50.よろしゅう
〜現在〜
男女向かい合わせに座った俺たちはドリンクバーだけ人数分注文した後、早速教科書テーブルに出して勉強会を始めた。
「ったく、何が悲しくて普段あまり来れねえファミレスで勉強なんかしなけりゃならねぇんだよ。」
「仕方ないじゃないっすか。赤点取ったら折角代表者として登録してても、補習で対抗戦に出られないんすから。」
「そうだぞ。クラス対抗戦だけの代表であっても、学生の本分たる勉強が疎かであっては代表としての名折れだ。そうと分かったら、潔くみっともない点数を取らぬよう勉学に励むのだな。」
「へいへい。」
珍しく燕の言うことに反発しない櫂は、渋々持っていた教科書を開き勉強を始めた。
「みんなごめん。水姫のせいで、こんなことになっちゃって…。」
俺は家族がみんなに相談もなしに勝手なことをしてこのような事態になったことをとても申し訳なく思っていた。
ことの発端でもあるうちの一人でもある水姫は、昼休みに姿を見せたかと思うと、まだまだ計画のためにやることがあるとそそくさと何処かへ行ってしまったので、計画とは何をどのようにすることなのかまだはっきりとわからなかった。
ただ一つ言えることは、まだこれから姉妹達の計画によって様々なことが起こると言った点であろう。
そのことを思うと、また申し訳ないと思う気持ちが込み上げてくる。
「またその話っすかヒービー。学校からここに来るまで口を開いたと思ったらその話ばっかじゃないすか。」
「そうだよ響八君。その話はここにいるみんながむしろ上に上がれるチャンスが楽に取れてラッキーってことで終わったじゃない。」
「でも…。」
確かに瀬川さんの言うとおり、この話は片がついた話だ。
そうだとしても、大切な友達を大変な目に合わせるかと思うと…。
「おいっ、稜!俺たちはこの学校に来た時にどんな困難が襲って来ようが、叶えたい夢のためならそれを甘んじて受ける覚悟はとっくに出来たんだ。
あんまし、俺たちの覚悟を舐めるようなこと言ってっと、そろそろぶっ飛ばすぞ。」
そう言って拳を鳴らしながらこちらを睨む櫂に対して、言葉はあれだがこれは彼なりの気遣いだと思い。
彼らの覚悟を尊重すべく、この件はこれ以上言わないことにした。
「ありがとうみんな。それからごめん。これからまたみんなで頑張ろうって時に、その雰囲気に水を刺すようなことして。
お詫びと言ってはなんだけど、ここのお会計は俺が持つよ。」
「稜は真面目すぎるのだ。もっと肩の力を抜いてもいいんじゃないのか?」
「そうっすよ。リラックスしていきましょ!リラ〜ックス。」
そう言ってみんなと笑い合った。
ジメジメした季節のせいで、少し考え方が陰湿ぽくなってたのかも知れない。
ここは気分転換にパーっと飲み食いしつつ、テストと対抗戦前の英気を養うとしよう。
まぁ、奢ると言っても月々に渡される小遣いから出すだけなので、厳密に言うと俺のお金ではないのだが。
「やったぁ〜、奢ってくれるの?ありがとう稜ちゃん。」
「「「「「んっ?」」」」」
突如ここにいる五人の誰のものでもない声が聞こえて、みんなが一瞬勉強の手を止める。
「えへへ〜、どれにしようかなぁ〜。」
「えっ、木陽!?どうしてここに?」
女子達が座ってる向かい側の席。
二人の間にまるで下から生えて来たかのように現れた木陽は、奢られる気満々といった様子でメニューに目を通し始めた。
「木陽はね〜。水姫ちゃんが木陽にみんなの対抗戦に勝つためのお手伝いしてあげて〜って言われたからここに来たの〜。」
また水姫の差金か。
でも今は対抗戦戦ではなく、その前のテスト対策中なのだ。なのでまだ木陽の出番ではない。
「そっそうか〜。だけど今はみんなで勉強中だから、木陽ができることはないかな。悪いけど、対抗戦の手伝いの件は後で聞くから、今はご飯でも食べて大人しくしててね。」
「分かった〜。」
他の姉妹達より圧倒的に純粋な分、扱いやすくて助かる。
これでとりあえずは、知らない計画に振り回されることなく勉強に集中できる。
だか俺は、そんな考え方が甘かったことにすぐ気づくことになる。
〜30分後〜
「うぅ〜ん、美味し〜い♪」
ものの三十分足らずで奢りだということをいいことに、テーブルを埋め尽くすほどの皿の上の料理をたいらげた木陽。
忘れてた…。
木陽は小柄だが、家族で一番飯を食うのだ。
よく美月が木陽がたくさん食べるからウチの家計は火の車だと嘆いていた。
ヤバい…お金足りるだろうか?
お金の問題もそうだが、それとは別に勉強会の方にも問題が発生していた。
「あーやる気でねぇ…。」
櫂が勉強に飽き始めた。
それだけではない。いつのまにかタツも教科書を立てて死角を作りながらメカを弄っている。
みんな戦いとか好きなことへの集中力は凄いんだけど、他のこととなるとめっきり集中力が落ちるんだよな。
「情けないぞ貴様ら。そんなことでバカなお前達が赤点を回避し、対抗戦に出場できると思っているのか?」
「対抗戦には出るつもりだけどよ。相手が相手なだけに、いまいちやる気が出ねぇんだよな。」
櫂がそういうのも無理はない。
対抗戦の相手は前に戦ったことのあるEとF組。
それにD組を加えた計四組によるバトルロワイヤルだそうだ。
前期の対抗戦は、最底辺組の俺たちはいわゆる下位グループ内での争いになる。
今年は一年生のクラスがA〜Gまでの7つなので、中間にあたるD組は上位のA〜CのグループかE〜Gのグループどちらかを選べるらしいのだが、今回は後者の下位グループで戦うことを選択したらしい。
何故わざわざ上に上がれるかもしれない上位グループとの戦いを避けて、俺たちのグループと戦うのを選んだのか謎だが。考えてもわかるはずないので、今はどうでもいいだろう。
「確かに。今度戦うD組はともかく、EとFはヒービーとカカっさんが全員ぶっ飛ばしちゃいましたもんね。」
「それにEとFの奴らと戦った時に思ったけどよ。
あいつらそこまで実力に差がなかったように感じたからよ。案外D組の奴らも大したことねぇんじゃないかと思ってな。」
「そうっすね。それに、あれだけの鉱獣達と激戦を繰り広げた自分たちにとって、今更学生と戦うなんて拍子抜けもいいとこっすよ。」
タツはすっかり死線を乗り越えて自信…、もとい、調子に乗っていた。
「随分と余裕かましとるなぁ、G組代表さん。」
急に話しかけて来た自分たちの後ろの席にいたAHD生。
背もたれに両腕を広げ、組んだ足をテーブルに乗せていたその男は、ゆっくりと立ち上がりながらこちらを向いた。
「初めてまして〜。ワイ、D組代表の根津井広鬼いいます。どうぞよろしゅう。」
不適な笑みを浮かべながら、耳に無数のピアスをした糸目の男。
根津井と名乗るその男は明らかに今まで見たAHD生とは別のオーラを纏っていた。




