30.部活と青春
「ねぇ稜ちん。部活入ろうよ!」
登校前。朝食を家族で摂っている最中に水姫は俺にそう言った。
「なんだよ水姫、藪から棒に。ってゆうか、今はいち早く上のクラスに行くためにもっと特訓しなくちゃいけないし、部活なんか入ってる暇はないよ。」
「えー、そんなんつまんないじゃん。せっかく高校入ったのに部活やんないとか、人生損してるって。
もっと一度きりの10代の高校生活という名の青春を謳歌しようよ!」
「そうは言ってもねぇ…。」
こないだの模擬戦や櫂との一件以来、これといってポイントを獲得するようなことをしていない。
聞いた話によると、他の上のクラスは前に先生が話していた学校が国から請け負っている依頼をこなして順調にポイントを稼いでいるらしい。
ポイントだけではない。
任務に成功すると報酬も払われるという話なのだから、俺はやるなら部活よりそっちがいい。
「いいじゃないですか部活動。是非やってらっしゃいな。」
意外だ。
美月姉さんはてっきり特訓派だと思ったのだが、部活動を推奨するとは。
「高校で稜君が楽しい学校生活が送れるように導いてあげるのも、私達姉妹に叶愛から託された願いの一つです。
目的を果たすために特訓するのも大切ですが、高校生の本分たる勉学や遊びを疎かにしてはいけません。」
周りで一緒に朝食を摂る他の姉妹たちも箸の手をためはしないが、美月の意見に賛成かのように無言で頷いていた。
「あんまり気乗りしないけど、みんながそこまで言うのならやってみようかなぁ。」
「じゃ決まりだね!そうと決まったら早く学校行こっ!」
まだ朝ごはんを食べ終えてないのに登校を急かす水姫に朝ごはんぐらいゆっくり食べさせてほしいと思いつつ。
登校時間が迫っていることに気づき、急いで朝食を済ませて家を後にした。
***
「はーい、みなさんおはようございま〜す。」
「はーい、先生おはーっ!今日も一日よろよろ〜。」
「あら〜?みなさん一人を除いてお返事が聞こえませんね?どうかしましたか?
もしかして、月が変わったことにより早速五月病発動ですか?」
先生が心配するほど教室の大半が静かなのには明確な理由が二つある。
一つは現在このクラスに見慣れない生徒が一人いることだ。
その生徒は牛乳瓶の底のように分厚いレンズの眼鏡をかけており、髪型はおさげ。物静かそうな見た目に相反してハイテンションに先生の朝の挨拶を返すと言う異質さを放っていた。
「ところで…。今元気にお返事してくれたそこのあなた?このクラスの生徒じゃないですよね。それにその席は…。」
気づくのが遅い。
できれば教室に入ってきた瞬間に指摘して欲しかったが、輪國先生ガチで気づいてなかったかもしれない可能性が絶対にないと言い切れないので、突っ込みたいと思う気持ちを必死に抑えた。
そう、いい加減さが服を着て喋っていると言っても過言ではないという輪國先生でさえ流石にスルーできない状態というのが、クラスが静かな理由の二つ目。
その身元不明な生徒が座っているのは普通の席ではなく、こともあろうか俺の席なのだ。
厳密にいうと、俺が開いている足の間の席が見える僅かな部分。少し狭いので、ずり落ちないように何度もお尻を俺の方へ寄せて移動させてくる。
密着率の高いこの状況に動揺を隠せない俺だが、周りのクラスメイトたちは状況が理解できず、確かに困惑していた。
大丈夫だクラスメイト諸君。俺もこの状況を何一つ理解できてなどいない。
「細かいことはどうでもいいじゃん。そんなことより、大切な青春の時間一分一秒大切にしていこっセンセッ!」
「そ、そうですね!先生も30手前のとはいえ、まだまだ二十代。青春継続中ですよね。うおーっそう言われたらなんだか力が漲ってきました。今日の合コン頑張れそうな気がしてきました。」
さっきの台詞をどう解釈したらそんなポジティブな考えに至るのか教えてもらいたい。
「それじゃあ先生は今日できる限り仕事を頑張って早く終わらして、少しでも多く合コンの準備をしたいので、さっさと今日の連絡事項を話しちゃいますね。」
今日だけでなくいつもそうしてほしいものだ。
「今日の連絡は一つだけ。部活動の仮入部期間が今週いっぱいで終了してしまうのでお気をつけください。連絡は以上です。それではこれでホームルームを終わります。」
このクラスの始まって以来といってもいいほどスムーズにに終了したホームルームとテキパキと機敏に役割を終えて教室を後にする輪國先生を見て、謎の生徒の存在など完全に忘れ去られたかのようにクラスメイトは完全に呆気に取られていた。
しかしこの謎の生徒。俺は実は誰だか知っている。
見た目はいつもの格好よりもだいぶ違ってはいるが、声と性格までは全然隠せていない。
「水姫…いい加減離れてよ。」
そう、正体は水姫姉さんだ。
どういう手段で手に入れたのかわからないが、この学校の制服に身を包み、容姿を変えてこの学校の生徒に変装しているのだ。
しれっとホームルームに参加させてしていたが、自分の座る席がないことに気づくやいなや、俺の席に無理矢理二人で座るという強行策に打って出たのだ。
「えー?本当に離れていいの?稜ちんはもう少しあーしのこのお尻の感触をじっくり味わってたいんじゃないの?」
「バッ、変なこと言うなよ水姫。誰かに聞かれて誤解されたらどうすんだよ。」
「あ〜!?稜ちん赤くなってる〜!かーわいーwww」
俺を揶揄って遊ぶ水姫から顔を逸らしタジタジになっていると、隣の席からなんとも言えぬ感情を孕んだような視線を感じた。
「!?」
恐る恐る隣を見るとそこには、確かな困惑と少しの軽蔑を見て取れる目をした瀬川さんがいた。
ちがっ、違うんだ瀬川さん!これは…違うんだあぁぁぁーーー。
今にもそう叫びたいのを我慢しつつ、どう説明していいのかすぐには思いつかず、なんとも気まずい時間を過ごすことになった…。
早いもので今日の投稿で一か月毎日投稿し続けたことになります。
まだまだ短い期間ですが、これからも長く、より多く更新できるように頑張ります。




