34.どんな手を使っても
破壊したドアを急拵えの応急処置で直し、改めてギア研究同好会が使用している教室の席についた。
「もー、いきなりドア吹き飛ばして入ってくるから何事かと思いましたけど、まさか見学希望で立ち寄ってくれたなんて嬉しい限りっす。」
ドアを破壊して怒られるのかと思いきや、見学希望だということを伝えると、伊月はすんなり俺たち二人を歓迎してくれた。
「まさか、同じクラスの伊月君…がこの同好会の人だったなんて知らなかったよ。」
「伊月君だなんてよそよそしいっすよ。同じクラスのよしみで、タツって呼んでくださいっす。」
「じゃあ俺のことも好きな風に呼んでいいよ。」
「わかったっす。じゃあ響八だから、ヒービーで。」
なんだろう。あだ名で呼び合うってすごく友達っぽくていいな。
正直最初は教室を無断使用してたりしてとんでもない奴かと思ったけど、話してみたら人当たりもよく、かなりいい人っぽい。
なにしろ、この伊月の見た目から滲み出る普通感が、この学校に来てから久しく味わう感覚でとても落ち着く。
「ねぇ、タッチンさ。この同好会って、他にメンバーいるの?」
俺が話している途中にも関わらず、珍しく真剣な表情でいきなり質問を投げかける水姫。こんな表情をする水姫は見たことがない。
「いや、この同好会のメンバーは俺一人っすよ。最近作った同好会で、しかも非公式なんで、さっき言ったように無許可でこの教室を勝手に機材とか持ち込んで改造して使ってるんすよ。」
確かに、入り口にあった監視カメラもそうだが、教室の中も、見たことない機材や道具。
複数のモニター付きのデスクトップパソコンなどがぎゅうぎゅうに詰め込まれており、部室というより秘密基地に近い感じだ。
「そうなんだ。ギア研究開発って名前の同好会だから、当然タッチンもギアを扱うんだよね?」
「そうっすけど、それが何か?」
「さっきからどうしたの水姫?タツがギアを扱うのがそんなに不思議なの?」
さっきから水姫の様子が明らかにおかしい。
タツのことをじーっと目を細めてガン見している。何か気になることでもあるんだろうか?
「だってさ、タッチン。タッチンてゼストを使えないよね?いくら見ても、これっぽっちもタッチンの体にゼストが見えないんだよね。」
「!?」
「・・・・・・。」
言われてみればたしかに。
ゼストは扱える者でないと基本的には見ることができない。
俺も特訓していくにつれて徐々に見えるようになった。
ゼストは人の生命力と同じようなもので、それが全くない人なんて存在するのだろうか?
「いやぁーバレちゃいましたか!そうなんですよ。
最近になってゼストを全く持たない、または完全に無い人が増えてるみたいで。その内の一人が自分ってわけです。」
「よくこの学校に合格できたね?どうやったの?」
「あっ、たしかに!筆記試験がすごく良かったりとか?でも、実技試験が重要だって聞いたし。」
「チッチッチッ、甘いっすよ二人とも。実力を示すのにゼストは絶対に必要じゃないんすよ。だから、自分は別の方法で実力を示したんすよ。」
あまりにも得意げに話すものだから、その方法についてとても興味が出てきた。
「それでタツ、その方法ってなんなの?」
「よくぞ聞いてくれたっす、ヒービー。それはっすね…。」
「「それは?」」
もったいぶって凄く間を使うタツに、俺と水姫も興味をさらに膨らませる。
そして、タツがようやく口を開いた。
「この学校のシステムにハッキングを仕掛けて、試験官の個人情報にアクセスして、情報を抜けるだけ抜いたんすよ。」
「・・・・・・はっ?」
「いやだから、ハッキングを…」
「いや、聞こえてないわけじゃなくて。それ犯罪じゃんか。」
「あーっはっはっはっ!君、最高にぶっ飛んでるね。あーお腹痛いwww」
堂々と犯罪を犯したことを得意げに告白したタツに俺はドン引きしていたが、水姫は何故か爆笑していた。
「最初は面接で自分が作ったギアや発明品を見せたんですけど、どれもありきたりとか、ガラクタとか、あんまし試験官の反応が良くなかったんすよ。
このままじゃまずくねと思いまして、最終手段としてその…。
試験官の先生方の知られたく無い過去なんかをちょっとだけ話したりとかしたら、快く合格にしてくれるって言ってくれたんす。」
こいつ、やっぱやべぇやつだ。
タツのやってることはただの脅迫である。
やはりこの学校に本当の意味でまともな奴はいないのかも知れない。
しかし気になることもある。そこまでしてこの学校に入りたかったのだろうか?
「だけどさ、なんでそこまでしてこの学校入りたかったわけ?なんか理由でもあんの?」
さすが水姫。ギャル特有の遠慮なしに聞きにくい話をズバっと聞くところ。そこに痺れる憧れる。
「この学校に入りたかったのは、生徒達がギアを使うところを間近で見て勉強になると思ったからっす。
ゼストやギアを扱う人は限られてるし、その人たちを集まる学校って少ないんすよ。
その点においてこの学校は自分の理想を全て兼ね備えたいわばパラダイス。
卒業生にも有名なギア職人もたくさんいますし、この学校はギア職人見習い達にとって登竜門みたいなもんなんす。」
「そんなギア職人になりたいの?」
「はいっす!」
「でもゼストが扱えないと、ギアを作るのにも学校生活の中で生き残ったり、進級するのだって難しいよ。それでもやるの?」
「どんなに難しいと言われても、不可能でも馬鹿にされても、自分はギア職人にどうしてもなりたいんす。ギア職人は自分の憧れであり、"夢"ですから!」
そう言い切るタツの目は真剣そのものだった。
やり方は正しいとは言えないし、間違っているかも知れない。
でもどうしても叶えたいという熱い思いはいやでも伝わってくる。
この学校で出会う生徒は何かしらの強い思いや目標を持っているものが多い。そんな生徒を見るたびに思う。
今の俺にそこまでの強い思いがあるか?
これから上を目指していく上で、タツのように強い気持ちを持たなければならないと改めて思った。




