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45.※あくまで医療行為です。

『…ょう、…稜。まだ寝てるの?』


自宅の寝室。

薄暗い部屋のカーテンの隙間から差し込む朝日に照らされながら、一人の女性が俺の名前を呼ぶ。


『…姉ちゃん?』


死んだはずの姉が寝ている俺の顔を覗き込むように上から見下ろしていた。


『早く起きないと、学校に遅刻しちゃうよ。』


それだけ言うと、姉はいつものように朝食の支度に戻る。

その後に少しだけ寝ぼけてぼーっとした頭を起こすまで時間をおいてから着替えなどの朝の支度を済ませて朝食の席に着く。


『『いただきます。』』


朝ごはんを食べながら今日の予定などを話し合うまでが、起きてからのいつもの朝の光景だった。


『稜…。お姉ちゃん今日は遅くなるかもしれないから、自分でご飯用意してしっかり食べてね。』


こういうことも度々あった。

あの日までは……。


そう、これは夢だ…。


幾度となく繰り返してきた朝の日常。

でもこの日だけははっきりと覚えていた。

姉がいなくなる前の最後の朝。

故によく夢に見る。


この夢を見るたびに、夢だと分かっていても姉を行かせないように毎回手を伸ばす。

それでも姉は玄関の方に赴き、扉から外へ行ってしまう。

無駄だと分かっていても、夢だと分かっていても、姉に手を伸ばし続ける。

姉を…。あの日々を取り戻したくて…。

でも、ゆっくりと扉が閉まって行くのを見ることしかできない。

扉が閉まり切るのを見届けて、いつも夢から覚めていく……


***


目を覚ますと、見覚えのない部屋の布団の中で寝ていた。


「またこの夢…。」


寝起きはいつもこの夢を見るせいで寂しい気持ちになる。


寝るたびにこの夢を見るのどうにかならないものか?

姉がいなくなってからというもの、この夢を見るようになったせいで、朝をスッキリとした気分で迎えることがなくなってしまった。


「ゼスト切れがあったからかもしれないけど、憂鬱な気分と相まって、いつもより体が重く感じる。」


んっ?感じるとか以前に、実際に重いぞ?


腹部に謎の重みを感じる。重みと同時に感じるぬくもりのような暖かさの正体を確かめるべく、恐る恐る布団をめくる。


「あ〜、稜ちゃん起きた〜?」


暖かさの正体は、いつものように布団にいつの間にか潜り込んでいた木陽だった。


「木陽…、お前また…。」


「あれ〜?いつもみたいに、"こっ木陽!?お前裸で俺の布団に潜り込んでなにやってんだー"って、言わないの〜?」


「俺の本当は心の中でそう叫びたい気持ちを毎度グッと抑え込んでる気持ちを察してくれてるなら、今度からもうちょっと考えて行動してくれると助かるよ。」


「は〜い?」


疑問系なのが少し気になるが、木陽はなにもイタズラしたくていつも裸で布団に潜り込んでくる痴女というわけではない。

この裸で肌を合わせて来る行為は、怪我やゼスト切れの時にそれを木陽の能力を使って治すときにするもので。

こうやって素肌を密着させることで、回復効率を上げているのだそうだ。

最初にやられた時は確かに動揺したが、理由を知ってからは外まで騒ぎ立てるのは逆に治療してくれている木陽に申し訳ないと思い、なるべく平然を装うようになった。


だけど、歳の近い女の子がこういう風に大胆に密着したり肌を見せてこられては、完全に平然を装うといったことは難しい。


「木陽、もうだいぶ回復したみたいだからそろそろ離れてくれる?こんなところ誰かに見られたら、流石にまず…」


「ヒービー起きたっすか!?村の人たちが鉱獣を倒してくれたお礼に宴会を開いてくれるらしいっすよ…。」


突如開け放たれた引き戸に視線を移すと。

木陽とのこの状況を見たタツは少し時が止まったかのようにフリーズした後、そっと、


「お邪魔しましたっす…。」


と言って、ゆっくりと開けた戸を完全に閉めた。


「ちっ違うんだタツーーーっ!!!」


俺の渾身の叫びが村中をこだました。


***


「もーびっくりしたっすよ。姉弟で禁断のとか、死線を越えたことによる勢いで越えちゃいけない一線まで越えたとか、そういう薄い本お得意の場面に出くわしちゃったのかと思ったじゃないですか。

あーよかったよかった、ただの医療行為で。」


そんなにわざとらしく分かってますよそういうことっすよねオーラダダ漏れで言われても、なんだか説得力に欠けるのだが、本当にわかってくれたのだろうか?

俺は疑いつつ、タツと一緒に宴会が開かれるという村の中心へと向かっていた。


「でも、本当にびっくりしたんすからね?ヒービーいきなり倒れるんすもん。」


「それはシンプルにすまん。ところであの後どうなったの?」


「あぁ、それはっすね…。」


タツは俺が倒れた後のことをザックリと話し出した。


俺が倒れてすぐ村まで俺を連れて帰ったみんなは、森の奥であった件を村の人々と学校の任務を運営してる機関に連絡。

すると、村の人々からは悩みの種であった鉱獣の討伐を心から感謝してくれたらしい。


その感謝のお礼に宴会の席と、今回の任務の目的でもあった鉱石を頂けることになった。

頂く鉱石は、今回討伐したときに鉱獣が落とした核と戦った洞窟の中にあるもの全てだ。


本来ならば山奥にある洞窟は今回の任務の指定範囲外なので、鉱石をゲットするには土地の所有権を持つ人の許可がいるとのことなのだが、運良くその土地の所有者が村の村長だったこともあり、話がとんとん拍子にまとまったらしい。


「いや〜、任務の鉱石集めそっちのけで鉱獣達とバトっちゃいましたけど、なんだかんだで結果オーライっすよね。あれだけの量と質の高い鉱石ばかりっすからとんでもない価値すっよきっと。」


「あぁ。一時はどうなることかと思ったけど、みんな生きて帰ってこられたし。それだけでなんもいうことないよな。」


そんな話をしながら歩いていると、宴会が開かれるという話の公民館が見えてきた。


「あっ、響八くーん!こっちだよ〜。」


宴会の準備を手伝っていた様子の瀬川さんが、こちらに向かって大きく手を振っていた。


「瀬川さん、今行くよ!早く行こう、タツ。」


「はいっす!!」


俺たちは駆け出した。

みんなが待つ、俺たちの初任務完遂祝いの宴の席へと。

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