51.不敵に笑う男。
「なんだてめぇ?いきなり話しかけてきやがって。」
「そんな怖い顔せぇへんでくださいよ。上壁櫂君」
「!? 俺の名前を…。」
「他の子も知っとるで。そちらの可愛子ちゃんは二人は、瀬川侑に兵藤燕。そして他の男子の方は響八稜君に伊月達夫君やろ?」
こいつ、俺たち全員の名前を。
名前を当てられて驚いた様子を笑いながら見ていた根津井はそのまま話を続けた。
「あんたら今俺らの間でちょっとした有名人やからな。そりゃ名前も知ってますて。」
多分先の任務の件で俺たちのことを知ったのだろうが。なぜ俺たちがG組の代表であることを知ってるのだろうか?
「なんだよおかっぱギツネ。D組の代表がわざわざ底辺クラスの俺たちの偵察でもしにきたのか?」
「あー違う違う。俺はただあんたらに提案しにきただけや。」
「提案?どう言う意味だ?」
根津井はさらに口角を引き上げてニコリと笑うと、ゆっくりとくちをひらいた。
「単刀直入にいうわ。あんたら、D組の傘下に入らへん?」
突然の提案に俺たちは目を見合わせる。
「悪い話やないと思うで。上のクラスの俺たちと協力すれば、さらに上のクラスとも戦う時に有利になるやろ?どや?仲間にならへん?」
「傘下だと?ふざけんな!なんで俺より弱いやつの下につかなきゃなんねぇんだよ。」
「あっはっは、こりゃ傑作やわ。自分、本当に俺たちよりも自分の方が強いと思っとるん?たかが一般的な肉体強化系の能力持ってるくらいで。」
「なんだと?」
根津井は今度は櫂の能力までピタリと言い当てた。
どうやら、俺たちのことはすでに調査済みのようだ。
「他にも普通の回復能力者に、竹刀が真剣になるだけのギアを持った女剣士。それにへんなおもちゃみたいなギア使うゼストも使えへんオタクやろ?
そんなカスみたいな能力集団で俺たちに勝つとか、マジ冗談キツイで。」
根津井は大笑いしながら、怒りのほとばしる櫂の方に手を置いた。
「貴様、我が愛刀まで馬鹿にするとは…。そこに直れっ!!」
馬鹿にされて立ちあがろうとした燕よりも先に肩に置かれた手を払いながら、櫂はゆっくりと立ち上がった。
「カカっさん?まさか…。」
「おっ、なんや?怒ったんかいな?」
櫂は根津井の方を真っ直ぐ向くと、顔を相手の近くまで寄せ、渾身の睨みを効かせていた。
「俺のことはどうでもいいけどよ…。俺の友達のこと悪く言われちゃ黙ってるわけにはいかねぇ。」
「ダチとか昔のヤンキー感丸出しで寒いで。それに何言われても事実やねんから、仕方ないやろ?」
「ッ!」
あっ、これまずいやつだ。
そう思った時にはもう遅かった。
櫂は我慢の限界と言わんばかりに、挨拶がわりのジャブを繰り出す体制に入った。
「馬鹿っ、よせっ櫂!ここ学校外だぞ!」
俺の静止は間に合わず、鋭い拳が真っ直ぐに根津井の顔目掛けて飛んでいった。
パシッ。
「!?」
「なんや短気やなぁ。短気は損気って言うやろ?」
俺たちは目の前の光景に驚かずにはいられなかった。
完全に決まったと思った櫂のジャブを根津井は片手で簡単に止めて見せたのだ。
「ちっ、力が入らねぇ…。」
掴まれた拳を引き離そうと必死にもがく櫂だかそれは叶わず。それと対照的に根津井は涼しい顔をしながら櫂の拳を掴んでいた。
「君がいると話がスムーズに進まへんなぁ。
手ェ出したんそっちが先やし、悪く思わんでくれや。」
そういうと、根津井は空いてる方の手を櫂の額付近まで近づけ。
「ほいっ、デコピン。」
ドパンッ!!!
「かっ、櫂!!」
櫂はもはや威力的にデコピンの域を逸脱している攻撃を受けると、あまりの威力に、店内の通路奥の椅子が積み上がっているスペースまで吹っ飛ばされていった。
「貴様!なにをするか!」
「言ったやろ?話の邪魔やし、それに先に手ェ出したのそちらさんやねんからこれでおあいこや。できれば、女の子には手あげたくないから少し黙っててもらえると助かるわ。」
根津井は櫂が座っていた場所に座ると、間にあるタツをまるでいないかのように俺の方を見て話し始めた。
「ワイがここに来た一番の目的は君や響八君。」
「俺っ?」
俺の方を指差す根津井は再びニコリと笑う。
「そやで。君の持つ能力はここにいるカスみたいな奴らとは全く別もんや。これでもワイ、人を見る目には自信あるんや。どやろ?来ただけでもワイらの傘下に入ってくれへんかな?」
根津井が差し出した手を、俺は振りはたいた。
「確かに上に行くために協力するのはいいことだと思う。だけど俺も櫂考えは同じだよ。仲間を馬鹿にしたやつと仲間になりたいとは思わない。」
この言葉を聞いた途端、根津井の顔から出会ってから初めて笑みが消える。
「それじゃあ、交渉決裂ってことでええんやな?」
俺と根津井の間の空気が緊迫してゆく。
間に意図せず挟まれていたタツも雲行きが怪しくなってきたのを感じ取ったのか、巻き込まれないか心配で顔が青ざめていた。
雨が勢いを増し、激しさを増した音が騒動で静まり返った店内に聞こえてくる。
誰もがこのまま一触即発の危険を感じ取っている中、一人の少女がこちらに駆け寄ってくる。
「稜ちゃん見てみて〜。ドリンクバー混ぜてすごいな作ったの〜。名付けて、木陽スペシャル〜。はい、稜ちゃんにあげるね♪」
どこへ行ったのか姿が見えなかった木陽が、何かこの世のものとは思えない色をした液体が入ったコップを俺に向かって差し出してくる。
「いやっ、俺が飲むんかい!じゃなくて、今ちょっと取り込んでるから少し静かにしてなさい!」
「え〜。せっかく、すごいのできたのに〜。」
残念がる木陽は、しょんぼりしながらさっきいた席についた。
それと入れ替わるように、根津井は座っている席から立ち上がった。
「なんやいい雰囲気やったのに、邪魔が入って興が削がれてしもうたわ。まぁ、今回は軽い挨拶のつもりやったし、響八君も気が変わったらいつでもうちの傘下に入りますって言ってくれて構わんからな。」
パチンッ!
根津井はおもむろに指を鳴らすと、次の瞬間、店内にいた殆どのAHD生はその場で一斉に立ちあがった。
よく見てみると、根津井が指を鳴らす時に掲げた手の甲に入っている刺青のような模様が、他のAHD生の体の一部にも見てとれる。
「まぁ、もしこのままワイの誘いを断り続けたら、痛い目見るのはそちらさんやからな。」
背中越しにこちらを振り向き、細いた目を少し見開いてこちらにそう言う根津井。
これは最後の忠告だと言わんばかりの圧を感じた。
「帰るでみんな。ほな、またなぁ。」
最後に不敵な笑みを浮かべながら手をひらひらと降り、傘下であろう大勢のAHD生を引き連れて根津井は店を出ていった。




