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29.拝啓、姉上様。

二人とも仰向けになって空を見上げた。

打ち合いあって身体中の至る所にできた腫れ上がった部分に雨が当たって気持ちいい。

どんよりとした重たい空気を感じさせる鼠色の雨雲も、今は恵みの雨をもたらす良いものに感じた。


「初めてだぜ、ここまでボコボコにされたのは…。」


「お互い様でしょ、俺だってないよ…イツッ…。」


身体中傷だらけなのに、お互い全力を尽くして感情を吐き出したからか、気分だけは爽快で、少しだけ笑みが溢れた。


「不思議な野郎だよお前は…。普通は俺みたいな不良と関わろうなんて気は起きないだろうに。」


「俺も上壁を初めて見た時はそうだった。

でも、初代さんに話を聞いて、G組のみんなを助けるのを見て、直接話してぶつかり合って…。

そうしたら、お前は悪い奴じゃないって思えたんだ。」


「……そうか。」


雨が不意に止み、雲の隙間から陽の光が差し込んだ。

その時、上壁の方に視線をやると、上壁の目元から一筋の水滴が流れるのが見えた。

それが雨が滴り落ちたものなのか、または涙なのか知る由は無い。


「俺と連むのは覚悟がいるぜ…()。」


「!? 上壁…、いや、櫂。それって…。」


聞き返そうとした途端、近くの水溜まりが弾ける音と共にこちらに駆け寄る足音が二つ聞こえた。


「響八君!」

「おーい!二人とも無事かー?」


先程まで遠くで戦いを見ていた二人が心配して近づいてきた。


「はいこれ、響八君から預かってた指輪。」


「あぁ、ごめん。ありが…イッツ!」


「大丈夫?無理に動かないで。今私の能力で二人とも直すから。」


「いやー、側から見てヒヤヒヤしたが、実に熱い喧嘩だった。私は感動したぞ。」


「ありがとう二人とも。」


駆け寄ってきた二人とのやりとりを横目に、櫂少しだけ表情が優しくなったように見えた。


「ったく…、騒がしいったらありゃしねぇぜ…。」


***


「おーい!稜ちん、火鈴ちーん!」

「お〜い!」


「あれ?水姫に木陽!?それと…。」


病院で美咲ちゃんを助けた今回の戦いのMVPとも言える二人が、なぜか学校に来ていた。

しかも、水姫に抱き抱えられている小さな人影が一つ。


「おにいちゃーん!」


「…!!! 美咲!? どうしてここに?」


水姫の胸から降り、一生懸命にこちらに駆け寄ってくる。


「美咲!どうしたんだ?それにお前、体の具合は…。」


ことの状況が読み込めない俺たちの元に、水姫と木陽が後から到着する。


「いやー、あの後看護師さんに見つかっちゃって、追い出されそうになっちゃってさ。

その時美咲たんを一人で置いておくの心配だから、連れて来ちった。てへ☆」


てへ☆ じゃ済まないほどとんでもないことしてる自覚はあるのだろうか?

色々あったのはわかるけど、入院患者連れてきちゃまずいでしょ。

後で一応病院に謝りに行くとしよう。


「お兄ちゃん!美咲ね、元気になったんだよ。ほら!」


美咲ちゃんは元気になったことをアピールするために、ガッツポーズをしながら可愛いドヤ顔をして見せた。

無垢な感じも相まってとても愛おしい。


「そうみたいだな。でも、どうして急に?」


不思議そうにしている櫂の前に、木陽が一歩前に出る。


「は〜い。それは木陽が能力で治したの〜。苦しそうで、可愛いそうだったから〜。」


律儀に挙手しながら発言している木陽を、信じられないという顔をして見る櫂。

長年治療法が見つからず、苦しい思いをしてきた病気をあっさり治したのだから、そんな表情をするのも無理はない。

後から木陽に聞いた話だが、美咲ちゃんの病気はゼストに関するものらしく。

ゼストが体内をうまく巡らない事が原因で体に様々な悪い症状が起こるといったものらしい。

それを木陽の能力を使って整え、正常に戻したらしい。


「どこの誰だか知らないが、ありがとう…。本当にありがとう。」


余程心配していたのか、嬉しさと安堵の感情が入り混じった櫂は大粒の涙を流していた。

最愛の妹が寛解したことで、大怪我をしている事を忘れているように美咲ちゃんの体を抱き寄せながら本気で喜んでいた。

その姿を見て、兄妹っていいななんて今更なことを思ったりした。


「! おにいちゃん、なんでお怪我してるの?」


今になって兄が怪我だらけなことに気づいた美咲ちゃんは周りにいる俺たちの顔を一人一人じっと見ていき、俺の番になった時に動きを止め、両手を開いて俺の前に立ち塞がった。


「おにいちゃんイジメちゃだめー。」


「へっ?」


美咲ちゃんは兄が怪我をしているのはいじめられているのだと勘違いし、おそらく怪我でボロボロになった俺を見つけ、兄をいじめた犯人だと勘違いしているのだ。


「いやっ、俺は違っ…」


「美咲。」


誤解を解こうとしている途中で櫂が美咲ちゃんの肩に手を置き、話を遮る。



「そいつはな、兄ちゃんの"友達"だ。だから悪いやつじゃないよ。」



その一言で、俺は櫂と改めて友達になれたのだと実感した。


拝啓、天国でお過ごしの姉上様。

この度高校で強面の友達ができました。

まだまだ不慣れな高校生活ではありますが、友達や家族の力を借りながらなんとかやっていけたらと思います。

どうか見守っていてください。

                 

                    敬具


G組の四人プラスαが朗らかに喋ってる場所から少し距離を置いてタバコを吸いながらこちらを眺めている火鈴がいた。

火鈴吸っているタバコの煙が天高く登っていくのを本人が見ながら。


「青春だねぇ…。」


とポツリと呟いた…。

今日はいつもの投稿時間と違って午前投稿です。

よろしくお願いします。

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