」
「うわっ!びっくりした〜。金恵、今日は家にいたんだね。」
いつもは土日も家にいないことの多い金恵が珍しく俺に声をかけてきた。
「今日は何も予定が入ってないしね。それよりもアンタ今日暇なら引越し作業手伝ってきなさい。」
「えっ、なんで俺が…。」
「いいから行きなさい。」
少し機嫌が悪そうに言う金恵に昨日のイカつい金恵の姿が重なり、本格的に怒られる前に金恵言うことを素直に聞くことにした。
「は、はい。行ってきます。」
***
アパートの階段を降り、トラックに近づいた俺はトラックから降りてきた人物を見て驚いた。
「あっ、響八君。おはよう。」
「えーっ、せ、瀬川さん!?なんで!?」
降りてきたのは俺がよく知る学校のクラスメイトであり、幼馴染でもある瀬川さんだった。
「瀬川さんこのアパートに引っ越してきたの?なんでまた…。」
「ちょっと色々(・・)あってね。家賃が安くて学校から近いこのアパートを金恵さんに勧められて、ここに決めたんだ。」
マジかよ…。
ってゆうか金恵がこのアパート勧めたの?
グッジョブ…、じゃなかった。
俺の知らないところでそんな相談に乗ってたのか。
そりゃ知らない人かもしれないのに引越しの手伝い行ってこいなんて言うはずだよ。
瀬川さんがここに引っ越してくること知ってたんだもん。
「瀬川さん。今日俺暇だし、引越しの作業よかったら手伝うよ。」
「えっいいの?ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。」
今までこのアパートは六部屋あるにも関わらず、俺一人しか住んでいなかった。
周りに気兼ねなく大人数で騒げたのはいいが、住人が俺一人というのは少し寂しいと思ったことがちらほらあった。
しかし、よく知る友達の瀬川さんが越してくるならそれも今日までだ。
今日からは瀬川さんがアパートの住人に加わってベタなご近所付き合いしながら、時には学校に登校する時間が重なっちゃったりなんかしちゃったりして、楽しい日々が始まるんだ。
そう思ってルンルン気分で瀬川さんの荷物が入った段ボールをおろそうと移動しようとした時、遠くから別のトラックがさらに三台こちらに走ってきた。
「んっ?もしかしてあれも瀬川さんの荷物?随分と多いね。」
「ううん、私が頼んだのはこのトラック一台だけだけど…。」
「じゃああのトラックは…」
トラックは通り過ぎることなく、家アパート前に三台とも停車した。
後からきた瀬川さんが知らない引越しトラックが三台。
俺の脳裏に、昨日のファミレスでみんなとした会話がふとよぎった。
「まさか…。」
俺の頭に浮かんだ予感は、すぐさま現実となって目の前に現れた。
トラックからそれぞれ降りてきたのは、まさかの燕、櫂、タツの3人だった。
俺は突如起こった到底奇跡でもありえないようなこの事態に、理解が追いつかないぐらいに混乱した。




