47.仲間達と共に、新たな明日へ
近くにあった適当な料理と飲み物を持てるだけ持って瀬川さんの元に帰って来た俺は、その場に二人で座り、食事をし始めた。
互いに緊張しているのがわかる程食事中に会話などはなく、黙ったまま食器などが出す音だけが聞こえていた。
「「あのっ!」」
唐突に二人の喋り出しが被った。
「あっ、ごめん。瀬川さん先にどうぞ。」
「ううん、たいしたことじゃないから…。響八君の方こそどうぞ。」
「いや、俺の方もそんなたいした話じゃないと言うか…。」
「「・・・・・・。」」
せっかく何か話を切り出そうとした二人だったが、話を出鼻を挫かれたせいか、またすぐに黙り、静かな食事の時間が戻って来てしまった。
小さい頃は近所に住んでいたから気軽に仲良くもしてたし、互いの家に行ってご飯を食べたりました。
その時は何気ない話をし合って楽しく食事出来ていたのに、なんで今になってこんなにも緊張するんだろう?
不思議に思っている俺の背後に一人の人物が近付いていた。
「何やってんだよ稜?」
いい感じに酔いの回って上機嫌の火鈴がやって来た。
「何しに来たのさ火鈴姉さん?」
「何したのじゃねーよ?お前がお見合いかってくらい静かに飯食ってるから、このあたしが少し空気を和ませてやろうかと思ってよ。」
「お見合いじゃないし、別に和ませなくていいからほっといてよ。」
「なんだよつれねぇーな。せっかく私が女って生き物と会話する時のコツを教えてやろうと思ったのによ。」
「女性と話すコツ?」
「なんだ気になるのか?やっぱり稜も男だなぁ。よし、そんなに知りたいなら教えてやろう。」
少し聞き返しただけなのに勝手に話を進める火鈴だが、蔑ろにするのも可哀想なので一応話に耳を傾ける。
決して女の子と話すコツを知りたいからではない。
「いいか?女と話す時はまずどこかしら女の身の回りのことを褒めるんだ。
例えば髪型とか今着てる服のこととか些細なことでいいからとにかく褒めろ。
そうしたらその話題を皮切りに、話が広がって会話が続くからよ。」
「なっなるほど…。」
意外にまともなアドバイスに、さらに火鈴の話に耳を傾け続ける。
「例えばあの嬢ちゃんの場合だとな…。普段ブレザーなのに動きやすい体操服に着替えたことで体の線がいつもより出て、なんかエロいとか。
スカートもいいけど、生足が隠れてるズボン姿もいつもと違う味わいがあっていいねとかだな。」
「いやそれ、もう発想がっていうか、目線がおっさん目線じゃん!
そんなこと言ったら会話が弾むどころか逆に這い上がれないほど地の底にめり込むわ!!」
やっぱり酔っ払いの言うことに耳を傾けた自分が間違っていた。
これからは酔っ払った火鈴の話は聞かないようにしよう。
「コラッ、火鈴。いい歳して絡み酒なんてみっともないですよ。」
「なんだよ美月姉。私がいい歳なら、私より上の美月姉は何になっちまうんだよ。」
「「「「…!!!」」」」
火鈴、なんてことを…。
この場にいる響八家の家族達は火鈴の発言に皆息を呑んだ。
どんな理由があろうとも、響八家には美月に歳の話はしてはいけないと言う暗黙の了解があるのだ。
「火鈴…。少しお酒を飲みすぎたようですね。あちらに水を用意してますので、私が連れてって差し上げましょうね…。」
「えっ、あたしは別になんとも…」
「いいからこっちにいらっしゃい。」
「ちょっ、え、なんでだよ〜。」
美月に襟を掴まれ引きずられる形で火鈴は連れて行かれ、扉の向こうへと消えていった。
さらば火鈴。あなたのことは忘れはしない。
意図せず美月のお陰で、俺たちの邪魔をしてた火鈴が消え、やっと静かな二人の時間が戻って来たと思ったのも束の間。
二人の仲を気にした他の姉妹達が、それぞれなんかしらの方法でこちらにちょっかいをかけてくる。
例えば、リクエストの多い演歌ばかり歌っていた水姫がいつのまにか甘酸っぱい青春ラブソングメドレーを歌い出したり。
突如俺の脇側からひょっこりと顔を出した木陽が俺の持って来た食事をつまみ食いしながらくつろぎ出したりし始めた。
「もう木陽、こんなところで横にならないのっ!水姫も余計なことしないの!」
村長との話は終わったのか、こちらに近づいて来た金恵にカラオケの演奏終了ボタンを押され。
木陽は金恵に背負われて、この場から退場することになった。
途中で歌を強制終了させられた水姫は、遠くでブーブーと文句を言っていた。
「姉妹達が騒がせたわね。あとは二人でごゆっくり。」
去り際に、背中越しに小さくサムズアップサインを出す金恵。
それはさしづめ、邪魔者は排除した。あとは自分で上手くやんなさいよと言われてるように感じた。
二人っきりにしてくれるのはいいが、変に気を使われると俺が瀬川さんとそう言う関係になりたいと思われてるようで、なんだか釈然としない気持ちになった。
「全く…。姉さん達はどこへ行っても騒がしくってやんなるな。」
「ふふっ。」
ため息混じりに出た俺の一言を聞いて、瀬川さんが少し笑った。
「瀬川さん?」
「ごめんね。模擬戦の時にも話したけど、本当に響八君元気になったなって。」
「元気になったって言うか、騒がしい家族がたくさん増えて静かに暮らしてられなくなったって言うか…。」
「そうなの?でもなんだか楽しそうだよ。いいなぁ、私一人っ子だから羨ましい。」
「そう?まぁ、前みたいに寂しく感じたりはしないかも。そう言う点では感謝してるかな。」
気づいたらいつのまにか、瀬川さんと自然と会話することができていた。
邪魔ばかりと思っていた姉妹達の存在が、それ自体話のタネとなって会話に花を咲かせてくれたのだ。
結果的に姉妹達のお陰で瀬川さんと普通に話すことができた。そのことだけは大いに感謝することにしよう。
「なんだ?二人で楽しそうに何を話ししているのだ?」
「二人だけでずるいっす。自分たちも混ぜてください。」
気づけば他の三人も俺たちの近くに来ていた。
それからは、みんなで鉱獣達との戦いの時のことを話し合ったり、取るに足らないくだらない話をし合って楽しいひと時を過ごした。
「もう5月も終わりだね。もう少ししたら初めての中間試験だよ。」
「それだけではないぞ侑。中間試験の他に、この学校名物行事のクラス対抗戦も控えているのだ。そのことを考えるだけで、今から腕がなる。」
「そいつで結果を出せば、すぐ上のクラスに上がれるって話だろ?どいつが相手だろうが、全員蹴散らして直ぐにでも上に上がってやるぜ。」
「カカっさん張り切ってるっすね。自分はまずクラスの代表に選ばれるように頑張らなきゃいけないっすから、そのことを考えると今からちょっと憂鬱っす。」
「おいちょっと待て。なんだその"カカっさん"ってぇーのは?」
「いつまでも君付けなのは違うかなっと思って、自分が考えた上壁君の新しいあだ名っすよ。
ほら、かみかべっすから、連続するかだけ取ってカカっさん。いいあだ名だと思いませんか?」
「何急に馴々しくあだ名なんてつけてんだビビりメガネ。ふざけてんじねぇぞ!」
「なんでっすか?鉱獣と戦った時に達夫って下の名前で呼んでくれたじゃないっすか。
最初はこんなヤンキーが自分の部に入るのかって不安だったっすけど、案外優しい人だってわかって自分嬉しかったんすよ。」
「そんなこと言ってねよ。次変なあだ名で呼んだらぶっ飛ばすからな、ビビりメガネ!」
「そのメガネがついたあだ名。っメガネかけてる人全員を敵に回す古来より不快に感じるあだ名No. 1っすからね。こっちこそ、そんなふうに言うならあんたのこと目隠れパツキンヤンキーって呼びますからね?」
「なんだと!?」
「なんすか!?」
話がいつのまにかおかしな方向に舵を切って、二人が喧嘩を始めてしまった。
それを止めるために他の三人が間に入ってなんだかんだしていると、もう変える時間だと金恵が呼びに来た。
***
「これでよしっと。鉱石は全部積んだし…。みんな、忘れ物ない?」
バスに乗り込んだみんな数分後には疲れが出て、座席で寝息を立てていた。
かく言う俺は、気絶して少し寝ていたのもあってそれほど眠くなっておらず。
ただ一人だけ金恵の呼びかけに答えた。
「大丈夫だと思うよ、金恵。」
「じゃあ出発しましょうか。」
バスがゆっくりと動き出す。
外で見送ってくれている村の人たちが見えなくなるまで、俺は手を振っていた。
時間は夕暮れ時。
夕日に照らされながら、走るバスの中で今日あったことを再度振り返る。
まさか友達と来た初任務でこんなことになるなんて、人生ってのは本当にわからないもんだと窓から見える景色を見ながら黄昏ていた。
でもみんなでなんとか乗り越えることができた今日の出来事は、一生忘れることのできない大切な思い出だ。
今日みたいに高校生活の中で、もっと多くの大切な思い出が作れていけたらいいなと俺は思った。
まだまだ、高校生活は始まったばかり。
これからどんなことが起こるのか。
楽しさと少しの不安が入り混じる中、俺はゆっくりと本日二度目の夢の世界へと誘われた。
初任務編、これにて終了。




