26.二転、三転
「おい!あの火だるま野郎をとっとと片付けちまえ!」
向かってくる俺に砲撃班は照準を定める。
『ビビるな稜!そのまま術者に突っ込め!』
言われ通りに真っ直ぐ相手に向かって突撃する。
「"火撃"!」
相手から放たれた火の玉が直撃し、俺を包んだ。
「響八!!!」
「馬鹿か?自ら突っ込んで行きやがった。」
攻撃が着弾した位置から燃え盛る炎の中に、ゆらめく影がひとつ。
「ん!?」
「効かねぇーーーっ!」
炎は次の瞬間、瞬く間に霧散し消え失せた。
「なんだと!?どうなってやがる。」
相手が驚くのも無理はない。俺だって実の所ものすごく驚いているのだから。
今俺の身体中を覆っている炎は火鈴姉さんの能力だ。
名は"火楽"。
発動すると、ゼストを消費して不思議な炎が発火し、体を覆い尽くす。
この炎を見に纏ってる間は身体能力全てが強化され、尚且つ下手な攻撃ならば纏った炎がそれを焼き尽くし、防御にも使える。
さっきの攻撃を受けても平気だったのはそのためだ。
『稜、今度は前に手をかざしてみろ。』
「こうでいいの?」
『いいぞ。"爆炎"。』
今度は振りかざした手の前方に複数の火球が現れた。
『よっしゃ!吹っ飛べ!!!』
火鈴の掛け声と共に火球は異なる方向へ発射される。
ドゴオォーーーンッ!!!
火球は地面に落ちると瞬間的に爆発し、その場を火の海と化した。
『あーはっはっはっ!燃えろ燃えろ〜!』
「ちょっと火鈴姉さん!これは流石にやりすぎじゃない?下手したら何人か死ぬよこれ!」
「大丈夫だって。ちゃんと手加減してるし、こんな攻撃じゃ死なねーって…多分。」
今多分って言ったよこの人!本当に大丈夫かよ…。
初めて使った技の威力と火鈴いい加減さに若干引きつつ、戦闘に意識を戻す。
「なんなんだあいつは…。おい、無事なら砲撃班!とっととやつに向かってありったけの攻撃を…」
「無事な奴なんて一人もいないぜ。」
「!?」
先ほどの俺の攻撃に皆が注意を引かれてる間に、崩れた陣形を抜けて、上壁が残りの砲撃手を全て片付けていた。
「テメェ、いつの間に!?」
「よそ見してっからだぜ。」
「おいオメーら!上壁はもう虫の息だ!コイツからさっさと片付けろ!!!」
リーダーは号令で再び上壁は集団に取り囲まれる。
「チッ!」
『おい稜。もうさっきみたいな爆撃は必要ねぇ。あのにいちゃんと合流して、残ってる連中全員ノしちまえ。』
「OK、火鈴姉さん。」
目の前に立ちはだかる敵を上がった身体能力を駆使して吹き飛ばしながら、最短で上壁のいる中央へ合流する。
周りの攻撃に注意しながら、上壁と背中合わせに構えを取る。
「おいお前!なんで来たんだ。」
「なんだって、上壁君を助けに来たんだよ。それ以外ある?」
「誰も助けろなんて言った覚えねぇぞ。勝手なことしやがって。」
「そうだよ、これは俺が勝手に助けに来ただけさ。君と同じで、勝手にG組の危機を一人で引き受けたみたいにさ。」
「ハッ、ヘリクツ言いやがって。やられんじゃねぇーぞ。」
「お互いにね。」
お互いの死角となる背後をカバーし合い、目の前に迫ってくる敵を次々と薙ぎ倒す。
二人ともほとんど一撃で相手を沈めているのを目にした敵たちは恐れをなしたのか、襲ってくる足が急激に鈍った。
敵の数も気づけば半分以下。
このままいけば勝てる。そう思った。
「そこの二人ィ、快進撃はそこまでだ!これを見な!」
リーダーが手に持ったスマホの画面をこちらに向けてくる。
その画面に映し出された映像を見て、俺達は動きを止めた。止めざるを得なかったなのだ。
画面には、病院のベッドに寝ている美咲ちゃんの姿が映っていた。
「美咲!? お前ら、なんのつもりだ!!!」
「見てわかんねぇか?人質に決まってんだろ?妹のことが大切ならわかるよなぁ?」
明らかに俺が参加して劣勢になったのに、思ったより焦らず、リーダーが逆に少し笑みを浮かべてる理由がようやくわかった。
どこまでも救いようのない卑怯なクソ野郎だ。
「畜生…。」
上壁は怒りのあまり握りしめた手の平から血が滴っていた。
「これで今度こそ終わりだなぁ!!!」
勝ちを確信した奴らはジリジリと距離を詰める。
これは非常にまずい。
どうにかしたいけど、流石にこの状況は俺の力でもどうしようも…。
テレレ〜ッ♪ テッテッテッテッテッテッテッ、テレレ〜♪
諦めかけそうになったその時だった。
誰のものかわからないが、どこかで聞いたことのある時代劇のテーマ風の着メロが鳴り響いた。
「何この音? てっゆうか、俺のめっちゃ近くでなってるんだけど!?」
今時あり得ねぇと思う人が殆どだと思うが、俺は携帯を持っていない。
使う機会がないとか買うお金がなかったからとか理由は色々あるが、今その話は置いておく。
『あーすまん、アタシの携帯だわ。』
「えっ!?」
火鈴能力を解除して実体化したかと思うと、どこから取り出したのか、スマホを耳に当て誰かと話をし出す。
「おいおい、少し遅いんじゃねぇーの?まぁいいや。いっちょサクッとやっちゃってくれや。」
それだけ言うと、火鈴は通話を終了した。
「なんだか知らねーが、次妙な動きしやがったら上壁の妹がどうなるか…」
『ギャアアアァァァッッッ!!!』
「おいっ!?おいっ、どうした!?」
何やら画面の向こう側の様子がおかしい。
急に画面が大きく揺れたかと思ったら、おそらく向こう側にいる奴らの仲間達の悲鳴と共に画面が暗転した。
「なんだ、何がどうなってる?」
慌てふためくリーダーのスマホに再び映像が映し出されたのは思っていたよりも早かった。
『もっしもーし、聞こえてるー?』
やっと応答したと思ったらなんだこの緊張感のない声は?
だが不思議だ。俺はこの声に聞き覚えがあった。
「誰だお前?上壁の妹はどうなった!?」
『美咲ちゃんならあーしの隣で寝てるぜ⭐︎なーんてね。あっ、ついでにさっきまで病室にいた怖い顔の人達も床でお寝んねしてるよ。
まぁ、やったのウチらだけどねっ!』
『本当に可愛い寝顔だね〜。天使みたいだよ〜。』
「くっ…一体どういうことだ。なんで邪魔が。」
やはり声の主は水姫と木陽の二人だ。
だがなんで二人が美咲ちゃんの病院に?
「昨日バイクで稜を迎えに行った時、にいちゃんの自宅の周りでコソコソ隠れてるやつがいたから念の為に二人に妹ちゃんの護衛をさせてたのさ。」
全然気づかなかった。昨日火鈴姉さんが妙にキョロキョロしてたのはそういうことだったのか。
おそらく、昨日上壁の周りを張り込んでいたコイツらの仲間が救急車の後をつけ、美咲のことを知ったのだろう。
『稜ちん見てるー?こっちは問題ないからもう思う存分暴れちゃっていいよー♪』
『いいよ〜。』
『あっあなたたち、病室で何をやってるんですか!?』
『おっと、新たな問題発生だ!陽ちん、ずらかるよ。え〜、現場からは以上です。それではスタジオにお返しします!』
その言葉を最後に通話は終了した。
最後に看護師さんに見つかったその後が気になりはするが、今はこっちだ。
ようやくこの騒動の終わりが見えてきた。




