49.計画はすでに動き出していた。
「いらっしゃいませ〜。」
店の自動ドアをくぐると、一番に元気で朗らかさを感じさせる定番の挨拶が飛んでくる。
「みんな大丈夫?まさかファミレスに来る途中で通り雨に降られるなんて…。」
「時期的にはもう梅雨入りしたらしいからな。しかし、目的地に着く寸前に降り出したのは逆に幸運だったのではないか。」
「いや〜、それにしても店内にAHDの生徒が多いっすね。雨宿りやらテスト勉強目的なんでしょうか?
みんな考えることは同じってことっすね。」
俺たち五人は学校近くのファミレスに食事に来たのではなく、勉強するために来たのだ。
何故ファミレスで集まって勉強することになったか。
ことの発端はここに来る数時間前に遡る。
***
「先生!俺たちがクラス対抗戦のメンバーってどう言うことなんですか?」
学校の昼休み中、俺たち五人はホームルームの最後の方に突然クラス対抗戦のメンバーが俺たちと言い放った輪國にその理由を聞くため、職員室を訪れていた。
「おひふいへふふぁはいふぃふぁはん!」
食事の真っ最中に急に押しかけてきた俺たちに即座に対応すべく、食べたものが口の中に残ったまま、荒ぶる様子の俺たちをなだめようと喋り始めた。
「あの、先生。まずは食べたものを飲み込んでからしゃべってはいかがでしょうか?」
コクンっ。
燕に言われて先生は少し頷くと、机に置いてあった水で食事を流し込み、再度話を始めた。
「おっ、落ち着いてくださいみなさん!これにはちゃんとした訳があるんです。」
「ちゃんとした訳?それってどんな?」
「ちょっと待ってください…。こっこれです!これを見てください!」
そう言って先生が見せてきたのは、先生のスマートフォンの中に映し出された教室に取り付けられたテレビだった。
そのテレビには、どこかで聞き覚えがある声と、見覚えがあるもの達の姿が映し出されていた。
「これって…、まさか!?」
そうである。
先生が見せてきた動画の中のテレビに映っているのは、俺たちが熊型鉱獣と戦っている時の映像だった。
「なっ、なんじゃこりゃ!?どうして俺たちが任務で戦ってた時の映像が映ってるんだ!?」
「先生も驚きました。何故か私の授業中に勝手にクラスのテレビがついたとおもったら、任務に行ったはずの皆さんが映ってるじゃありませんか。」
そりゃ驚きもするだろうが、先生達よりも当の俺たちの方が驚いていた。
「先生達突然流れてきた皆さんの戦う姿を見て最初こそ驚きはしたものの、凶暴な鉱獣に果敢に立ち向かう皆さんの姿を見て途中からクラスの皆さんと必死に応援してました。
そしてその最中思いついたのです。
もう時期開催されるクラス対抗戦の代表5名に、皆さんをエントリーしたらどうかと。」
輪國先生は、目を輝かせながら俺たちを見てそう言った。
誰がこんなことをしたかはわからないが要するに、この映像を見て俺たちの実力を知り、そこでクラスの代表にすることを決めた、と言ったところだろうか?
「クラスの代表に選ばれることは光栄なことなんですけど、いいんですか?他にも代表になりたかったG組の生徒とかがいたんじゃ?」
「その件でしたら心配いりません。
元々G組はゼストの適性があるだけで、それ以外は他の学校の生徒とほぼ違いはない子ばかりです。
それゆえに、好戦的な性格な子もいなければ、戦いに向いてる能力を持った子はほぼいないに等しい。
そんな彼らは、この映像を見た授業で私が響八君達五人を対抗戦メンバーに推薦したところ、誰一人欠けることなく賛成の意を表してくれましたから。」
何故かG組の生徒達から向けられた羨望の眼差しが、他のAHD生のものより輝いていたのかを先生の説明を聞いて納得した。
「それならそうと、任務から帰って来て始めて登校した日に教えて欲しかったです。」
「それはあれですよ。皆さんにサプライズしたくて…。決して、今朝伝え忘れてたことを思い出した訳ではないですよ!?」
忘れてたんだ…。まったく、この先生は…。
「とにかくっ、もうエントリー締め切りは過ぎてますから、変更はできません。
こればっかりは、もう皆さんに出ていただくしかないんです。どうかよろしくお願いしますね。」
どこまでも勝手だなこの先生は。
「代表になるのはいいけどよ。結局この映像撮ってたの誰なんだ?」
櫂の一言で、全員が顔を見合わせる。
確かにそうだ…。
先生の強引な経緯を聞いていてすっかりと忘れていたが、あの場にいたのは俺たち5人だけ。
映像を撮る余裕があったものはおらず、しかも、カメラワークをよく見てみると、俺たち五人が揃って映ってるシーンがある。
なので、この映像を撮っていたのは俺たち以外の人物で、必然的に六人目がいたことになる。
「一体誰が…。」
考え込んでいるみんなの後ろから、一人の人物が名乗りをあげた。
「あっ、それ撮ってたのあーしだよ。」
そう言ったのはいつの間にか顕現して、俺たちの後ろに立っていた水姫だった。
「えっ!?あれ撮ってたのMIzyu様だったんすか?」
水姫に質問したタツ以外のメンバーも、驚きを隠せないと言った様子で水姫を見ていた。
思い返せば、熊型と戦う少し前から水姫が俺に喋りかけてくることがなかったような?
カメラを回し始めたのはその時からなのだろうか?
「みんな気づいてなかったかもしれないけど。
あれはあーしが能力で姿を消してみんなのことカメラで撮ってたんだよね。
やっぱりカメラマンが見えてると、緊張して本来の姿が見られない可能性があったからわざわざ姿を見せないようにしてたんだよね。」
なんだその無駄に意識の高そうなこだわりは。
「そんなことどうでもいいんだよ。それより、どうしてこんなことしたのさ?」
「決まってんじゃん。それはみんなをG組のクラス代表にするためだよ。」
「「「「「!!!」」」」」
水姫の口から出た予想外の返事に、俺たち五人は今日一番の驚きを見せた。
「どうしてそんなこと…。」
「だってみんなはこの学校で上目指してるんでしょ?だったらクラス対抗戦に出るのが、手っ取り早く上を目指せるチャンスなわけじゃん?
そこで、私たち姉妹が協力してこの映像を学校にいるクラスのみんなに見せることで、これまた手っ取り早くみんなを代表にするにふさわしい人達だって納得させたってわけ。お解り?」
先生も先生で、十分勝手だが。うちの姉妹達はそれ以上に勝手で計算高い人達だと言うことを忘れていた。
「さぁさぁ、これから対抗戦に向けてやることは山積みだよ。でも安心して。私たち姉妹が全力で全てのことをサポートするから。」
もうこちらの意見など聞く耳を持たず、計画は動き出したと言わんばかりの笑みを浮かべる水姫を見て、俺たち五人の顔は熊型と戦った時よりも不安に満ちていた。




